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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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「ここで育った……? でもあなたは確か、王都のさる商家の娘では……?」
「はい。うんと小さい頃に養女になりましたが、5歳まではこの孤児院で育ったんです」
「そうだったの……」

 そう言って、子供達を見つめる視線には、どこか郷愁を感じさせた。今、まさに生まれ育ったふるさとの光景を見ているのだ。

「引き取ってくれたご両親は、優しかった?」
「厳しいけれど、優しい方々です。私は幸運だと思います。もっと酷い例も、耳にしましたから」

 里親とは聞こえが良いが、単に労働力として引き取ろうとする者もいる。そういった者たちによって、実質奴隷のような扱いを受けているという話も、悲しいかな、ままあるのだった。

 引き取られてしまえば、孤児院の方は何一つ口出しも手出しも出来ない。『孤児』という肩書きがついただけで、辛い思いを一生背負う者が多くいるという話を、レティシアは何度も耳にしていた。

「……あなたも、大変な思いもしたことでしょう」
「まぁ、ほどほどに。でも私には、目標がありましたから」
「目標? どんな?」

 アネットの声に、急に張りが出た。視線も力強くまっすぐ前に向けられている。ただ、その視線の先にあるのは、目の前の光景ではない何かだということが、伝わってきた。

「私、会いたい人がいたんです。庶民じゃ絶対に会えない……まして孤児なんて一生顔も見られないような人です」
「それはつまり……その人は貴族ということ?」

 アネットは、しっかりと頷いた。その様子を見て、ふと以前の出来事を思い出した。

「以前、貴族の子女が集まっていたお茶会の様子を外から覗いていたことがあったけど……あれはもしかして、その人がいるかもしれないと思って……?」
「あの時は、申し訳ありませんでした。でもその……仰る通りです」

 急にもじもじし始めるアネットは、なんだかいじらしかった。 

「もう……言ってくれれば、取り持つくらい出来たでしょうに。どうして……あぁでもダメね。私は嫌われていたから、そんなことは出来なかったわ。ごめんなさい、忘れて」
「そ、そんなことは……! それに、もういいんです。その人には、ちゃんと会えましたから」
「会えた……の?」
「はい」

 アネットは、満面の笑みを向けた。初めて見たかもしれないほどに、嬉しそうだった。

(よっぽど憧れていたのね)

「あ、もしかしてその人っていうのはリュ……」

 そこまで言って、レティシアは言葉を切った。また、曇らせるわけにはいかない。先読みしてしまったらしいアネットも、複雑そうな笑みを浮かべてはいるが、先ほどのような沈んだ面持ちではなかった。
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