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第二章 三品目 おいもの”ちゅるちゅる”
4 たくさんのじゃがいも
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「”ちゅるちゅる”食べたい!」
じゃがいもの山を見て、天は一も二もなくそう言った。その一言に、竹志も奈々もずんと頭が重くなった。またしても、謎のキーワードが飛び出てきた。
「えーと……”ちゅるちゅる”ってなにかな?」
「うーん……ちゅるちゅるしてる! あと、しゅりしゅり!」
どうも、それ以上の説明が思い浮かばないらしい。天にとっては、”ぽろぽろ”も”くるくる”も”ちゅるちゅる”も解説語句であり、固有名詞でもあるようだ。
「うーん……わ、わかったよ。何とか、頑張るね」
竹志が冷や汗まじりの笑顔でそう答えると、天は有頂天の様子で走り回っていた。
そんな風に喜んでくれるのは、やはり嬉しい。嬉しいが……竹志はいつもいつも、自分で自分の首を絞めている気分でもあった。
笑顔のまま首を傾げる竹志に、奈々がそっと問いかけた。
「大丈夫ですか? あんまり安請け合いせん方が……」
「いや、まぁ……大丈夫だよ、たぶん」
野保の妻の「はてなのレシピ」を解いてきた苦労を思えば、不可能とは思わなかった。だが、こうもヒントが少ないと困るのもまた事実。
「奈々ちゃん、例のレシピノート、見せてもらってもいい? そこに書いてあるメニューのどれかだと思うんだ」
「わかりました」
奈々は以前野保家に滞在した後、野保の妻・千鶴子からレシピノートをもらっていた。滞在中に天や奈々が気に入ったメニューのレシピが詰まっているらしい。
それらと照らし合わせれば、天の言う『ちゅるちゅる』の正体も見えるだろう。そう思い、尋ねてみたのだった。
奈々はすぐにノートを持ってきた。「はてなのレシピノート」と同じく、丁寧な記述がノートいっぱいに見られる。
「えーと……とりあえずじゃがいもを使ったもの、だよね」
パラパラとページをめくり、材料にじゃがいもを使ったものをピックアップしていく。やはり二人の好みを把握していたのか、じゃがいものレシピはたくさんあった。
「ポテトチップ、ポテトサラダ、グラタン、煮物にポテトフライ、炒め物も……色々あるなぁ」
「あの時も、おばあちゃんが気を遣って、たくさんじゃがいも送ってくれたんです……今回みたいに」
「今回みたいに、かぁ……なるほど」
当時の千鶴子もさぞ苦労したのだろうと、胸の内で合掌した。
「でもありがたいね。スーパーで買ったらすごく重いしかさばるから。こんなにたくさん送ってくれたら買いに行かなくてすむよ」
「でも、使い切らないとあかんから大変なんじゃ……」
「うーん、まぁ……いくつかは冷凍保存しておくとして……とりあえず今日の『ちゅるちゅる』が先決かな」
そう言って再びノートをめくるものの、先ほどピックアップした中には『ちゅるちゅる』に該当しそうなものはないのだった。
「そもそもだけど……”ちゅるちゅるしてる”って何だと思う?」
「麺類やと思います。天ちゃん、基本的に長くてすすって食べるものは何でも『ちゅるちゅる』て言うんで。ラーメンとか、お蕎麦とか、うどんとか、スパゲッティも」
「そ、そうなんだ。麺類……」
竹志も奈々も、再びうーんと唸って頭を抱え込んだ。
ノートに書かれたレシピの中には、じゃがいもで出来た麺類なんてものは、見当たらないからだ。
じゃがいもの山を見て、天は一も二もなくそう言った。その一言に、竹志も奈々もずんと頭が重くなった。またしても、謎のキーワードが飛び出てきた。
「えーと……”ちゅるちゅる”ってなにかな?」
「うーん……ちゅるちゅるしてる! あと、しゅりしゅり!」
どうも、それ以上の説明が思い浮かばないらしい。天にとっては、”ぽろぽろ”も”くるくる”も”ちゅるちゅる”も解説語句であり、固有名詞でもあるようだ。
「うーん……わ、わかったよ。何とか、頑張るね」
竹志が冷や汗まじりの笑顔でそう答えると、天は有頂天の様子で走り回っていた。
そんな風に喜んでくれるのは、やはり嬉しい。嬉しいが……竹志はいつもいつも、自分で自分の首を絞めている気分でもあった。
笑顔のまま首を傾げる竹志に、奈々がそっと問いかけた。
「大丈夫ですか? あんまり安請け合いせん方が……」
「いや、まぁ……大丈夫だよ、たぶん」
野保の妻の「はてなのレシピ」を解いてきた苦労を思えば、不可能とは思わなかった。だが、こうもヒントが少ないと困るのもまた事実。
「奈々ちゃん、例のレシピノート、見せてもらってもいい? そこに書いてあるメニューのどれかだと思うんだ」
「わかりました」
奈々は以前野保家に滞在した後、野保の妻・千鶴子からレシピノートをもらっていた。滞在中に天や奈々が気に入ったメニューのレシピが詰まっているらしい。
それらと照らし合わせれば、天の言う『ちゅるちゅる』の正体も見えるだろう。そう思い、尋ねてみたのだった。
奈々はすぐにノートを持ってきた。「はてなのレシピノート」と同じく、丁寧な記述がノートいっぱいに見られる。
「えーと……とりあえずじゃがいもを使ったもの、だよね」
パラパラとページをめくり、材料にじゃがいもを使ったものをピックアップしていく。やはり二人の好みを把握していたのか、じゃがいものレシピはたくさんあった。
「ポテトチップ、ポテトサラダ、グラタン、煮物にポテトフライ、炒め物も……色々あるなぁ」
「あの時も、おばあちゃんが気を遣って、たくさんじゃがいも送ってくれたんです……今回みたいに」
「今回みたいに、かぁ……なるほど」
当時の千鶴子もさぞ苦労したのだろうと、胸の内で合掌した。
「でもありがたいね。スーパーで買ったらすごく重いしかさばるから。こんなにたくさん送ってくれたら買いに行かなくてすむよ」
「でも、使い切らないとあかんから大変なんじゃ……」
「うーん、まぁ……いくつかは冷凍保存しておくとして……とりあえず今日の『ちゅるちゅる』が先決かな」
そう言って再びノートをめくるものの、先ほどピックアップした中には『ちゅるちゅる』に該当しそうなものはないのだった。
「そもそもだけど……”ちゅるちゅるしてる”って何だと思う?」
「麺類やと思います。天ちゃん、基本的に長くてすすって食べるものは何でも『ちゅるちゅる』て言うんで。ラーメンとか、お蕎麦とか、うどんとか、スパゲッティも」
「そ、そうなんだ。麺類……」
竹志も奈々も、再びうーんと唸って頭を抱え込んだ。
ノートに書かれたレシピの中には、じゃがいもで出来た麺類なんてものは、見当たらないからだ。
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