家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
20 / 98
第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん

4 二週間過ぎて……

しおりを挟む
 竹志にとって怒濤の2週間が過ぎた。大学の一回生のうちは必須授業も多く、必然的に受ける試験の数も多くなる。いくつかはレポート提出で済んだとは言え、毎日何かしらの試験があり、終われば翌日以降の試験勉強……その繰り返しだった。
 ようやく一息着けたのは、試験期間の最終日、7月31日の午後だった。
「やっと終わった……」
 駐輪場へ向かう道を歩きながら、竹志はほっと息をついていた。その様子を、隣を歩いている友人の雅臣が苦笑いしながら見つめている。
「ほんと、お互いお疲れだよなぁ。大学生ってもっとのびのびしてるもんだと思ってたけどな」
「……お前は十分好きにやってるだろ」
「違う違う。俺は学生生活のための金を作ってんの。だからバイトも、学生生活の一部と言える」
 雅臣は両親との折り合いが悪く、大学の学費を奨学金とアルバイトによって捻出していた。そのために日々奔走しているので、正確には『好きにやってる』は当てはまらないのはわかっているのだが……長期バイトの傍ら、短期バイトをとっかえひっかえ入れて、色んな経験をして楽しんでいる様子を見ていると、やはり人の2倍以上、学生生活を謳歌しているように見えるのだった。
(まぁ、それが雅臣のすごいところだけど)
 そう思ったが、そんなことは雅臣本人には死んでも言いたくない竹志だった。
 竹志がため息をついていると、雅臣は興味深そうに、尋ねてきた。
「そういえば、お前がやってる、俺には絶対できないバイトは? 今日これからか?」
「今日と、明日から毎日」
「毎日!?」
 試験終わりで人通りの多い構内に、雅臣の素っ頓狂な声が響く。
「毎日って……俺でも毎日同じバイトはしないぞ? 今まで週2回だったのが、なんでまた急に毎日に? 野保さん……だっけ? なんか介護でもいるのか?」
「いや、野保さんは元気だよ。だけど8月の間、親戚の子を預かることになったらしくてさ。さすがに野保さんだけでは厳しいから、俺も毎日行くってわけ」
「親戚の子ねぇ……何年生?」
「中3と年長さんだって」
「うわ、責任重大じゃん」
「うん。ちゃんとお世話できるか本当に不安だ……俺、ベビーシッターはしたことなくて……」
 思わず情けない声を零す竹志に、雅臣は苦笑いしながらぽんと肩を叩いた。
「まぁ、そんなに心配するほど何もできないわけじゃないだろ。片方はもう中学生なんだし」
「ああ。しっかり者だって野保さんも言ってた」
「じゃあ大丈夫だろ。いつもよりちょっと洗濯と飯の量が増えるだけだって、たぶん」
「洗濯と食事の量かぁ……本当にそれだけなら、いいんだけどなぁ……」
「なんだ? どういう意味だ?」
 雅臣が首を傾げるのには、竹志は答えなかった。というより、あまり想像したくなかった。
 明日にはその親類の子たちがやってくる。それまでに家中を片付けて、姉弟の居住スペースを確保しなくてはならない。
 それなのに二週間ぶりの野保家はいったいどうなっているのか、考えると気が重かった。
「まず二人の部屋を作れるのかな……」
「作れるだろ、お前なら」
「簡単に言うなよ……」
 竹志が力なくそう言うと、雅臣はその声を面白がってケタケタ笑っていた。竹志の気分は、更にずっしりと重くなっていった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

狗神巡礼ものがたり

唄うたい
ライト文芸
「早苗さん、これだけは信じていて。 俺達は“何があっても貴女を護る”。」 ーーー 「犬居家」は先祖代々続く風習として 守り神である「狗神様」に 十年に一度、生贄を献げてきました。 犬居家の血を引きながら 女中として冷遇されていた娘・早苗は、 本家の娘の身代わりとして 狗神様への生贄に選ばれます。 早苗の前に現れた山犬の神使・仁雷と義嵐は、 生贄の試練として、 三つの聖地を巡礼するよう命じます。 早苗は神使達に導かれるまま、 狗神様の守る広い山々を巡る 旅に出ることとなりました。 ●他サイトでも公開しています。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で2/20頃非公開予定ですが読んでくださる方が増えましたので先延ばしになるかもしれませんが宜しくお願い致します。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

マンドラゴラの王様

ミドリ
キャラ文芸
覇気のない若者、秋野美空(23)は、人付き合いが苦手。 再婚した母が出ていった実家(ど田舎)でひとり暮らしをしていた。 そんなある日、裏山を散策中に見慣れぬ植物を踏んづけてしまい、葉をめくるとそこにあったのは人間の頭。驚いた美空だったが、どうやらそれが人間ではなく根っこで出来た植物だと気付き、観察日記をつけることに。 日々成長していく植物は、やがてエキゾチックな若い男性に育っていく。無垢な子供の様な彼を庇護しようと、日々奮闘する美空。 とうとう地面から解放された彼と共に暮らし始めた美空に、事件が次々と襲いかかる。 何故彼はこの場所に生えてきたのか。 何故美空はこの場所から離れたくないのか。 この地に古くから伝わる伝承と、海外から尋ねてきた怪しげな祈祷師ウドさんと関わることで、次第に全ての謎が解き明かされていく。 完結済作品です。 気弱だった美空が段々と成長していく姿を是非応援していただければと思います。

Rotkäppchen und Wolf

しんぐぅじ
ライト文芸
世界から消えようとした少女はお人好しなイケメン達出会った。 人は簡単には変われない… でもあなた達がいれば変われるかな… 根暗赤ずきんを変えるイケメン狼達とちょっと不思議な物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。