家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん

14 ”ぽろぽろ”の正体

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 次に手に取ったのは、鶏のひき肉だ。それを鍋にがばっと投入し、その上から調味料をかけていく。少し多めに計ったしょうゆや酒・砂糖、すりおろした生姜などが鍋の底で揺れている。
 竹志はその鍋をコンロにかけると、火をつけた。青い炎が鍋の底を遠慮無くあぶっていく。
「よし、本日のメイン……きっと、これが”ぽろぽろ”だと思う」
 竹志は気を引き締めてそう言うと、挽肉と調味料を絡めるように、木べらで混ぜ始めた。細かく切るように、先ほど天が作っていたように小さな粒になるまで、丹念に肉と肉の繋がりを絶っていく。そのすべてに醤油や砂糖が絡みつくように、均等に火が通るようによく混ぜ返す。それを、何度も何度も繰り返した。
 はじめはなかなか火が通らず、”ぽろぽろ”どころかぼてっとしている様子だった。だが徐々にほぐれてきたとでも言おうか……挽肉が細かくなり、醤油を吸い込み絡ませ、香ばしい香りを鍋の底から放っている。肉も淡いピンク色から熱を吸った白っぽい色に変わってきた。
 鍋の底に溜まっていた汁気も、今は香りとなって飛んでいる。
「じゃあ、ここでもう一つ……」
 竹志は机の上に用意していたもう一つの小皿を手に取った。黄色っぽい液体で、覗き込んでみると、何やらツンとする香りが鼻孔を突いた。
「これって……お酢?」
「そう。『はてなのレシピノート』には、そう書いてます」
 そう言うと、竹志はお酢を一気に振りかけた。そして、手早く混ぜ合わせる。
「酸っぱくならないんですか?」
「ほんのちょっとだからね。むしろ、味を引き立ててくれるんだ。僕もこのレシピで初めて知ったんだよ」
 話しながらも手際良く混ぜて、仕上げにかかる竹志を、奈々は黙って見つめていた。
 竹志は小皿を取り出して、ほんの少し鍋の中身を入れて、ティースプーンを添えて差し出した。
「味見、お願いできる?」
「そ、そんな私なんか……」
「ただの味見だから。ね?」
 志がもう一度、ぐっと小皿を差し出すと、奈々はおずおずとそれを受け取った。スプーンでそっとすくい、口に運ぶ。
「どう? 覚えてる味と同じ?」
「美味しいです。でもおばちゃんの味と同じかは……何年も前やから、忘れちゃって……」
 奈々は、また申し訳なさそうに俯いてしまう。
 竹志は、しまった、と思った。数年ぶりに来ると確かに聞いた。数年前に食べたものの味など、よほど衝撃的じゃない限り覚えていることはまずないだろう。
 目の前の少女があまりにもしっかりしているからと、過度な期待をしてしまった。
「あー……えっと、味が同じかっていうか……天ちゃんに食べてもらっても、大丈夫かな?」
「あ、はい。天ちゃん、こういう味は好きそうやと思います」
「良かった」
 奈々のお墨付きをもらって竹志が安心して火を止めると、折良く炊飯器が炊き上がりを知らせた。
 竹志はいつものお茶碗ではなく、丼椀を取り出す。丼椀は4つ。もう一つ、天が食べやすいようにほんの少し深めの皿を取り出した。
 そこへ炊き上がったばかりのほくほくご飯を多めに盛る。その上から、奈々と一緒に作ったものを載せていく。黄色い炒り卵、奈々が作ったほうれん草の和え物、そして竹志が先ほど作った鶏肉の「ぽろぽろ」を載せる。
「できた! 『ぽろぽろ』もとい鶏そぼろと卵とほうれん草の、三色丼です」
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