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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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 書状にはこう書かれていた。

『我が王国は現在、未曾有の窮地に瀕している。その中で、貴殿のバルニエ領は例年以上の税を納め、唯一危機を脱した力ある領地と呼べる。

 ひいては、我らが王国に住むすべての民を救済するためにも、貴殿の力を借りたく思う。

 ついては、国王の名において以下のものを改めて納めるよう命ずる』

「――って、言っているのが既に納めた税の5倍ほどの追加租税? この領地に、例年の何倍もの税を負担しろと? それが今年の収穫の何割になるか考えないの? 王宮には算術が出来る者がいないの!?」
「落ち着け。俺も呆れて返事に困っていたところだ。余裕があればいくら出しても困らないという発想なんだろうな……おめでたいことだ」
「こんなの、聞く必要ありません! こんな状況のために、国庫には何年にも渡る備蓄があるんですから」
「そうもいくまい。無視すれば、国から弾き出されてしまう」
「今だって国からは特に何もしてもらってないんだから、いいじゃありませんか!」
「……頼むから俺の悩みを増やさないでくれ」

 頭痛を覚えているようなアベルの顔を見て、レティシアは一旦言葉を飲み込んだ。だが……それでも静まるものではなかった。

「だって……国政に関わったことのない私でもわかります。こんなものはおかしい。領民たちの日頃の働きを何だと思っているのかしら。今年、偶然、作物がそこら中からポンポン湧いて出たとでも?」
「畑に出たことのない者からしたら、実際そんなもんだろう」
「でもこんな扱い……こんなにも税をとられたら、領民はまた苦しむことになるわ」
「それに本当に困窮している国民に行き渡るのなら、まだいいが……そうとも限らないだろうな」
「そう思うなら、断るべきです」
「どうやって? 国王陛下のお達しなんだぞ」
「で、でも……!」

 レティシアはつい激昂してしまったが、アベルの言い分ももっともだった。公爵家の令嬢として、王家がどれほどの権威があるか理解しているつもりだ。幼い頃から可愛がってもらった縁もあって気安く話してしまうこともあったが、それらはすべて寛大な心で許してもらっていたのだと今ならわかる。

 地方領主がこのように書状一つで無理難題を押しつけられても、反論など出来るものではないと、冷静な状態ならわかっていた。

 おそらくレティシアは、この領地に肩入れしすぎているのだ。

 行ったこともない貴族の所領の話ならば、ここまで怒ることはなかっただろうと思う。そういった贔屓が良い者ではないことはわかっている。わかっているが、納得できるかどうかは、別なのだ。

「あ、明らかに数字がおかしいんですもの。怒って当然です」
「……そうだな」

 アベルは小さく笑い、レティシアから書状を受け取った。それを裏向けにして机に置き、立ち上がった。

「やはり一旦保留にしておく。ひとまず昼食を食べて、それから考えよう」
「それがいいかと、思います」
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