君はプロトタイプ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
103 / 111
Chapter6 約束

15

しおりを挟む
 お母さんは、何度も瞬きを繰り返した。それでも、私の言葉の意味がわからないようだった。
「愛、何言ってるの?」
 お母さんの目が、驚いて見開き、そして悲しそうに揺らぐ。この目を見ているといつも私まで悲しくなり、お母さんのことが可哀想で仕方なくなってしまう。
 だけど、そのせいでお母さんは今みたいになってしまった。
 愛の死を認められず、代わりに私を死なせた。
 お母さんの悲しみが少しでも和らぐなら……なんて無理矢理に自分を納得させていたけれど、それはダメなんだって教えてくれた。
 愛自身やお父さん、加地くんに、弓槻さん、それにナオヤくんが。
 だから私は、そういった今までの全部を、否定する。
「お母さん、私は『愛』じゃない」
「何馬鹿なこと言ってるの。あなたは……」
「私は『ヒトミ』。愛の妹の、ヒトミだよ」
「俺たちの、二人目の娘だ……そうだろう」
 私の言葉を後押しするように、お父さんは付け加えてくれた。私とお父さん、二人から言われて、お母さんは戸惑っていた。
「愛、じゃない……ヒトミ? そんな、だって……」
 お母さんの目がゆらゆら揺れて、視点が定まらない。私から目を逸らし、お父さんからも目を逸らしている。だけど、どこを向いたって困惑するばかり。だって、お母さんが求めている愛は、今、どこにもいないのだから。
「愛……? じゃあ、愛はどこに行ったの? なんで、死んだはずの子がいて、愛はいないの……? あ、ああぁ……!」
「やめないか!」
 パニックを起こすお母さんを、お父さんは止めようとしている。だけどお母さんはそれからも逃れようと藻掻いていた。叫び声が聞こえたのか、職員さんまで何事かと顔を見せる。
 だけど、その瞬間、急にお母さんは我に返ったように静かになった。
 何度も見てきた。スイッチが、切り替わった瞬間だ。
「ヒトミ……?」
「うん。そうだよ、お母さん。私は、ヒトミ」
 そうとわかると、お母さんは急に、しゅんとして項垂れた。
 お父さんは職員さんたちに話をして、戻ってもらっている。私は……お母さんの手を取った。
 だけど、その手はすぐに振り払われた。
「やめて」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もの×モノ 物語帳

だるまさんは転ばない
ライト文芸
この連載では、日常にある「二つのもの」をテーマに、奇妙で楽しく、時には心温まるショートショートをお届けします。 一見何の共通点もない二つのものが出会うことで、どんなドラマやユーモアが生まれるのか。 登場するものたちは時に意志を持ち、ただの「物」ではなく、彼らは物語の主役になります。彼らが持つ個性や背景が物語を作り、二つの存在の関係が思いもよらない結末に導いていきます。たった数分で読める物語の中に、予想もつかない深い感動や、ささやかな笑いを詰め込んでいます。 みなさんが日常の中で、気にもしなかった「二つのもの」。彼らが織り成す物語を楽しんでもらえると幸いです。 あなたの日常を少しだけ特別にする、新しい組み合わせのたびにどんな物語が生まれるのか一緒に楽しんでください!

ようこそ燐光喫茶室へ

豊川バンリ
ライト文芸
招かれた者の前にだけ現れる、こぢんまりとした洋館ティーサロン「フォスフォレッセンス」。 温かみのあるアンティークなしつらえの店内は、まるで貴族の秘密のサロン室のよう。 青い瞳の老執事と、黒い長髪を艷やかに翻す若執事が、少し疲れてしまったあなたを優しくおもてなしします。 極上のスイーツと香り豊かなお茶を、当店自慢の百合の小庭をご覧になりながらお楽しみください。 ※一話完結、不定期連載です。

【完結】午前2時の訪問者

衿乃 光希
ライト文芸
「生身の肉体はないけど、魂はここにいる。ーーここにいるのはボクだよね」人形芸術家の所有するマネキンに入り、家族の元へ帰ってきた11歳の少年、翔〈ボクの想いは〉他。短編3本+番外編。 遺した側の強い想いと葛藤、遺された側の戸惑いや愛情が交錯する切ない物語。 幽霊や人形が出てきますがホラー要素はありません。昨今、痛ましい災害や事故事件が増え、死後にもしこんなことがあればな、と思い書いてみました。

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

佰肆拾字のお話

紀之介
ライト文芸
「アルファポリス」への投稿は、945話で停止します。もし続きに興味がある方は、お手数ですが「ノベルアップ+」で御覧ください。m(_ _)m ---------- 140文字以内なお話。(主に会話劇) Twitterコンテンツ用に作ったお話です。 せっかく作ったのに、Twitterだと短期間で誰の目にも触れなくなってしまい 何か勿体ないので、ここに投稿しています。(^_^; 全て 独立した個別のお話なので、何処から読んで頂いても大丈夫!(笑)

処理中です...