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第二章 三品目 おいもの”ちゅるちゅる”
11 ”ちゅるちゅる”の”しりしり”を作ろう
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じゅわっと、むせ返るような熱気と音が竹志たちを包んだ。フライパンの中は、じゃがいもとそれについてた水分の蒸発で熱く滾っている。
塩胡椒して、時々木べらで混ぜながら、全体に火が通るようにフライパンを動かすと、じゃがいもはしゃきっとしていた状態から徐々にとろみを帯びていく。そして、しんなりしていく。
「よし、じゃあツナを入れます!」
竹志は先ほど油を出し切った缶の蓋を全開にして、中のツナをドバッと大胆に投入した。普通なら一缶で十分だが、今日は五人前なので二缶入れている。それだけ入れると、ツナもなかなかのボリュームだ。
再びじゅうじゅう音を立てていくフライパンを木べらでかき回し、じゃがいもきしめんとツナが均等になるように混ぜていく。
「卵、用意しますね」
「お願いします!」
フライパンの中身に夢中になっていて、うっかり忘れるところだった。奈々が声をかけてくれて、テキパキとボウルに卵を割り入れている。
やはり、奈々は自分で思っているよりずっと手際が良い。慣れた様子でいくつも卵を割り、きれいに溶かしていっているのが音で分かる。
(本人が器用だろうと不器用だろうと、何も恥ずかしいことじゃないのにな)
そう、思った。器用さは生まれついてのものだが、手際の良さはどれだけ経験を重ねてきたか。奈々は不器用であるジレンマを抱えながらも、ずっと家族のためにこの作業を続けてきたのだ。
それは、誇って良いことだ。どう考えたって。
「はい、溶けました」
奈々が差し出したボウルの中には、黄色い海のようになった卵が揺れている。
ちょうどフライパンの中身も混ざり合いしんなりして、良い具合だ。
「よし、卵、入ります!」
そのまま奈々にボウルを傾けるよう指示した。フライパンの湯気と熱気を浴びながら、奈々はそろりと卵をフライパンに流し入れていく。
「もっとドバッと入れちゃっていいよ」
「ど、ドバッと?」
戸惑いつつ、奈々は大胆にボウルを傾けた。中に入っていた卵がすべて滝のように流れこむ。
いいのだろうか、といった奈々の表情をよそに、竹志はがさっと大きくフライパンの中をかき回した。すでに中にあったジャガイモとツナに、卵が浸透していく。それを助けるように、さらにすべてを混ぜ合わせていく。
流れ込んだ海のような状態のまま固まろうとしていた卵が、徐々にジャガイモやツナに絡みつき、小さく少しずつ固まっていく。
「あの、卵は固めにお願いします。天ちゃん、緩い卵を食べるとすぐに赤くなっちゃうんです」
「そうなんだ。じゃあ慎重に焼こう」
卵アレルギーにも色々とある。卵そのものが危険な例もあれば、とろっとした生の状態だとアレルギー反応が出てしまう場合もある。後者の場合、きちんと火を通せば問題ない。
おそらく天は後者なのだろう。
竹志は何度もフライパンを混ぜ返して、卵の状態をよく確認した。奈々にもよく見てもらい、大丈夫だと頷いたのを見て、火を止めた。
じゅうじゅういう音がやむと、別の声が聞こえてきた。
「わぁ! ご飯できてる!」
晶だった。いつの間にか帰宅していたらしい。まだスーツ姿のままだが、その傍には天もいて、じっと竹志たちの方を見つめていた。
「……ちゅるちゅる?」
「うん、たぶんね」
竹志が頷いて見せると、天の頬がぱっと赤くなった。
「天ちゃん、皆のお箸持って、向こうで待ってようか」
「うん!」
晶に促され、天は五人分のお箸を持って行った。
その間に竹志たちは大皿と小皿を取り出し、少し前に炊き上がっていたご飯を五人分よそって、お盆に載せる。
「じゃあ、いざ実食。しりしり……いや『おいものちゅるちゅる』!」
塩胡椒して、時々木べらで混ぜながら、全体に火が通るようにフライパンを動かすと、じゃがいもはしゃきっとしていた状態から徐々にとろみを帯びていく。そして、しんなりしていく。
「よし、じゃあツナを入れます!」
竹志は先ほど油を出し切った缶の蓋を全開にして、中のツナをドバッと大胆に投入した。普通なら一缶で十分だが、今日は五人前なので二缶入れている。それだけ入れると、ツナもなかなかのボリュームだ。
再びじゅうじゅう音を立てていくフライパンを木べらでかき回し、じゃがいもきしめんとツナが均等になるように混ぜていく。
「卵、用意しますね」
「お願いします!」
フライパンの中身に夢中になっていて、うっかり忘れるところだった。奈々が声をかけてくれて、テキパキとボウルに卵を割り入れている。
やはり、奈々は自分で思っているよりずっと手際が良い。慣れた様子でいくつも卵を割り、きれいに溶かしていっているのが音で分かる。
(本人が器用だろうと不器用だろうと、何も恥ずかしいことじゃないのにな)
そう、思った。器用さは生まれついてのものだが、手際の良さはどれだけ経験を重ねてきたか。奈々は不器用であるジレンマを抱えながらも、ずっと家族のためにこの作業を続けてきたのだ。
それは、誇って良いことだ。どう考えたって。
「はい、溶けました」
奈々が差し出したボウルの中には、黄色い海のようになった卵が揺れている。
ちょうどフライパンの中身も混ざり合いしんなりして、良い具合だ。
「よし、卵、入ります!」
そのまま奈々にボウルを傾けるよう指示した。フライパンの湯気と熱気を浴びながら、奈々はそろりと卵をフライパンに流し入れていく。
「もっとドバッと入れちゃっていいよ」
「ど、ドバッと?」
戸惑いつつ、奈々は大胆にボウルを傾けた。中に入っていた卵がすべて滝のように流れこむ。
いいのだろうか、といった奈々の表情をよそに、竹志はがさっと大きくフライパンの中をかき回した。すでに中にあったジャガイモとツナに、卵が浸透していく。それを助けるように、さらにすべてを混ぜ合わせていく。
流れ込んだ海のような状態のまま固まろうとしていた卵が、徐々にジャガイモやツナに絡みつき、小さく少しずつ固まっていく。
「あの、卵は固めにお願いします。天ちゃん、緩い卵を食べるとすぐに赤くなっちゃうんです」
「そうなんだ。じゃあ慎重に焼こう」
卵アレルギーにも色々とある。卵そのものが危険な例もあれば、とろっとした生の状態だとアレルギー反応が出てしまう場合もある。後者の場合、きちんと火を通せば問題ない。
おそらく天は後者なのだろう。
竹志は何度もフライパンを混ぜ返して、卵の状態をよく確認した。奈々にもよく見てもらい、大丈夫だと頷いたのを見て、火を止めた。
じゅうじゅういう音がやむと、別の声が聞こえてきた。
「わぁ! ご飯できてる!」
晶だった。いつの間にか帰宅していたらしい。まだスーツ姿のままだが、その傍には天もいて、じっと竹志たちの方を見つめていた。
「……ちゅるちゅる?」
「うん、たぶんね」
竹志が頷いて見せると、天の頬がぱっと赤くなった。
「天ちゃん、皆のお箸持って、向こうで待ってようか」
「うん!」
晶に促され、天は五人分のお箸を持って行った。
その間に竹志たちは大皿と小皿を取り出し、少し前に炊き上がっていたご飯を五人分よそって、お盆に載せる。
「じゃあ、いざ実食。しりしり……いや『おいものちゅるちゅる』!」
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