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第3章 泥まみれの宝

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「ジャン! よく帰って来たな」
「元気そうだねぇ」
「今度はどこまで行ってきたんだい?」

 ジャンと名乗った青年は、あっという間に村人たちに囲まれてしまった。彼もまた、この村の大事な一員なのだとよくわかる。

 一人一人とじっくり視線を交わしながら楽しげに話していたジャンだったが、ふと、その視線がレティシアに止まった。

「おや、そちらのお嬢さんは……初めてお会いする方ですね」
「ああ。諸事情あってな……つい最近、この村に来たんだ」

 アベルは、なんだか曖昧な言い方で紹介した。
 その言葉を受けたジャンはにこやかに歩み寄ってきた。

「どうも、お嬢さん。ジャンと申します。そこにいるアランの双子の兄です」
「はじめまして、ジャンさん。レティと申します」
「これはご丁寧に」

 互いにお辞儀をしながらも、ジャンはレティシアのことを上から下までじっと眺め回していた。

「……ジャン、初対面の女をじろじろ見るな。無作法が過ぎるぞ」
「あははは、すみません。あんまり美人さんだったもんで、見惚れちまった。さてはそのお嬢さんですね? 我が領地に救済の食料をもたらしてくれた女神様ってのは」
「め、女神様って……!」
「おや、違いますか? 弟の話では確か、もの凄い美人でその上お優しいと……」
「に、兄さん!」
  
 突然、ジャンの言葉をアランが慌てて遮った。普段のんびりしている彼がこんなにも焦った様子でいるのは珍しい。
 アランは鍋から器に目一杯スープを盛ると、ジャンに押しつけた。

「はい、兄さん。長旅で疲れただろう? まずは向こうで食事でもして、くつろいできてよ」
「待て待て。王都から戻ったら、最初にアベル様に報告するのが決まりだろうが」

 そう言うと、アランは器を持ってその場に座り込んだ。そして、もぐもぐ頬張りながら、アベルに話し始めた。

(報告って……こんな態度でもいいのかしら)

 そう思ったが、アベルの方も座って食べながら耳を傾けている辺り、構わないらしい。

「何か変わったことはあったか?」
「ええ、ありましたよ。王都は今、大騒ぎです」
「大騒ぎとは?」

 レティシアは、どうしてか胸がざわつくのを感じた。それ以上聞いてはいけないというような、警鐘が頭の中に鳴り響いた。だが、それに反して体は動けずにいた。

 レティシアの耳に、いやにはっきりと、その言葉が聞こえてきた。

「驚きですよ。なんと王太子リュシアン殿下が婚約を破棄して、別の女性とご婚約されたんです」
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