君はプロトタイプ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
60 / 111
Chapter4 つくりものの私たち

14

しおりを挟む
 部屋で着替えて、お父さんの待つ書斎へ向かう。
 いつになく険しかった表情を思い出すと、知らず、歩みが遅くなる。だけど同じ家の中。引き延ばせるわけもない。
 あっさりと書斎の前に着いてしまい、深呼吸をしてから、ドアロックのボタンを押す。
「ヒトミです」
「入りなさい」
 そう、インターホンから声がすると、ドアが静かに開いた。
 玄関ゲートと同じく中から開閉させるか、パスを持っていないと、ドア開かない。家中のドアや壁が耐火・耐震仕様になっているせいで、廊下からの声も響きにくい。こうしてインターホンを通して室内と会話をする必要がある。
 防音対策が100年前とは段違いなんだと言えば聞こえはいいけど、完全に密閉空間になってしまうのが、難点と言えば難点。
 昔の人からすれば便利になったと見えるかも知れないけれど、それはまた、新たな不便を生み出すようだ。
 もっとも、お父さんにとってはこの密閉空間は心地いいらしく、家にいるときも、よくこの書斎に籠もっている。
 久しぶりに足を踏み入れるけれど、特に変わった様子はない。
 書斎と言うとお仕事場のようなイメージを持つけれど、お父さんにとっては憩いの場だ。三方の壁をデジタルライブラリにして、一角だけ、熱帯魚を飼うアクアリウムを埋め込む。部屋の中央には広々としたデスクとリラクゼーションチェアを置き、壁のうち一面をまるまるモニターにして、映画を見たり音楽を聴いたり、好きな本を読み漁ったり……。
 昔はこの書斎は愛と私の秘密の遊び場だった。昔は常時ロックをかけていなかったから。愛がアクアリウムを壊してしまって、ライブラリに入っていた書籍データなども壊してしまってからは、今みたいに入室許可が必要になったけど。
 だから、なんだか懐かしい気持ちが浮かんだ。
 だけどそんな気持ちは、部屋の中央で座っている人を見て、吹き飛んだ。今から何を叱られるのか……そう思うと、縮こまるばかり。
「あ、あの……遅くなって、ごめんなさい」
「ん、ああ」
 お父さんの声に、とげとげしさはない。
 だけどそう返事して以降、何故か、何も言わない。
「あの、お父さん……私、何か……?」
「ん、ちょっとな……」
 よく見ると、手元でコツコツとテーブルを叩いている。何か考え事の最中なのか、それとも焦っていることでもあるのか。分からないけれど、とにかく私は、お父さんの言葉を待つしかない。
 所在なく、ドアを閉めてすぐの場所で立つ。すると……
「元気か?」
 そんな声が、聞こえてきた。か細くはあるけど、間違いなく、お父さんの声だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

心の交差。

ゆーり。
ライト文芸
―――どうしてお前は・・・結黄賊でもないのに、そんなに俺の味方をするようになったんだろうな。 ―――お前が俺の味方をしてくれるって言うんなら・・・俺も、伊達の味方でいなくちゃいけなくなるじゃんよ。 ある一人の少女に恋心を抱いていた少年、結人は、少女を追いかけ立川の高校へと進学した。 ここから桃色の生活が始まることにドキドキしていた主人公だったが、高校生になった途端に様々な事件が結人の周りに襲いかかる。 恋のライバルとも言える一見普通の優しそうな少年が現れたり、中学時代に遊びで作ったカラーセクト“結黄賊”が悪い噂を流され最悪なことに巻き込まれたり、 大切なチームである仲間が内部でも外部でも抗争を起こし、仲間の心がバラバラになりチーム崩壊へと陥ったり―――― そこから生まれる裏切りや別れ、涙や絆を描く少年たちの熱い青春物語がここに始まる。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

レディ・クローンズ

蟹虎 夜光
SF
 とある町で暮らす高校生、福瀬一之輔は実の父・功が開発したファスタ、セカンダ、サーディ、フォーサーの4人のクローンと残された資金で生活をしていた。そこで魔法少女にならないかと提案された彼女達はたくさんの人達の指導の元、立派な魔法少女へと成長していく少しおかしい物語である。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

桜の華 ― *艶やかに舞う* ―

設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が 桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。 学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの 幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。 お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして 自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを 仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。 異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは はたして―――彼に届くのだろうか? そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。 夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、 夫を許せる日は来るのだろうか? ――――――――――――――――――――――― 2024.6.1~2024.6.5 ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。 執筆開始 2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ ❦イラストは、AI生成画像自作

男女差別を禁止したら国が滅びました。

ノ木瀬 優
ライト文芸
『性別による差別を禁止する』  新たに施行された法律により、人々の生活は大きく変化していき、最終的には…………。 ※本作は、フィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

ヨッシーのショートshort

ヨッシー@
ライト文芸
あなたの知らない、見たことのない、不思議な不思議なヨッシーワールドへ、ようこそ。

処理中です...