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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん
8 ”ぽろぽろ”とは??
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天が言い放った言葉に、その場の全員が固まった。
『”ぽろぽろ”がない』とは、いかなる意味か?
「て、天ちゃん! 何言うてんの、色々載ってて美味しそうやんか」
奈々が慌てて言うも、天は発言を撤回するつもりはないらしく、皿の上のちらし寿司を指さしたままだ。。
「でも”ぽろぽろ”ない。おばちゃん、ごはんに”ぽろぽろ”のせてたで」
竹志は今一度、テーブルを見回す。海老、いくら、レンコン、絹さや、錦糸卵……様々用意したが、なるほど確かに”ぽろぽろ”っぽいものは寿司桶の中にはない。念のため寿司桶の横に用意したトッピング用の皿を持ち上げて、天に尋ねた。
「天ちゃん……でいいのかな? このピンク色の桜でんぶとかは”ぽろぽろ”っぽいけど、これじゃないの?」
「違う」
天は、首を横に振ってはっきりと言い切った。その様子に、奈々がみるみる青ざめていく。
「天ちゃん、こんなに色々用意してくれたのに……!」
「えーと……天ちゃんは、その”ぽろぽろ”が食べたかったの?」
そう問うと、天は大きく頷いた。よっぽど楽しみにしていたらしい。目がらんらんと輝いている。
竹志が野保と晶と視線を交わすと、二人は静かに頷いた。判断を竹志に委ねてくれたのだ。
竹志はうーんと大きく唸るそぶりを見せてから、天の前にかがみ込んで言った。
「じゃあ……”ぽろぽろ”は、晩ご飯に食べようか。僕、絶対美味しいの作るから」
「……ホンマ?」
「うん、ほんま。その代わり、後でどんな”ぽろぽろ”が食べたいのか、教えてくれる?」
「ええよ!」
「うん。じゃあ今は、お寿司食べよっか。サーモンとか、色々好きなの載っけていいよ」
「やった! 天ちゃんいっぱいたべる!」
”ぽろぽろ”が食べられるとわかったら気を良くしたのか、天はうきうきした様子でちらし寿司に箸を伸ばした。アレもコレも載せようとしていて、注意は完全に寿司に向かっているようだ。『どうしても今食べたい』と言われなくて良かったと、竹志は内心、ものすごく安堵していた。
ふと視線を移すと、奈々までが、竹志と同じような安心したような面持ちをしていた。
(なるほど、気苦労が多いんだな……)
そう思ってじっと奈々を見ていると、視線に気付いた奈々が竹志に深々と頭を下げた。弟のワガママのお詫びだろうか。
そんなこと気にしなくていい、と今日何度目かしれない言葉を言おうとして、竹志は飲み込んだ。
竹志たちがそう言っても、このしっかり者の姉は、何度でも頭を下げるのだろうと思ったからだ。
『”ぽろぽろ”がない』とは、いかなる意味か?
「て、天ちゃん! 何言うてんの、色々載ってて美味しそうやんか」
奈々が慌てて言うも、天は発言を撤回するつもりはないらしく、皿の上のちらし寿司を指さしたままだ。。
「でも”ぽろぽろ”ない。おばちゃん、ごはんに”ぽろぽろ”のせてたで」
竹志は今一度、テーブルを見回す。海老、いくら、レンコン、絹さや、錦糸卵……様々用意したが、なるほど確かに”ぽろぽろ”っぽいものは寿司桶の中にはない。念のため寿司桶の横に用意したトッピング用の皿を持ち上げて、天に尋ねた。
「天ちゃん……でいいのかな? このピンク色の桜でんぶとかは”ぽろぽろ”っぽいけど、これじゃないの?」
「違う」
天は、首を横に振ってはっきりと言い切った。その様子に、奈々がみるみる青ざめていく。
「天ちゃん、こんなに色々用意してくれたのに……!」
「えーと……天ちゃんは、その”ぽろぽろ”が食べたかったの?」
そう問うと、天は大きく頷いた。よっぽど楽しみにしていたらしい。目がらんらんと輝いている。
竹志が野保と晶と視線を交わすと、二人は静かに頷いた。判断を竹志に委ねてくれたのだ。
竹志はうーんと大きく唸るそぶりを見せてから、天の前にかがみ込んで言った。
「じゃあ……”ぽろぽろ”は、晩ご飯に食べようか。僕、絶対美味しいの作るから」
「……ホンマ?」
「うん、ほんま。その代わり、後でどんな”ぽろぽろ”が食べたいのか、教えてくれる?」
「ええよ!」
「うん。じゃあ今は、お寿司食べよっか。サーモンとか、色々好きなの載っけていいよ」
「やった! 天ちゃんいっぱいたべる!」
”ぽろぽろ”が食べられるとわかったら気を良くしたのか、天はうきうきした様子でちらし寿司に箸を伸ばした。アレもコレも載せようとしていて、注意は完全に寿司に向かっているようだ。『どうしても今食べたい』と言われなくて良かったと、竹志は内心、ものすごく安堵していた。
ふと視線を移すと、奈々までが、竹志と同じような安心したような面持ちをしていた。
(なるほど、気苦労が多いんだな……)
そう思ってじっと奈々を見ていると、視線に気付いた奈々が竹志に深々と頭を下げた。弟のワガママのお詫びだろうか。
そんなこと気にしなくていい、と今日何度目かしれない言葉を言おうとして、竹志は飲み込んだ。
竹志たちがそう言っても、このしっかり者の姉は、何度でも頭を下げるのだろうと思ったからだ。
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