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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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 子供の無邪気なお願いに、どうしてかアネットはたじろいでいた。

「……ダメ? 聖女様、聖大樹を元気に出来たんでしょ?」
「え、あ、あれは……」

 レティシアまでが、そんなアネットの態度に首を傾げた。

 レティシアは、目の当たりにしたのだから。アネットが長らく花を咲かせていなかった聖大樹に純白の花を咲かせた瞬間を。

 国中の大地に『恵み』を運ぶ聖大樹を甦らせたアネットが、こんな小さな畑をどうにか出来ないはずがない。そう考えるのは自然だ。

 だが、アネットは視線を彷徨わせて、答えに困っている様子だった。

 その様子は、レティシアにも覚えがあった。

「こら、困らせないの。聖女様はいつも民のことを考えていて、今はお疲れなのよ。休憩も大事なの」
「そうなの?」

 レティシアが割って入った言葉に、子供達は驚いていた。アネットを見上げるつぶらな瞳には、彼女への思慕と、心配が浮かんでいた。

「えっと……その、ごめんなさい」
「ごめんなさい! 聖女様疲れてるのに!」
「……え?」

 子供達は、口々に謝ったり、心配の言葉をかけている。それに対して、アネットの方が戸惑っていた。

 レティシアは、そんなアネットの背中をそっと押した。

「さあ、聖女様はちょっと向こうで休んでもらいましょ。いっぱいお手伝いしてくれたんだもの、ね?」
「うん!」

 頷くなり、子供達は率先してアネットの手を引き、近くの木陰に連れて行った。一人が水を汲んできて渡すと、皆、揃って畑仕事に戻っていった。

 レティシアは、アネットに付き添っている。水の入ったコップと子供達を交互に見つめるアネットを、レティシアは不思議に思った。

「……どうかしたの?」
「え、何が……でしょうか?」
「具合でも悪いのかと思ったんだけど……違うの?」
 
 精霊を介する魔術と違って、神聖術は術者本人に依るところが大きい。当然、術者の体調が悪ければ上手くいかないこともある。

「私も、よく体調管理をしっかりしなさいって言われたわ。民へ施す力に差が生じてはいけないからって」 
「そう……ですね。はい、気をつけます」

 アネットは、そう言って曖昧に笑った。

「……ねえ、それほど体調が悪いなら、どうして今日ここへ来たの? 休んでいろと言われなかったの?」
「い、言われましたけど、抜け出してきました」
「へぇ……意外とお転婆ね」
「ふふふ、そうなんです」
「リュシアン殿下は知ってるの?」
「あ、えぇと……」

 レティシアは、しまったと思った。

 アネットが気遣いの出来る人間なら、レティシアとリュシアンについて話せるはずがない。アネットにとっては、自分がレティシアから婚約者を奪ったのだから。

 せっかく少し笑うようになっていたアネットの表情が、また少し陰ってしまった。
 
 これ以上、何か言えば良くないことになるかもしれない……そう思うと、口をつぐむほかなかった。

 だが、幸いにもその後、アネットの方から口を開いてくれた。

「なんだか、色々とよくわからなくなって……気がついたらここに来てしまっていたんです」
「気がついたらここへ? どうして?」
「ここが、私の育った場所ですから」
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