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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん
4 二週間過ぎて……
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竹志にとって怒濤の2週間が過ぎた。大学の一回生のうちは必須授業も多く、必然的に受ける試験の数も多くなる。いくつかはレポート提出で済んだとは言え、毎日何かしらの試験があり、終われば翌日以降の試験勉強……その繰り返しだった。
ようやく一息着けたのは、試験期間の最終日、7月31日の午後だった。
「やっと終わった……」
駐輪場へ向かう道を歩きながら、竹志はほっと息をついていた。その様子を、隣を歩いている友人の雅臣が苦笑いしながら見つめている。
「ほんと、お互いお疲れだよなぁ。大学生ってもっとのびのびしてるもんだと思ってたけどな」
「……お前は十分好きにやってるだろ」
「違う違う。俺は学生生活のための金を作ってんの。だからバイトも、学生生活の一部と言える」
雅臣は両親との折り合いが悪く、大学の学費を奨学金とアルバイトによって捻出していた。そのために日々奔走しているので、正確には『好きにやってる』は当てはまらないのはわかっているのだが……長期バイトの傍ら、短期バイトをとっかえひっかえ入れて、色んな経験をして楽しんでいる様子を見ていると、やはり人の2倍以上、学生生活を謳歌しているように見えるのだった。
(まぁ、それが雅臣のすごいところだけど)
そう思ったが、そんなことは雅臣本人には死んでも言いたくない竹志だった。
竹志がため息をついていると、雅臣は興味深そうに、尋ねてきた。
「そういえば、お前がやってる、俺には絶対できないバイトは? 今日これからか?」
「今日と、明日から毎日」
「毎日!?」
試験終わりで人通りの多い構内に、雅臣の素っ頓狂な声が響く。
「毎日って……俺でも毎日同じバイトはしないぞ? 今まで週2回だったのが、なんでまた急に毎日に? 野保さん……だっけ? なんか介護でもいるのか?」
「いや、野保さんは元気だよ。だけど8月の間、親戚の子を預かることになったらしくてさ。さすがに野保さんだけでは厳しいから、俺も毎日行くってわけ」
「親戚の子ねぇ……何年生?」
「中3と年長さんだって」
「うわ、責任重大じゃん」
「うん。ちゃんとお世話できるか本当に不安だ……俺、ベビーシッターはしたことなくて……」
思わず情けない声を零す竹志に、雅臣は苦笑いしながらぽんと肩を叩いた。
「まぁ、そんなに心配するほど何もできないわけじゃないだろ。片方はもう中学生なんだし」
「ああ。しっかり者だって野保さんも言ってた」
「じゃあ大丈夫だろ。いつもよりちょっと洗濯と飯の量が増えるだけだって、たぶん」
「洗濯と食事の量かぁ……本当にそれだけなら、いいんだけどなぁ……」
「なんだ? どういう意味だ?」
雅臣が首を傾げるのには、竹志は答えなかった。というより、あまり想像したくなかった。
明日にはその親類の子たちがやってくる。それまでに家中を片付けて、姉弟の居住スペースを確保しなくてはならない。
それなのに二週間ぶりの野保家はいったいどうなっているのか、考えると気が重かった。
「まず二人の部屋を作れるのかな……」
「作れるだろ、お前なら」
「簡単に言うなよ……」
竹志が力なくそう言うと、雅臣はその声を面白がってケタケタ笑っていた。竹志の気分は、更にずっしりと重くなっていった。
ようやく一息着けたのは、試験期間の最終日、7月31日の午後だった。
「やっと終わった……」
駐輪場へ向かう道を歩きながら、竹志はほっと息をついていた。その様子を、隣を歩いている友人の雅臣が苦笑いしながら見つめている。
「ほんと、お互いお疲れだよなぁ。大学生ってもっとのびのびしてるもんだと思ってたけどな」
「……お前は十分好きにやってるだろ」
「違う違う。俺は学生生活のための金を作ってんの。だからバイトも、学生生活の一部と言える」
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(まぁ、それが雅臣のすごいところだけど)
そう思ったが、そんなことは雅臣本人には死んでも言いたくない竹志だった。
竹志がため息をついていると、雅臣は興味深そうに、尋ねてきた。
「そういえば、お前がやってる、俺には絶対できないバイトは? 今日これからか?」
「今日と、明日から毎日」
「毎日!?」
試験終わりで人通りの多い構内に、雅臣の素っ頓狂な声が響く。
「毎日って……俺でも毎日同じバイトはしないぞ? 今まで週2回だったのが、なんでまた急に毎日に? 野保さん……だっけ? なんか介護でもいるのか?」
「いや、野保さんは元気だよ。だけど8月の間、親戚の子を預かることになったらしくてさ。さすがに野保さんだけでは厳しいから、俺も毎日行くってわけ」
「親戚の子ねぇ……何年生?」
「中3と年長さんだって」
「うわ、責任重大じゃん」
「うん。ちゃんとお世話できるか本当に不安だ……俺、ベビーシッターはしたことなくて……」
思わず情けない声を零す竹志に、雅臣は苦笑いしながらぽんと肩を叩いた。
「まぁ、そんなに心配するほど何もできないわけじゃないだろ。片方はもう中学生なんだし」
「ああ。しっかり者だって野保さんも言ってた」
「じゃあ大丈夫だろ。いつもよりちょっと洗濯と飯の量が増えるだけだって、たぶん」
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「作れるだろ、お前なら」
「簡単に言うなよ……」
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