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Chapter6 約束
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『私の分まで頑張れって言うのはちょっと違うと思うから言わないけど……ヒトミは、凄いんだよ。なりたいって思うもの、なんにでもなれるよ……なってね。家族三人、協力したら、きっとできるよね』
そう、真っ直ぐに言うと、愛は急に恥ずかしくなったかのように、そそくさと停止してしまった。愛の姿は、真っ暗なモニターの奥に消えた。だけど私の目にも耳にも、さっきの映像は刻まれている。
「これ……」
「愛のリスト端末に残っていた」
いつの間に、撮っていたんだろう。
14歳ということは、たぶん亡くなるほんの少し前だ。きっと、苦しかっただろうに。
その頃は療養施設にいて、一緒だった友達とも離れて、寂しかっただろう頃だ。友達が誰も来てくれないことが悲しくて、こっそり泣いていたのを知ってる。お父さんたちから、友達に声を掛けないように言われていた私には、どうすることもできなかったけれど。
何も知らなかったし、何もできなかった。
そんな私に、愛は、こんなメッセージを残してくれていたのか。
自分が一番苦しいはずなのに、どうしてこんなに笑えるのか、私を応援できるのか……全然わからない。
わからないから、涙が止まらない。
「愛は、自分の死を受け入れていた」
さっきまで愛がいたモニターには、今は記録さている動画ファイルの一覧が表示されている。たくさんの愛が笑って、そこにいた。
そんなたくさんの笑顔の愛を見つめながら、お父さんは言う。その横顔を見ると、優しい笑みが浮かんでいた。懐かしそうに娘を愛おしむ、父親の笑みだ。その頬は、一筋濡れていた。
「……幼いお前に、とても残酷なことを言った。その考えは、長い間、変わっていなかった。愛に、責められるまでな」
「愛に……?」
「愛は、細胞再生手術では治療が間に合わないと診断されていた。臓器ごと換えなければ今後生きていくのは難しいと……。だから俺は、一つ決断をしようとしていた……決断なんて言葉で、片付けられないことだが」
その言葉が何を意味するのか、なんとなくわかった。私が『本来の役目』を果たす時だった、ということだろう。
「それをな、愛に言ったんだ。何としてでも生きながらえさせてやる……ただし、ヒトミとは離ればなれになってしまうが、勘弁してくれと」
「愛は、なんて?」
「烈火の如く怒っていた。泣くやら喚くやら叩くやら……『ヒトミの体を貰わなきゃいけないなら嫌だ』って……そう言われたよ」
ヒトミは、知っていたんだ。私がスペアだっていうことを。両親は妹としか言っていなかったはずなのに。
驚きを隠せない私に、お父さんは、苦い笑みを零した。
「聡い子だったからな……。俺たちの態度からも、気付いていたんだろう。だからだろうな……他の誰よりも、愛は……愛こそが、お前をクローンじゃなくて妹として可愛がった。俺も……目が覚めた」
そう、真っ直ぐに言うと、愛は急に恥ずかしくなったかのように、そそくさと停止してしまった。愛の姿は、真っ暗なモニターの奥に消えた。だけど私の目にも耳にも、さっきの映像は刻まれている。
「これ……」
「愛のリスト端末に残っていた」
いつの間に、撮っていたんだろう。
14歳ということは、たぶん亡くなるほんの少し前だ。きっと、苦しかっただろうに。
その頃は療養施設にいて、一緒だった友達とも離れて、寂しかっただろう頃だ。友達が誰も来てくれないことが悲しくて、こっそり泣いていたのを知ってる。お父さんたちから、友達に声を掛けないように言われていた私には、どうすることもできなかったけれど。
何も知らなかったし、何もできなかった。
そんな私に、愛は、こんなメッセージを残してくれていたのか。
自分が一番苦しいはずなのに、どうしてこんなに笑えるのか、私を応援できるのか……全然わからない。
わからないから、涙が止まらない。
「愛は、自分の死を受け入れていた」
さっきまで愛がいたモニターには、今は記録さている動画ファイルの一覧が表示されている。たくさんの愛が笑って、そこにいた。
そんなたくさんの笑顔の愛を見つめながら、お父さんは言う。その横顔を見ると、優しい笑みが浮かんでいた。懐かしそうに娘を愛おしむ、父親の笑みだ。その頬は、一筋濡れていた。
「……幼いお前に、とても残酷なことを言った。その考えは、長い間、変わっていなかった。愛に、責められるまでな」
「愛に……?」
「愛は、細胞再生手術では治療が間に合わないと診断されていた。臓器ごと換えなければ今後生きていくのは難しいと……。だから俺は、一つ決断をしようとしていた……決断なんて言葉で、片付けられないことだが」
その言葉が何を意味するのか、なんとなくわかった。私が『本来の役目』を果たす時だった、ということだろう。
「それをな、愛に言ったんだ。何としてでも生きながらえさせてやる……ただし、ヒトミとは離ればなれになってしまうが、勘弁してくれと」
「愛は、なんて?」
「烈火の如く怒っていた。泣くやら喚くやら叩くやら……『ヒトミの体を貰わなきゃいけないなら嫌だ』って……そう言われたよ」
ヒトミは、知っていたんだ。私がスペアだっていうことを。両親は妹としか言っていなかったはずなのに。
驚きを隠せない私に、お父さんは、苦い笑みを零した。
「聡い子だったからな……。俺たちの態度からも、気付いていたんだろう。だからだろうな……他の誰よりも、愛は……愛こそが、お前をクローンじゃなくて妹として可愛がった。俺も……目が覚めた」
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