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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん
16 おいしいスタート
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「これ!『ぽろぽろ』や!」
天は宝石みたいに目を輝かせて、叫んだ。その一言を聞いて、竹志の胸がすぅっと軽くなり、同時に温かくなった。
「よ、良かったぁ……」
安心したのは野保も晶も同じだったらしい。ほっと息をついている様子が見えた。そして、天の隣に座る奈々もまた、同じだった。
奈々は、天がぱくぱく食べ進めている様子を見て、竹志に向けて深々と頭を下げた。
「泉さん、ありがとうございます」
「え、そ、そんなお礼を言われるようなことは……」
「あります。天ちゃんがアレコレややこしいこと言うたのに、全部付き合ってくれて、ホンマにすみません!」
「今度は謝らなくても……」
奈々が、ぐっと手のひらを握りしめた。
「……天ちゃんの面倒見るのは、私の役割なんです。それなのに……」
「それは……」
奈々が、想像以上に責任感の強い子だということはよくわかった。だが、だからこそ、この状況でなんと声をかければいいのか、わからなくなった。
宥めても頑として譲らないだろう。その通りだと言えば、さらに追い詰めてしまう。
竹志は今まで同年代か年配の人としか関わりが無かったため、どうすればいいのか困惑した。すると、静かな声が、奈々の悲痛ともとれる声を遮った。
「君の役割かもしれないが、決して、君”だけ”の役割ではない」
野保だった。奈々は目を瞬かせて、野保に目を向けた。
野保は眉間にしわを寄せた厳格そうな面持ちで、じっと奈々を見つめている。傍から見れば睨んでいるようにも見えるが、奈々はそれを怖がる様子もなく、驚いた顔で見ていた。
「一ヶ月とはいえ、一緒に暮らすんだ。それを、よく覚えておきなさい」
「……は、はい」
ぽかんとした様子で奈々がそう答えると、野保はしっかりと頷いた。
「うん。では……皆で食べようか」
そう言う野保は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべていた。その笑みにつられたのか、奈々も、ほんの少し微笑んだ。すると、隣から元気な声が聞こえた。
「これ美味しい! もっと食べたい!」
「え、えぇ……!?」
あっという間に平らげてしまった、天だった。幼児には少し多いから残すかもしれないと懸念していたというのに、まさかのおかわりの一声を頂いてしまった。
すると、それに呼応するようにするりと手が上がった。
「あ、私も天ちゃんと同じのが食べたいな」
「実は、私も気になっていた」
「野保さん、晶さんまで……わかりました。ちょっとお待ちください」
幼児の隣で、いい大人二人までがウキウキした様子で主張する。この親子の距離が近づいたのはいいことだが、こういう時にタッグを組まれることになるとは予想だにしていなかった。
竹志はため息をつきながら3人分の皿を持ち、ついでに奈々にも声をかけた。
「奈々ちゃんも、ドリアにする?」
「いえ、私は……」
「遠慮ならいらないよ? 3人分作るのも4人分作るのも同じだし」
「いえ、本当に……大丈夫、です」
奈々は、手をぶんぶん振って固辞した。そのまま箸を握りしめて、元々置いていた三色丼に向かったので、本当にいらないようだ。
「うーん、じゃあ先に食べててね」
そう言って、竹志は台所へと向かった。
手間は増えたのだが、それでも、なんだか気分がいい。初めて『はてなのレシピノート』の『???』を解き明かした時と似ている。
「これから一ヶ月、か……大変そうだなぁ」
竹志の、野保家での賑やかな夏休みが、始まろうとしていた。
天は宝石みたいに目を輝かせて、叫んだ。その一言を聞いて、竹志の胸がすぅっと軽くなり、同時に温かくなった。
「よ、良かったぁ……」
安心したのは野保も晶も同じだったらしい。ほっと息をついている様子が見えた。そして、天の隣に座る奈々もまた、同じだった。
奈々は、天がぱくぱく食べ進めている様子を見て、竹志に向けて深々と頭を下げた。
「泉さん、ありがとうございます」
「え、そ、そんなお礼を言われるようなことは……」
「あります。天ちゃんがアレコレややこしいこと言うたのに、全部付き合ってくれて、ホンマにすみません!」
「今度は謝らなくても……」
奈々が、ぐっと手のひらを握りしめた。
「……天ちゃんの面倒見るのは、私の役割なんです。それなのに……」
「それは……」
奈々が、想像以上に責任感の強い子だということはよくわかった。だが、だからこそ、この状況でなんと声をかければいいのか、わからなくなった。
宥めても頑として譲らないだろう。その通りだと言えば、さらに追い詰めてしまう。
竹志は今まで同年代か年配の人としか関わりが無かったため、どうすればいいのか困惑した。すると、静かな声が、奈々の悲痛ともとれる声を遮った。
「君の役割かもしれないが、決して、君”だけ”の役割ではない」
野保だった。奈々は目を瞬かせて、野保に目を向けた。
野保は眉間にしわを寄せた厳格そうな面持ちで、じっと奈々を見つめている。傍から見れば睨んでいるようにも見えるが、奈々はそれを怖がる様子もなく、驚いた顔で見ていた。
「一ヶ月とはいえ、一緒に暮らすんだ。それを、よく覚えておきなさい」
「……は、はい」
ぽかんとした様子で奈々がそう答えると、野保はしっかりと頷いた。
「うん。では……皆で食べようか」
そう言う野保は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべていた。その笑みにつられたのか、奈々も、ほんの少し微笑んだ。すると、隣から元気な声が聞こえた。
「これ美味しい! もっと食べたい!」
「え、えぇ……!?」
あっという間に平らげてしまった、天だった。幼児には少し多いから残すかもしれないと懸念していたというのに、まさかのおかわりの一声を頂いてしまった。
すると、それに呼応するようにするりと手が上がった。
「あ、私も天ちゃんと同じのが食べたいな」
「実は、私も気になっていた」
「野保さん、晶さんまで……わかりました。ちょっとお待ちください」
幼児の隣で、いい大人二人までがウキウキした様子で主張する。この親子の距離が近づいたのはいいことだが、こういう時にタッグを組まれることになるとは予想だにしていなかった。
竹志はため息をつきながら3人分の皿を持ち、ついでに奈々にも声をかけた。
「奈々ちゃんも、ドリアにする?」
「いえ、私は……」
「遠慮ならいらないよ? 3人分作るのも4人分作るのも同じだし」
「いえ、本当に……大丈夫、です」
奈々は、手をぶんぶん振って固辞した。そのまま箸を握りしめて、元々置いていた三色丼に向かったので、本当にいらないようだ。
「うーん、じゃあ先に食べててね」
そう言って、竹志は台所へと向かった。
手間は増えたのだが、それでも、なんだか気分がいい。初めて『はてなのレシピノート』の『???』を解き明かした時と似ている。
「これから一ヶ月、か……大変そうだなぁ」
竹志の、野保家での賑やかな夏休みが、始まろうとしていた。
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