君はプロトタイプ

真鳥カノ

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Chapter2 『実験』の始まり

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「ほい。深海も」
「……はい」
 ナオヤくんは握手を求められて、握っていたレンゲを一旦置いて、それに応じた。
 首を傾げて、何度も握手した手を見ている。また、尚也くんの記憶を検索しているんだろうか。彼だったら、どう反応したのか。
 だけど加地くんはそういった事情を知らない。ただぼんやりしている人だと思ったらしい。肩を組んで、親密そうに語っている。
「今日あんま話できなくて残念だったよ。お前、なんか面白い奴だな」
「……どうも」
 そう言われると、悪い気はしていないようだった。どちらかと言うと、尚也くんが誰かにそう言う側だったから、おかしな気がしているのかもしれない。
「だけどさ、さっき血圧測定してたのって天宮さんだけじゃん? 未測定の人はちょっと……あと持病のある人とかも、ご遠慮願いますよ」
「……そうですか。では、諦めた方がよさそうですね」
 ナオヤくんは握りかけたレンゲを、すとんとテーブルに置いた。こころなしか、ものすごくしょんぼりしている。味見を止めたこっちが申し訳なくなるくらいに。
「あ、あ~……わかった。ちょっとだけ! ほんのちょび~っとだけなら、大丈夫……だと思う」
「『ほんのちょび~っと』とは、どれくらいですか?」
 加地くんが二本の指で『ほんのちょび~っと』を作っていたけれど、もっと具体的に言って欲しいらしい。
 最終的に加地くんがレンゲを動かして、先っちょに本当にちょび~っとだけ、ちょこんと載せた。つまみ食いよりも少ないくらいの量を。
「これくらいなら、健康に害はありませんか?」
「いや、まぁ人によるけど……たぶん」
「わかりました」
 ナオヤくんは頷くなり、加地くんからレンゲを受け取り、ぱくっと口に放り込む。一切の迷いなく。
「っ!」
 反射的に口を覆うナオヤくんに、私も加地くんも思わず駆け寄った。
「大丈夫か? 無理すんな」
「あの……飲み込めないなら、ここに吐き出して。見えないようにするから」
 そう、口々に言ったのだけど、次の瞬間にナオヤくんから聞こえてきたのは……
「美味しい……!」
「へ?」
 わたしたちが 目を見合わせているのにも気付かずに、ナオヤくんはもう一口、すくっていた。さっきよりもちょっとだけ多い。
「美味しいです。舌がピリピリするところが刺激的で……」
「あ、そう……?」
 普段辛いものは得意な方の私ですら音を上げた辛さなのに? しかもさっき、刺激の強いものは食べられないと言っていたのに? その口で『刺激的』と称賛するとはなんだか不可解だけど……美味しいのなら、いいのかな。そう、思わざるを得ない様子だった。
 私が迷っている間にも、ナオヤくんは食べていた。私が一口でリタイヤしかかっていた料理を、次々頬張ろうとする。
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