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第二章 一品目 ”ぽろぽろ”ごはん

1 真夏の”はてな”のメニュー

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 烈しいばかりの陽光と蝉の声が、屋内にまで攻め入ってくる。野保家の庭に面した大きな窓は、カーテン程度では太陽の猛攻を防ぎきれず、リビングへの侵入を許してしまっている。
 クーラーを酷使してなお、室内はむせ返るように暑い。暑くて、たまらない。
 ソファの端っこ……かろうじて影になっている部分に、長身の野保がちょこんと座り、なんとか涼を取っている。とてもこの家の主とは思えないほど縮こまった姿だ。
 娘の晶はと言うと、日差しは当たるもののクーラーの風の真正面に陣取り、必死にノートパソコンを叩いている。日曜である今日も、持ち帰った仕事をこなすのに必死だ。
 二人とも、ほんの数ヶ月前までは顔を合わせることすらほぼなかったほど距離を置いていたというのに、今ではこうして休日に同じ部屋で過ごすまでになった。絶妙に目を合わせないままでいるが。それでも、これまでの二人の関係を思えば、めざましい進歩と言える。
 竹志は二人の様子を見ながら、内心、ほほえましく思っていたのだった。
 二人のそんな姿をちらりと見て、竹志は自らも熱気の中に身を投じていった。といっても、外気ではなく、湯気だが。
 目の前のコンロには、大きな鍋がかかっており、たっぷりのお湯がぐつぐつ煮立っている。暑さ知らずの元気な音を聞いて、竹志はニヤリと笑う。
「これから熱ーく茹でて、さっぱり皆を冷やしてもらうからな」
 そう誰にともなく呟いて、台所の机に置いておいた乾麺を、一気に鍋に投入する。ぴんと背筋を伸ばしたようにまっすぐだった乾麺は、お湯につかるとすぐにくたっと柔らかくなっていく。
 よしよし、なんて言いながら竹志は菜箸でそれを優しくかき混ぜる。箸に絡まる真っ白で柔らかな麺が、出来上がりを自ら告げているようだった。
 シンクに大きなザルを置き、水道の蛇口を開放する。ザーッと烈しく水が流れる中、竹志はそうめんがいっぱいに詰まっている鍋をザルに空けた。
 ザルの中のそうめんに水をザブザブかけていくと、顔を覆うほどもくもくと上っていた湯気が少しずつ消えていった。手に触れるそうめんも、ひんやりしている。
 蛇口を閉めてザルから離れると、竹志は大きめの皿と冷蔵庫に入っていたつゆを取り出した。ふだんは麦茶を入れておく容器に入っているめんつゆは冷蔵庫でしっかり冷やされている。皿に流し入れると、あっという間に皿の縁までひんやりしていった。
 そこへ、三人分に分けたそうめんを盛り付ける。その皿の横には、竹志が既に用意していた具材が並んでいる。
 皿に入っていたつゆとそうめんを絡めると、竹志はそこへ具材を載せていった。はじめにツナを、次に湯通ししたオクラを。
 オクラとツナとそうめんが重なり、その隙間からめんつゆの甘辛い香りに混ざって何やらつんとした香りも漂ってくる。
「今回も、ありがとうございます」
 竹志はそっと、机の端に置いていたノートの表紙を撫でた。このノートに書かれていたレシピを再現して、野保と晶を何度も喜ばせてきた。そして今日も、喜ばせることが出来そうだ。
 意気揚々といった調子で、竹志はそうめんの皿をお盆に載せた。
 台所からリビングに運ぶと、野保と晶が同じタイミングでぴくりと反応し、そして振り返った。
(やっぱり、親子だなぁ)
 竹志は、笑いを噛み殺しながら二人に告げた。
「お昼ご飯……はてなのそうめん、出来上がりです」
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