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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は

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「あの、僕は……アベル様のもとに、戻っても……?」
「それ以外、どう言ってるように聞こえるんだ?」
「あなた以外の誰が、あの芋をあんなに美味しく料理できるんですか」
「で、でも……父さんのレシピなら……それを取り戻そうと、思ってたのに……」

 再び声のしぼんでいくアランの両肩を、ジャンは苛立たしげにバシバシ叩いた。

「親父のレシピじゃなくたって、いいだろうが。あの芋の料理なら、俺が隣国でいくらでも探してきてやる。それに、レティシア様が持ち込んだっていうあのスープだって、上手いじゃないか。どんなレシピも、お前にかかりゃ何倍も美味くなるんだから」
「そ、そんな……僕なんて……」
「いい加減に前を向けよ。俺だってあのままじゃ親父が浮かばれないとは思ってる。だがな、何が一番、親父のためになると思う?」
「そ、それは……父さんみたいになるってことじゃ……」
「いいや違うね。俺たちがこれからやるのは、親父の後を追うことじゃない。親父を超えることだ。いつまでも親父の作ったレシピにばかりこだわってたって、喜びやしないんだ」
「で、でも誰かが継がないと……あれ?」

 急に、アランが動きを止めた。何かに思い至ったらしく、考え込んでいる。だが当然、ジャンもレオナールもその頭の中など知りようもなく、首を傾げるしかない。

「おい、アラン?」
「孤児院……」

 ぽつりと呟いた言葉が何を意味するか、ジャンもレオナールも咄嗟に理解できなかったようだ。だが、アランは構わずに顔を上げて迫った。

「レオナールさん、孤児院て言ってませんでした?」
「何がです?」
「レティシア様です。最初にあの料理を作った時、孤児院で作っていたものだって……そう言ってましたよね」
「え? あぁ……そうですね。確か敷地内の畑であの芋を密かに育てていると仰っていたような……」

 その言葉で、アランの頭に一つ閃いたことがあった。レオナールの言葉と同時に、セルジュからかけられた言葉も思い出したからだ。

『不要のものとして処分されてもおかしくない……誰かが、拾って・・・いない限りな』

「誰かが、父さんのレシピを拾ったかも知れない。あの芋……ポムドテールを育てている人が」

 レオナールとジャンが、同時に顔を見合わせた。

「ポムドテールは王宮で試験的に育てられていた。そして、あの事件の後ご禁制になった……育てられる場所は限られますぜ」
「レティシア様が通っておられたという孤児院……そこの子供達にも食べさせるなら、安全と思われるレシピが必要……それには、料理人が考案したものが確実ですね」
「大司教の息のかかった孤児院なんてものは、この王都には一つしか無い……!」

 現在の王都に最も詳しいジャンが弾き出した答えに、アランもレオナールも頷いた。

「そこに行けば、何かわかるかもしれません……!」

 涙の痕が滲んでいたアランの瞳に、光が宿るのをジャンは見た。

 今、取るべき行動は一つ。三人は同じ方向へ向けて、踵を返して歩き出した。
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