20 / 111
Chapter2 『実験』の始まり
12
しおりを挟む
「ち、ちょっと待って。食べられないんじゃなかったの?」
「和らげれば大丈夫かと……それに、あなたにばかり負担をかけては申し訳ない」
「私は自分から言い出したんだってば」
「あのリストは、二人で埋めていくと話し合ったので」
「リストって?」
加地くんが尋ねるので、ナオヤくんはあの『実験リスト』を開いて見せた。上から下までじーっと見ると、加地くんは瞬きを繰り返していた。
「何だこれ。こんなの実験になるのか?」
「僕にとっては、十分試す価値があります」
「えー……俺だったらこれ、一日あったら全部できそう」
「全部できたのなら、新しい項目を追加すればいいんです。実験はいくつも繰り返して、検証していくものですから。検証の材料はいくらあったって、いいんです」
加地くんは今度こそ、ぽかんとしていた。私も同じ気分だ。
その強固な意志は、この無表情な顔のいったいどこから湧いてくるんだろう。
「はぁ……まぁよくわかんねえけど、頑張れな。ところで実験て何のための実験なんだ?」 しまった、と思った。
『私たちがよりオリジナルに近づくための実験』だなんて、言えない。私はともかく、ナオヤくんはクローンとして登録されていない上に、オリジナルとしてここにいるんだから。
実験のことを話したら、違法な存在だってことまで知られてしまうかもしれない。
案の定、ナオヤくんは固まっている。うまい言い訳を考えているのだろうけど、深海くんならどう切り抜けたのかといった記憶を検索して、見つからないんだろう。
彼曰くの『脳の処理』が追いついていないんだ。
私が、何か言わないと……!
「せ、青春の実験だよ」
「え?」
「『青春の実験』? 何それ?」
虚を突かれた顔をしているナオヤくんに、私は頷いて伝えた。ここは任せろ、と。
「えーとね……そう。高校を卒業したら大学でしょ。専門的なことを勉強するのに、私たち、まだどんなことをやりたいとか興味があるとか、わからなくて……だから、今のうちに色々試そうって話になったの」
「つまり『自分探し』とか『個性の確立』をやりたいんだな。いいじゃん、それ。応援する」
「ありがとう!」
加地くんは豪快に笑って、手を差し出した。それが握手を求めているんだと気付くのに、少し時間がかかった。
手を握り返すと、逞しい笑みが降ってくるようだった。
「和らげれば大丈夫かと……それに、あなたにばかり負担をかけては申し訳ない」
「私は自分から言い出したんだってば」
「あのリストは、二人で埋めていくと話し合ったので」
「リストって?」
加地くんが尋ねるので、ナオヤくんはあの『実験リスト』を開いて見せた。上から下までじーっと見ると、加地くんは瞬きを繰り返していた。
「何だこれ。こんなの実験になるのか?」
「僕にとっては、十分試す価値があります」
「えー……俺だったらこれ、一日あったら全部できそう」
「全部できたのなら、新しい項目を追加すればいいんです。実験はいくつも繰り返して、検証していくものですから。検証の材料はいくらあったって、いいんです」
加地くんは今度こそ、ぽかんとしていた。私も同じ気分だ。
その強固な意志は、この無表情な顔のいったいどこから湧いてくるんだろう。
「はぁ……まぁよくわかんねえけど、頑張れな。ところで実験て何のための実験なんだ?」 しまった、と思った。
『私たちがよりオリジナルに近づくための実験』だなんて、言えない。私はともかく、ナオヤくんはクローンとして登録されていない上に、オリジナルとしてここにいるんだから。
実験のことを話したら、違法な存在だってことまで知られてしまうかもしれない。
案の定、ナオヤくんは固まっている。うまい言い訳を考えているのだろうけど、深海くんならどう切り抜けたのかといった記憶を検索して、見つからないんだろう。
彼曰くの『脳の処理』が追いついていないんだ。
私が、何か言わないと……!
「せ、青春の実験だよ」
「え?」
「『青春の実験』? 何それ?」
虚を突かれた顔をしているナオヤくんに、私は頷いて伝えた。ここは任せろ、と。
「えーとね……そう。高校を卒業したら大学でしょ。専門的なことを勉強するのに、私たち、まだどんなことをやりたいとか興味があるとか、わからなくて……だから、今のうちに色々試そうって話になったの」
「つまり『自分探し』とか『個性の確立』をやりたいんだな。いいじゃん、それ。応援する」
「ありがとう!」
加地くんは豪快に笑って、手を差し出した。それが握手を求めているんだと気付くのに、少し時間がかかった。
手を握り返すと、逞しい笑みが降ってくるようだった。
20
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】改稿版 ベビー・アレルギー
キツナ月。
ライト文芸
2023/01/02
ランキング1位いただきました🙌
感謝!!
生まれたての命に恐怖する私は、人間失格ですか。
ーーー
ある日。
悩める女性の元へ、不思議なメモを携えたベビーがやって来る。
【この子を預かってください。
三ヶ月後、あなたに審判が下されます】
このベビー、何者。
そして、お隣さんとの恋の行方は──。
アラサー女子と高飛車ベビーが織りなすドタバタ泣き笑いライフ!
