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第3章 泥まみれの宝

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「えぇと……」
「君は謹慎中の身。その君が部屋にいなければ、お叱りを受けるのはネリーなんだ。あまり、侍女を困らせてはいけないよ」
「は、はい……」
「それと、私のことも」
「は、はい?」
「君を訪ねてきたら、ネリーの様子がおかしいものだから……悪いが無理矢理入らせて貰った。そうしたら何と……いないじゃないか」

 セルジュに昼間の不在が知られてしまった。だからネリーはあんなにも慌てていたのか。胸のうちで合点がいった。だが合点はいっても解決はしていない。

 この切れ者の兄に知られてしまっては、今後に差し支える。

「あの、お兄様……このことは……」
「わかっている。お父様とお母様には黙っておこう。今度はどんな雷が落ちるか、わからないからね。だが条件がある」
「条件ですか?」
「どこに行っていたのか、話すんだ」

 それは、もっともな追求だ。秘密の共犯者にしてしまうのだから、それくらいは答えるべきだろう。そう思うのだが……

「どうしても、言わなければいけませんか?」
「うん?」
「お兄様も、私に隠していることがありますよね」

 昼間の出来事を、思い出していた。あの時感じたもやもやした感情は自分に向けて感じたものだけではない。セルジュに対しても、思うことがあった。

 リュシアンとアネットの婚約、そして聖女就任のことだ。

 セルジュはリュシアンの側近。それらすべてについて、知らないはずがない。知っていて、ずっと黙っていたことになる。

 レティシアの視線を受けたセルジュは、何かを悟ったように目を伏せた。

「そうか……知ってしまったんだね」
「ええ、残念ながら」

 ネリーが背後で息をのんでいた。

(やっぱり、ネリーも知って、黙っていてくれたのね)

 ネリーのそれは気遣いだとわかる。だが、セルジュには同じようには思えなかった。

「お兄様は、私に言う義務があったのではありませんか? あの方の側近で、私の兄なのですから」
「それは……」
「私は、当事者なのに知らなかった。噂話を偶然耳にして、それで知ってしまったのよ。私が貶められたことを、皆、楽しそうに嬉しそうに話していた……」

 ジャンが聖女のことを語ると、村人たちは興味津々な様子で聞き入っていた。

『偽聖女はその地位を追われ、本物の聖女が立った。ああ良かった。これで安心だ』

 そう言っていた。

 さっきまでレティシアに感謝と尊敬の念を語っていたその口で、レティシアの失墜を喜んでいた。

「耐えがたい苦痛だったわ。お兄様が話してくれていればまだ聞き流せたかもしれない。お兄様から、これが決定事項だと言われていれば、きちんと受け止められていたわ、私は」

 気付けば、そんな言葉を投げつけてしまっていた。
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