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第二章 二品目 リンゴの”くるくる”
9 サプライズ
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「た、ただいま戻りました……! よいしょ!」
挨拶と共に、持っていた買い物袋をどさっと床に置く。あれから夕飯の買い物も、これから作るものの買い物も続けたら、あれよあれよという間にカゴ一杯になってしまった。
そして忘れていた。今日は自転車で来ていなかったことを、そして重いものをシェアできる人物はいないことを。
「ご苦労さん。大変だったろう」
野保がリビングから顔を出すと、少し遅れて奈々も玄関にやってきた。汗だくの竹志と元気溌剌とした天を交互に見て、申し訳なさそうに眉を下げる。
「ご、ごめんなさい。やっぱり私が行けば良かった……」
「え? ああ、それはいいんだよ。今日の買い物はちょっと秘密のものもあったから。ねー天ちゃん?」
「なー?」
天と二人、ニッコリ笑みをかわす竹志を、奈々はキョトンとして見つめていた。急に仲良さげにするから不思議なのだろう。首を傾げつつ、奈々は竹志が置いた買い物袋を持ち上げようとした。
「これ何が入ってるんですか?……リンゴ?」
「あ! いい、いい! 奈々ちゃんは持たなくていいから!」
「え、でも急いで冷蔵庫にしまった方が……」
「僕がやるから! 奈々ちゃんは宿題とか色々あるでしょ? ね?」
竹志は慌てて奈々から買い物袋を奪い取り、奈々を部屋へと押し出した。ぐいぐい背中を押され、奈々は戸惑っている。
「し、宿題なんて終わりましたけど……」
「じゃあ勉強しなきゃ。受験でしょ。あとのことは僕らに任せて」
「……僕ら?」
竹志の言葉に引っかかりを感じた奈々は怪訝な顔を向けたが……竹志は全部まとめて「いいからいいから」と言って、部屋に送っていった。
そして玄関に戻ってくると、天と視線を交わして、ニヤリと笑い合った。それを見た野保もまた、同様に笑みを浮かべていた。
「作れるんだな?」
「はい、任せて下さい。と言っても、野保さんが見つけた本をちょっと見せてほしいですけど……」
万が一にも奈々に相談事が聞こえてはいけないので、小声でそう言い頷き合うと、竹志は買い物袋を持ってすぐに台所に向かった。
夕飯の材料は冷蔵庫へ、そしてリンゴを含め本日のサプライズに使うものは調理台の上へ、それぞれ置いた。
それが終わると、天と共に洗面所へ行ってよく手を洗い、エプロンを身につけた。
「野保さん、レシピの載ってた本て、どれですか?」
「これだ」
野保はページを開いた状態で渡してくれた。あの物置の本棚にあった本のうちの一冊だ。まだまだ、竹志の知らない世界があそこに眠っているということらしい。
ふむふむ、とそこに書かれていることに目を通し、竹志はうんと頷いた。そして……
「よし、やるぞ」
竹志の気合いのこもった一言に、天は目をキラキラさせている。
「じゃあまずは、材料を量ります」
そう言うと、竹志は戸棚からキッチンスケールを取り出した。その上に器を置き、器の重さ分をリセットする。
レシピのページは開いて机に置いたまま、竹志は白い袋を手元に寄せた。砂糖……グラニュー糖の袋だ。
最近は使っていなかったので、先ほど新しく買った物だ。封を切って、器に流し入れていく。キッチンスケールに置かれた器は、あっという間に雪が積もったような真っ白な山が出来上がる。さらさらしているので、本当に粉雪が積もったかのようだ。
レシピに書かれていたとおりの分量を計り、次はバターを計る。そして、新しく買った物の中から茶色い粉を取り出す。シナモンパウダーだ。
今度はキッチンスケールは使わず、いつも使う計量スプーンで計った。一番小さなスプーンで計り、小さじ二分の一杯分、小皿に計り取る。
もう一つ、今度は瓶を取り出した。といっても、小さな瓶だ。ラベルにはフレッシュなレモンの写真が載っている。レモン汁の瓶だ。竹志はそれを計量カップの中に注ぐ。目盛りはいくつかあるが、今竹志が見ているのは「cc」。レシピに書かれていたのはレモン二分の一個分。おおよそ20ccほどだ。
