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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん
9 三人の推察
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食べ始めたら、天は目の前のちらし寿司に夢中になった。”ぽろぽろ”同様、野保の妻作の料理と同じであるとわかったらしい。
そして元気よくもりもり食べた後は、すとんと眠りについたのだった。
ソファに寝かせてタオルケットをかけてあげると、ようやく全員が一息ついたのだった。
「やれやれ、以前よりも数段パワーアップしているな」
「6歳の男の子のこと舐めてたわ……」
野保と晶が口々にそう漏らすと、奈々がしゅんと項垂れた。
「すみません。うちの弟、同い年の子の中でもだいぶ自由で……」
野保と晶はしまった、という顔をしたが、もう遅い。奈々は背中に岩を背負ったように重い表情をしている。慌てて竹志が割って入った。
「な、奈々ちゃんが気にしなくていいんだって。お互いよくわかってないんだから仕方ないよ。それよりも……」
竹志はコホンと咳払いをして、話の切り替えを示した。何の話をするのか概ね予想がついているのか、奈々は真っ直ぐに竹志を見返した。
「あの……”ぽろぽろ”って、何?」
奈々は、覚悟していたように大きく深呼吸をしてから、答えた。
「わかりません」
その表情は、とてもとても、申し訳なさそうだった。
「おばちゃんが作ってくれた料理やと思うんですけど……おばちゃんと天ちゃん、変な暗号というか合い言葉みたいなん作ってて、気がついたら料理名もようわからん呼び名がついてたりしたんです」
「あぁ……天ちゃんを可愛がってたからなぁ、千鶴子は。だが、奈々ちゃんのこともよく話していたぞ。特別に合い言葉の内容を教えてくれたりは、しなかったのか?」
野保の問いに、奈々は首を横に振った。
「聞いても教えてくれへんかったんです。その代わり、美味しいって言った料理のレシピを書いたノートをくれたんです。くれたんですけど、ちょっと……」
「? どうした?」
奈々は、いよいよ誰とも視線を合わせづらそうな表情を浮かべていた。よほど気に病むことでもあるのか。
何かを言い淀んでいたが、そろそろと鞄を引き寄せ、そこから一冊のノートを取り出した。表紙には『ななちゃん・天ちゃんメニュー』と書かれてある。
竹志が見つけた『はてなのレシピノート』と同じだ。
「ああ、千鶴子のものだな」
「うん、お母さんの字ね」
野保と晶が、その文字を見て懐かしそうに微笑んだ。だが、奈々は相変わらず眉をキュッと寄せて、俯いている。そして、そのまま大きく頭を下げた。
「あの……ごめんなさい!」
また何を謝っているのか、竹志も含めて3人にはさっぱりわからなかった。だが、そろそろと渡されて、何気なくページをめくってみて、理解した。
「ああぁ……これはまた……」
ノートの中を見た3人は、揃って言葉を失った。
そして元気よくもりもり食べた後は、すとんと眠りについたのだった。
ソファに寝かせてタオルケットをかけてあげると、ようやく全員が一息ついたのだった。
「やれやれ、以前よりも数段パワーアップしているな」
「6歳の男の子のこと舐めてたわ……」
野保と晶が口々にそう漏らすと、奈々がしゅんと項垂れた。
「すみません。うちの弟、同い年の子の中でもだいぶ自由で……」
野保と晶はしまった、という顔をしたが、もう遅い。奈々は背中に岩を背負ったように重い表情をしている。慌てて竹志が割って入った。
「な、奈々ちゃんが気にしなくていいんだって。お互いよくわかってないんだから仕方ないよ。それよりも……」
竹志はコホンと咳払いをして、話の切り替えを示した。何の話をするのか概ね予想がついているのか、奈々は真っ直ぐに竹志を見返した。
「あの……”ぽろぽろ”って、何?」
奈々は、覚悟していたように大きく深呼吸をしてから、答えた。
「わかりません」
その表情は、とてもとても、申し訳なさそうだった。
「おばちゃんが作ってくれた料理やと思うんですけど……おばちゃんと天ちゃん、変な暗号というか合い言葉みたいなん作ってて、気がついたら料理名もようわからん呼び名がついてたりしたんです」
「あぁ……天ちゃんを可愛がってたからなぁ、千鶴子は。だが、奈々ちゃんのこともよく話していたぞ。特別に合い言葉の内容を教えてくれたりは、しなかったのか?」
野保の問いに、奈々は首を横に振った。
「聞いても教えてくれへんかったんです。その代わり、美味しいって言った料理のレシピを書いたノートをくれたんです。くれたんですけど、ちょっと……」
「? どうした?」
奈々は、いよいよ誰とも視線を合わせづらそうな表情を浮かべていた。よほど気に病むことでもあるのか。
何かを言い淀んでいたが、そろそろと鞄を引き寄せ、そこから一冊のノートを取り出した。表紙には『ななちゃん・天ちゃんメニュー』と書かれてある。
竹志が見つけた『はてなのレシピノート』と同じだ。
「ああ、千鶴子のものだな」
「うん、お母さんの字ね」
野保と晶が、その文字を見て懐かしそうに微笑んだ。だが、奈々は相変わらず眉をキュッと寄せて、俯いている。そして、そのまま大きく頭を下げた。
「あの……ごめんなさい!」
また何を謝っているのか、竹志も含めて3人にはさっぱりわからなかった。だが、そろそろと渡されて、何気なくページをめくってみて、理解した。
「ああぁ……これはまた……」
ノートの中を見た3人は、揃って言葉を失った。
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