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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん
10 新たなレシピノート
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そこには、確かにレシピが書かれていた。
ただ、大事な部分……料理名がクレヨンで塗りつぶされていて読めない。まるで『はてなのレシピノート』のようだった。
「これ……泉くんならわかるんじゃない?」
「うーん……どうでしょう」
今は亡き野保の妻が遺したレシピの『???』を解き明かした竹志ならと思ったのだろうが、竹志は曖昧な答えしか返せなかった。
クレヨンは真っ黒で、何が書かれているのか読み取るのは難しい。材料、手順から読み解くことは不可能ではないが、それは普通の料理名の話。『ぽろぽろ』という言葉とレシピ内容とを照らし合わせるならば、5分や10分で……というわけにはいかない。すべて解くには、やはり時間がかかりそうだ。
「ホンマにごめんなさい。せっかくおばちゃんが書いてくれたのに、こんなにして……!」
奈々は地の底に沈んでしまいそうな空気を醸し出している。
「そんなに謝らなくとも、千鶴子も我々も怒ったりしないよ。それに、これは……奈々ちゃんの仕業ではないだろう?」
野保がそう尋ねると、奈々はぴくんと震えて、固まった。その後の言葉を言うのに、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと声を発した。
「私が悪いんです。落ち着いたら読もうと思ってブックスタンドに置いてたら……天ちゃんが見つけて……普段からお絵かきはノートにしなさいって言ってたから、それでたぶん……」
天としても、言いつけを守ってのことだった。そう奈々は言う。
来た瞬間から奈々の表情がどこか暗い厳しいものだった理由の一つは、このことだったようだ。
この律儀な少女は、きっと野保の妻に謝りたいと思っていただろう。そしてせっかく書いてくれたノートを汚してしまった自責の念で顔向けできないなんて思っていたに違いない。
「……わかった。じゃあ、後でこれを千鶴子の仏壇に供えてくれるか? それで天ちゃんも一緒に謝ろう……きっと、それでしまいだ」
「……え?」
もっと怒られるかと思っていたのか、奈々は驚いて顔を上げていた。野保も晶も、二人ともが、怒ることもなくにこやかに奈々を見つめていたからだろうか。奈々はまだポカンとしていた。
そんな奈々の顔を、竹志が覗き込む。
「じゃあその前に、明らかにしておかないとね……”ぽろぽろ”について。奈々ちゃんも協力してくれないかな?」
「あ……はい」
目を瞬かせながら、奈々は頷いた。
4人全員で頷き合うと、今度こそ、真剣に向き合うことになったのだった。
”ぽろぽろ”の、正体について。
ただ、大事な部分……料理名がクレヨンで塗りつぶされていて読めない。まるで『はてなのレシピノート』のようだった。
「これ……泉くんならわかるんじゃない?」
「うーん……どうでしょう」
今は亡き野保の妻が遺したレシピの『???』を解き明かした竹志ならと思ったのだろうが、竹志は曖昧な答えしか返せなかった。
クレヨンは真っ黒で、何が書かれているのか読み取るのは難しい。材料、手順から読み解くことは不可能ではないが、それは普通の料理名の話。『ぽろぽろ』という言葉とレシピ内容とを照らし合わせるならば、5分や10分で……というわけにはいかない。すべて解くには、やはり時間がかかりそうだ。
「ホンマにごめんなさい。せっかくおばちゃんが書いてくれたのに、こんなにして……!」
奈々は地の底に沈んでしまいそうな空気を醸し出している。
「そんなに謝らなくとも、千鶴子も我々も怒ったりしないよ。それに、これは……奈々ちゃんの仕業ではないだろう?」
野保がそう尋ねると、奈々はぴくんと震えて、固まった。その後の言葉を言うのに、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと声を発した。
「私が悪いんです。落ち着いたら読もうと思ってブックスタンドに置いてたら……天ちゃんが見つけて……普段からお絵かきはノートにしなさいって言ってたから、それでたぶん……」
天としても、言いつけを守ってのことだった。そう奈々は言う。
来た瞬間から奈々の表情がどこか暗い厳しいものだった理由の一つは、このことだったようだ。
この律儀な少女は、きっと野保の妻に謝りたいと思っていただろう。そしてせっかく書いてくれたノートを汚してしまった自責の念で顔向けできないなんて思っていたに違いない。
「……わかった。じゃあ、後でこれを千鶴子の仏壇に供えてくれるか? それで天ちゃんも一緒に謝ろう……きっと、それでしまいだ」
「……え?」
もっと怒られるかと思っていたのか、奈々は驚いて顔を上げていた。野保も晶も、二人ともが、怒ることもなくにこやかに奈々を見つめていたからだろうか。奈々はまだポカンとしていた。
そんな奈々の顔を、竹志が覗き込む。
「じゃあその前に、明らかにしておかないとね……”ぽろぽろ”について。奈々ちゃんも協力してくれないかな?」
「あ……はい」
目を瞬かせながら、奈々は頷いた。
4人全員で頷き合うと、今度こそ、真剣に向き合うことになったのだった。
”ぽろぽろ”の、正体について。
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