目盛りをよく見てきっちり計ると、竹志はふっと息をついた。
「よし、じゃあこれを煮ていきます」
挨拶と共に、持っていた買い物袋をどさっと床に置く。あれから夕飯の買い物も、これから作るものの買い物も続けたら、あれよあれよという間にカゴ一杯になってしまった。
そして忘れていた。今日は自転車で来ていなかったことを、そして重いものをシェアできる人物はいないことを。
「ご苦労さん。大変だったろう」
野保がリビングから顔を出すと、少し遅れて奈々も玄関にやってきた。汗だくの竹志と元気溌剌とした天を交互に見て、申し訳なさそうに眉を下げる。
「ご、ごめんなさい。やっぱり私が行けば良かった……」
「え? ああ、それはいいんだよ。今日の買い物はちょっと秘密のものもあったから。ねー天ちゃん?」
「なー?」
天と二人、ニッコリ笑みをかわす竹志を、奈々はキョトンとして見つめていた。急に仲良さげにするから不思議なのだろう。首を傾げつつ、奈々は竹志が置いた買い物袋を持ち上げようとした。
「これ何が入ってるんですか?……リンゴ?」
「あ! いい、いい! 奈々ちゃんは持たなくていいから!」
「え、でも急いで冷蔵庫にしまった方が……」
「僕がやるから! 奈々ちゃんは宿題とか色々あるでしょ? ね?」
竹志は慌てて奈々から買い物袋を奪い取り、奈々を部屋へと押し出した。ぐいぐい背中を押され、奈々は戸惑っている。
「し、宿題なんて終わりましたけど……」
「じゃあ勉強しなきゃ。受験でしょ。あとのことは僕らに任せて」
「……僕ら?」
竹志の言葉に引っかかりを感じた奈々は怪訝な顔を向けたが……竹志は全部まとめて「いいからいいから」と言って、部屋に送っていった。
そして玄関に戻ってくると、天と視線を交わして、ニヤリと笑い合った。それを見た野保もまた、同様に笑みを浮かべていた。
「作れるんだな?」
「はい、任せて下さい。と言っても、野保さんが見つけた本をちょっと見せてほしいですけど……」
万が一にも奈々に相談事が聞こえてはいけないので、小声でそう言い頷き合うと、竹志は買い物袋を持ってすぐに台所に向かった。
夕飯の材料は冷蔵庫へ、そしてリンゴを含め本日のサプライズに使うものは調理台の上へ、それぞれ置いた。
それが終わると、天と共に洗面所へ行ってよく手を洗い、エプロンを身につけた。
「野保さん、レシピの載ってた本て、どれですか?」
「これだ」
野保はページを開いた状態で渡してくれた。あの物置の本棚にあった本のうちの一冊だ。まだまだ、竹志の知らない世界があそこに眠っているということらしい。
ふむふむ、とそこに書かれていることに目を通し、竹志はうんと頷いた。そして……
「よし、やるぞ」
竹志の気合いのこもった一言に、天は目をキラキラさせている。
「じゃあまずは、材料を量ります」
そう言うと、竹志は戸棚からキッチンスケールを取り出した。その上に器を置き、器の重さ分をリセットする。
レシピのページは開いて机に置いたまま、竹志は白い袋を手元に寄せた。砂糖……グラニュー糖の袋だ。
最近は使っていなかったので、先ほど新しく買った物だ。封を切って、器に流し入れていく。キッチンスケールに置かれた器は、あっという間に雪が積もったような真っ白な山が出来上がる。さらさらしているので、本当に粉雪が積もったかのようだ。
レシピに書かれていたとおりの分量を計り、次はバターを計る。そして、新しく買った物の中から茶色い粉を取り出す。シナモンパウダーだ。
今度はキッチンスケールは使わず、いつも使う計量スプーンで計った。一番小さなスプーンで計り、小さじ二分の一杯分、小皿に計り取る。
もう一つ、今度は瓶を取り出した。といっても、小さな瓶だ。ラベルにはフレッシュなレモンの写真が載っている。レモン汁の瓶だ。竹志はそれを計量カップの中に注ぐ。目盛りはいくつかあるが、今竹志が見ているのは「cc」。レシピに書かれていたのはレモン二分の一個分。おおよそ20ccほどだ。
目盛りをよく見てきっちり計ると、竹志はふっと息をついた。
「よし、じゃあこれを煮ていきます」
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