家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

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第二章 三品目 おいもの”ちゅるちゅる”

9 奈々のこだわり

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しゅるしゅる……と軽快な音とともにじゃがいもの皮が剥けていく。
「泉さん……速いですね」
 気付くと奈々が竹志の手元を食い入るように見つめていた。
 ピーラーは奈々が使っているため、竹志は包丁で剥いていたのだ。慣れないこととはいえ、何度かやって要領はつかめているので、竹志としては特に難しいことと意識せずにやっていた。だから奈々にこんな風に感心されるとは思ってもみなかった。
「怖がって恐る恐るやると、かえって刃の滑りが悪くなって怪我しやすいから。こういうのは思い切ってやるのが一番てだけだよ」
 そう言うと、早速一つ目のじゃがいもを剥き終わり、次のジャガイモに取りかかった。
「私には難しいです。ピーラー使っても怪我したくらいなんで」
「僕だって初めて使った時は怪我したよ。怪我したからダメなんじゃなくて、慣れていくことが大事なんだって。ほらほら、じゃがいもたくさん剥かなきゃ」
 そう言って、竹志は奈々を促した。
 初めて手伝ってもらった時は手際がいいと感じ、頼もしく思ったものだが、あれ以降、奈々は手伝いに臆しているようだった。いつも、自分は不器用だからと謙遜している。
 そして、過剰なまでに竹志の手際を称賛する。
(俺なんか、単に慣れてるってだけなのになぁ)
 自転車に乗り慣れるのとまったく同じ感覚でいた竹志にとっては、奈々の反応は不可解だった。
 とはいえ、やり始めれば奈々はよく集中するし、仕事が丁寧だ。竹志が言わずとも、じゃがいもの芽まできれいにとって、まな板の上に並べてくれた。
「よし、じゃあまずは薄切りにしていきます」
 竹志は並んだジャガイモの中から一番小さなものを取った。細く切るなら、それが一番やりにくいと思ったからだ。
 ごつごつして安定しないが、軽く抑えて端を薄く切り落とす。そして今度は、その切り落とした面を底面にして、立てて切っていく。
「あ、そうやるんや……」
「うん、あんなぐらぐらした状態で何枚も薄く切るのは難しいよ。プロの料理人さんがこうしているのをテレビで見て、真似するようになったんだよ」
 目からうろこが落ちた、といった顔だ。奈々は生真面目すぎる性格から、どうもぐらぐらした中でも安定して薄く切らなければ技術ではないと思っていたらしい。
(そうか。そういう思い込みを崩してあげると、ちょっとは楽になるのかな)
 そんなことを思いながら、包丁をすとんと落としていく。落とす度、じゃがいもが1~2mmの薄さで剥がれていく。
 この薄さを維持して切っていくのは、正直、竹志も神経を使う。奈々に神々しい目で見られるような神業では決してないのだ。なので今受けている奈々の視線は少しこそばゆい。
 薄切りにし終えると、なんだかポテトチップが積み重なっているように見えた。竹志は重なったそれらをできるだけきれいに整え、更に切り分けていった。再び細切りにしている。
 切り分けられたそれらは、そうめんぐらいの細さになっていた。
 水を張ったボウルにさらしていると、本当にそうめんがゆらりと揺蕩っているようだった。
「そっか……だから『ちゅるちゅる』……」
「うん、たぶんだけどね。でもじゃがいもでちゅるちゅるだったら、かなりいい線はいきそうじゃない?」
 奈々はしっかりと頷いた。
 一つ目のじゃがいもをすべて切り終えると、竹志は残りのじゃがいもを指した。
「よし、じゃあ残りは奈々ちゃんに任せようかな」
「え!? む、無理です」
 悲鳴のような声だった。物言わぬじゃがいもを見つめながら、奈々はふるふる首を横に振っている。
「別に鮮やかな手際でやらなくたっていいんだよ? 時間がかかっても……」
「時間かかっても、私がやるともっと太くしかできないです。その……いくつかはお手伝いできますけど、全部っていうのは……」
「太く……そうか……」
 青ざめる奈々を見て、竹志は反省した。千本ノックの勢いで無理矢理経験を積ませようとしていたことが乱暴なやり方だと気付いた。これではかえって萎縮させてしまう。
「……そうだな。太くてもいいんじゃないかな」
「え?」
 奈々は竹志が切ったジャガイモを見た。そうめんほどの細さのそれらを見れば、とても同意はできないようだ。
「いいんだよ、太くても。自分がやりやすい方法で作ろう」
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