九尾の狐、監禁しました
八神響
ライト文芸
男はとある妖怪を探していた。
その妖怪の存在が男の人生を大きく変えたからだ。
妖怪を見つけて初めに言う言葉はもう決めてある。
そして大学4回生になる前の春休み、とうとう男は目当ての妖怪と出会う。
元陰陽師の大学生、大黒真が九尾の狐、ハクを監禁して(一方的に)愛を深めていく話。
深見小夜子のいかがお過ごしですか?
花柳 都子
ライト文芸
小説家・深見小夜子の深夜ラジオは「たった一言で世界を変える」と有名。日常のあんなことやこんなこと、深見小夜子の手にかかれば180度見方が変わる。孤独で寂しくて眠れないあなたも、夜更けの静かな時間を共有したいご夫婦も、勉強や遊びに忙しいみんなも、少しだけ耳を傾けてみませんか?安心してください。このラジオはあなたの『主観』を変えるものではありません。「そういう考え方もあるんだな」そんなスタンスで聴いていただきたいお話ばかりです。『あなた』は『あなた』を大事に、だけど決して『あなたはあなただけではない』ことを忘れないでください。
さあ、眠れない夜のお供に、深見小夜子のラジオはいかがですか?
夏休みの夕闇~刑務所編~
苫都千珠(とまとちず)
ライト文芸
殺人を犯して死刑を待つ22歳の元大学生、灰谷ヤミ。
時空を超えて世界を救う、魔法使いの火置ユウ。
運命のいたずらによって「刑務所の独房」で出会った二人。
二人はお互いの人生について、思想について、死生観について会話をしながら少しずつ距離を縮めていく。
しかし刑務所を管理する「カミサマ」の存在が、二人の運命を思わぬ方向へと導いて……。
なぜヤミは殺人を犯したのか?
なぜユウはこの独房にやってきたのか?
謎の刑務所を管理する「カミサマ」の思惑とは?
二人の長い長い夏休みが始まろうとしていた……。
<登場人物>
灰谷ヤミ(22)
死刑囚。夕闇色の髪、金色に見える瞳を持ち、長身で細身の体型。大学2年生のときに殺人を犯し、死刑を言い渡される。
「悲劇的な人生」の彼は、10歳のときからずっと自分だけの神様を信じて生きてきた。いつか神様の元で神様に愛されることが彼の夢。
物腰穏やかで素直、思慮深い性格だが、一つのものを信じ通す異常な執着心を垣間見せる。
好きなものは、海と空と猫と本。嫌いなものは、うわべだけの会話と考えなしに話す人。
火置ユウ(21)
黒くウエーブしたセミロングの髪、宇宙色の瞳、やや小柄な魔法使い。「時空の魔女」として異なる時空を行き来しながら、崩壊しそうな世界を直す仕事をしている。
11歳の時に時空の渦に巻き込まれて魔法使いになってからというもの、あらゆる世界を旅しながら魔法の腕を磨いてきた。
個人主義者でプライドが高い。感受性が高いところが強みでもあり、弱みでもある。
好きなものは、パンとチーズと魔法と見たことのない景色。嫌いなものは、全体主義と多数決。
カミサマ
ヤミが囚われている刑務所を管理する謎の人物。
2メートルもあろうかというほどの長身に長い手足。ひょろっとした体型。顔は若く見えるが、髪もヒゲも真っ白。ヒゲは豊かで、いわゆる『神様っぽい』白づくめの装束に身を包む。
見ている人を不安にさせるアンバランスな出で立ち。
※重複投稿作品です
※外部URLでも投稿しています。お好きな方で御覧ください。
浮遊霊が青春してもいいですか?
釈 余白(しやく)
ライト文芸
本田英介はマンガや読書が好きなごく普通の高校生。平穏で退屈且つ怠惰な高校生活を送っていたが、ある時川に落ちて溺れてしまう。川から引き揚げられた後、英介が目を覚ましてみると友人である大矢紀夫が出迎えてくれたが、視界には今までと異なる景色が見えたのだ。
何ということか、英介は事もあろうに溺れて命を落とし幽霊になっていたのだ。生前との違いに戸惑いながらも、他の幽霊や、幽霊を見ることのできる少女との出会いをきっかけに今更ながら徐々に変わっていく。
この物語は、生きていた頃よりも前向きに生きる?そんな英介の幽霊生活を描いた青春?恋愛?ファンタジーです。
日本ワインに酔いしれて
三枝 優
ライト文芸
日本のワインがおいしくて、おいしくて。
それに合わせるおいしい料理も・・・
そんなお話です。
ちなみに、飲んだことのあるワインしか出しません。
カクヨム・小説家になろうでも連絡しています
カインドネス・リベンジ 彼の想いが届くその日まで ~悲劇からはじまる復讐劇 誰も予想できないクライマックス~
桜 こころ
ライト文芸
炎に包まれた家、燃え尽きた思い出たち、決して戻ることのない家族。
少年の悲しみは計り知れない。
すべては14歳のあのときにはじまった。
20年の年月が流れ、当事者以外は誰もあの事件のことなど覚えていなかった。
それは突然やってくる。復讐という名を引き連れて……
幼き日のたった一度の間違いが、彼らの人生に付きまとい追いかけてくる。
加害者は復讐を恐れ、怯え、過去から目を背けようとする。
しかし、それは許されない。
追い詰められ、過去と向き合わざるを得なくなったとき、彼らはいったいどんな答えに辿り着くのか?
そして、加害者たちを追い詰めていく彼の本当の真意とは?
※この物語はフィクションです ※残酷描写あり
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
☆こちらに使用しているイラストはAI生成ツールによって作成したものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる