君はプロトタイプ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
14 / 111
Chapter2 『実験』の始まり

6

しおりを挟む
「……え? 何ソレ? そんなこと、できるの?」
「今のところ、僕の脳内では実施できています」
 思わず、ナオヤの顔をジロジロ見てしまった。正確には頭頂部だけど。そしていくら見たって、何もわかるわけないのだけれど。
「複雑ですみません。例えるなら……今、あなたが見ているデスクのモニターに映るもの。それがあなたの脳内の記憶です」
「う、うん」
「僕のモニターには、僕の記憶だけじゃなく、尚也の記憶も映さなければいけません。だけど僕の記憶容量にすべての記憶を移行することは無理でした。そこで……もう一つのデスクと常に連結させて、そちらからも記憶を呼び出せるように設定した……ということです」
 つまり2台分のデスクを操作しているということだろうか。それは、かなり相当、大変そうだ。
「そして僕のデスクにおいて最も優先されるべきは尚也の記憶の再現です。そのため、何か脳内処理が発生する度、僕のデスクは連結している尚也の記憶に先にアクセスする。そのため、処理が煩雑になり、咄嗟の反応が疎かになることがあります。先ほどのように、相手の気持ちを配慮するといった処理ができなくなったり……」
「さっきは、愛と尚也くんの記憶を検索しながらだったから、無神経になっちゃったってこと?」
「そ……そうです。重ね重ね、申し訳ない。それにあと、もう一つ……」
「何?」
「さっき言った通り、最優先事項は尚也の記憶を検索し、再現することです。自身の処理と尚也に関する処理を同時に行えば、脳にかかる負担は計り知れません。そこで、僕は自身の感情処理を後回しにするように設定されています」
「それって……?」
「通常の人間より、感情表現に乏しいということになります。表情豊かだった尚也を再現するために表情が乏しくなる……なんとも支離滅裂な話ですが」
 そう、何でもない表情で、さらりと言う。
 それを聞いた私の方が、眉間にしわが寄って、口元が引きつって、更にはそのまま硬直して、とても見せられない表情になってしまった。
 尚也を再現するために、自分自身の感情を抑えられている。そう彼は言った。
 そんなことが可能なのか? 可能だとして、常識的に考えて、実行するのか?
 頭の中で、そんな口にできない思いがもやのように浮かんで膨れ上がって広がっていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

奇び雑貨店 【Glace】

玖凪 由
ライト文芸
「別れよっか」 三ヶ嶋栄路18歳。大学1年生初めての夏、早くも終了のお知らせ。 大学入学と同時に俺は生まれ変わった──はずだった。 イメチェンして、サークルに入り、念願の彼女もできて、順風満帆の大学生活を謳歌していたのに、夏休み目前にしてそれは脆くも崩れ去ることとなった。 一体なんで、どうして、こうなった? あるはずだった明るい未来が見事に砕け散り、目の前が真っ白になった──そんな時に、俺は出会ったんだ。 「なんだここ……雑貨店か ? 名前は……あー、なんて読むんだこれ? ぐ、ぐれいす……?」 「──グラースね。氷って意味のフランス語なの」 不思議な雑貨店と、その店の店主に。 奇(くし)び雑貨店 【Glace [グラース]】。ここは、精霊がいる雑貨店だった──。 これは、どこか奇妙な雑貨店と迷える大学生の間で起こる、ちょっぴり不思議なひと夏の物語。

僕とコウ

三原みぱぱ
ライト文芸
大学時代の友人のコウとの思い出を大学入学から卒業、それからを僕の目線で語ろうと思う。 毎日が楽しかったあの頃を振り返る。 悲しいこともあったけどすべてが輝いていたように思える。

エッセイのプロムナード

多谷昇太
ライト文芸
題名を「エッセイのプロムナード」と付けました。河畔を散歩するようにエッセイのプロムナードを歩いていただきたく、そう命名したのです。歩く河畔がさくらの時期であったなら、川面には散ったさくらの花々が流れているやも知れません。その行く(あるいは逝く?)花々を人生を流れ行く無数の人々の姿と見るならば、その一枚一枚の花びらにはきっとそれぞれの氏・素性や、個性と生き方がある(あるいはあった)ことでしょう。この河畔があたかも彼岸ででもあるかのように、おおらかで、充たされた気持ちで行くならば、その無数の花々の「斯く生きた」というそれぞれの言挙げが、ひとつのオームとなって聞こえて来るような気さえします。この仏教の悟りの表出と云われる聖音の域まで至れるような、心の底からの花片の声を、その思考や生き様を綴って行きたいと思います。どうぞこのプロムナードを時に訪れ、歩いてみてください…。 ※「オーム」:ヘルマン・ヘッセ著「シッダールタ」のラストにその何たるかがよく描かれています。

この感情を何て呼ぼうか

逢坂美穂
ライト文芸
大切だから、目を背けていたんだ。

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
 高木春道は、見知らぬ女児にいきなり父親と間違えられる。  人違いだと対応してる最中に、女児――松島葉月の母親の和葉が現れる。  その松島和葉に、春道は結婚してほしいと頼まれる。  父親のいない女児についた嘘。いつか父親が迎えに来てくれる。  どんな人か問われた松島和葉が娘に示したのは、適当に選んだ写真にたまたま写っていたひとりの男。それこそが、高木春道だった。  家賃等の生活費の負担と毎月五万円のお小遣い。それが松島和葉の提示した条件だった。  互いに干渉はせず、浮気も自由。都合がよすぎる話に悩みながらも、最終的に春道は承諾する。  スタートした奇妙な家族生活。  葉月の虐め、和葉の父親との決別。和葉と葉月の血の繋がってない親子関係。  様々な出来事を経て、血の繋がりのなかった三人が本物の家族として、それぞれを心から愛するようになる。 ※この作品は重複投稿作品です。

あなたとの離縁を目指します

たろ
恋愛
いろんな夫婦の離縁にまつわる話を書きました。 ちょっと切ない夫婦の恋のお話。 離縁する夫婦……しない夫婦……のお話。 明るい離縁の話に暗い離縁のお話。 短編なのでよかったら読んでみてください。

処理中です...