君はプロトタイプ

真鳥カノ

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Chapter3 『愛』と『ヒトミ』

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 ナオヤくんと共有している『実験リスト』を、私の端末から開く。激甘スイーツの項目は昨日達成したから、線を引いておいた。あと残るは……
「『部活動をする』って簡単じゃない? 天宮さん、何部がいいの?」
「何部……」
 そう言われて、困ってしまった。この項目を書いたのがナオヤくんだっていうのもあるけど、私自身、特にやりたいことはないから。
「ちなみに私は美術部! 活動日は週3だから、割と気ままにできるよ」
「俺は帰宅部! 店の手伝いが部活みたいなもん」
 なんだかそのまま勧誘しているような口ぶりだった。
 入部申請はいつでもOKのはずだから、思いつくままに行ってみればいいのだとは思う。何がやりたいか? 何ができるか? 何をやってきただろうか?
 私は愛のスペアボディだったから、身体を健康に頑強に保つことが義務づけられていた。だから両親の勧めで大抵のスポーツはかじっていた。競技者としてあまり強くなりすぎない程度に、だけど。私が名を馳せるようなプレーヤーになったら、スペアにできなくなってしまうから。
 テニス、バスケ、サッカー、陸上、空手、ソフトボール、スカッシュ、クライミング、水泳……種類だけは豊富だ。
 だけど、どれも何だか気が進まない。義務だった頃の閉塞感を思い出してしまう。
「運動部は、ちょっと……」
「じゃあ文化系は? 色々あるよ。美術部以外にも、料理部とか手芸部とか文芸部とか」
「文化系……」
 どれも愛が得意そうなことばかりだ。走り回ることができなかった分、愛は机に向かい合ってできることは色々やっていた。刺繍なんて一級品で、今すぐ美術館に展示できるんじゃないかと思ったくらい。
 いいじゃないか、それだと実に『愛』らしい。だけど……
「私に、できるかな……」
 同じ遺伝子を持っているはずなのに、私はどうも手先でアレコレするのが苦手だった。それを自覚する度落ち込んで、よく、愛にも深海くんにも慰めてもらっていたっけ。
 だけどそんな風に弱音を吐く私を、弓槻さんと加地くんは笑い飛ばした。
「そんなの、できなくたっていいじゃん」
「できるから部活やってるんじゃなくて、楽しいからやってんだからさ」
「続けてるうちに上手になるかもしれないし」
「そうそう。私の昔の絵、見せようか?」
 二人は、ケタケタ笑いながらそう言う。『楽しいから』……それで、いいんだ。目から鱗だった。
 そう言われて、またわからなくなった。
「楽しいって、何だっけ?」
 そう思わずぽろっとこぼしてしまった。加地くんも弓槻さんも、きょとんとして目を見合わせている。
「あ、いやその……」
「楽しいって……なんかこう、やってたら気分が良くなって、ふわふわして、もっと続けたいって思ったり……そういうことじゃねえの?」
「うん。凄いときは徹夜もできちゃう……とか」
「もっと続けたい……」
 ますますわからない。今までに、そう思ったことが何かあったっけ?
 はたと、手元に広げたリストを見つめてみる。
 このリストを、一つ達成して、マーカーで塗りつぶした、あの瞬間を思い出した。
「このリスト……やってくの、続けたい……かな」
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