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第1章 偽聖女じゃありません!
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「ああぁ~もう! 何なのあのバカ王子!!」
叫ぶと同時に、レティシアはクッションを思い切り壁に投げつけた。クッションは、ぽふっと物足りない音を立てて床に落ちていった。
落ちたクッションを、傍に控えていた侍女のネリーがため息交じりに拾い上げた。
「物に当たっても仕方ないでしょう、お嬢様。はしたないですよ」
「お上品にしてられますか! いいでしょ、今は部屋に私たちしかいないんだから」
そう言うと、レティシアはそっぽ向いて、ベッドにうずくまってしまった。完全に、ふて寝だ。
あの屈辱の卒業セレモニーから一日が過ぎ、レティシアはリール公爵邸……つまりは自宅の、自室でこうして不貞腐れていたのだった。
「まだ寝る時間には早いのでは?」
「いいじゃない。学院は昨日で卒業だったし、お父様には部屋から出るなって言われてるし……暇なんだから」
昨日の卒業式での騒ぎは瞬く間に貴族たちに知れ渡った。通っているのが貴族の子女たちなのだから当然だ。
皆、王子のスキャンダル、公爵令嬢の失墜、平民女子の大出世に色めき立ち、同時にこれからの立ち回り方について目を白黒させていたらしい。
特にレティシアの父は、驚くやら怒るやら慌てるやら……慌ただしかった。なにせ次期王妃となるはずだった娘がその地位を追われ、公衆の面前で貶められたのだから。レティシアから事の次第を聞いた父は、その足で王宮に乗り込んだ。
宰相の娘との婚約を、誰にも言わず勝手に破棄したリュシアンは、当然、国王からひどい叱責を受けていた。だが、どんな言葉にも屈しなかったらしい。
あくまで爽やかに純愛を貫こうと夢見ているその顔に更に憤慨した父は、思った通り、重臣会議にかけると言った。本日、ただいま、真っ最中のはずだ。
「殿下も本当に馬鹿ねぇ……どんな結果になるか、わからないのかしら。今頃縮こまってるでしょうね、お可哀想に」
まったく心のこもっていない言葉を吐き出した。
「お嬢様、私だってそりゃあ怒りたいですよ。あの広間には私たち付き人は入れないから何もできませんでしたが、その場にいれば私が殿下に一発食らわせてました。死罪でも構いませんとも」
「物騒なことを言わないの。本当に死罪になりかねないから、やめてね」
苦笑いを浮かべるレティシアに、ネリーは何故かドスドス大きな足音を立てて近づいてきた。侍女とは言え、彼女もリール公爵家と縁戚関係にある貴族の娘。そんな行いははしたないと窘められるものだが、まるで構う様子がない。
「お嬢様! 私はお嬢様にも怒ってるんですよ」
「私に? なんでよ!?」
レティシアはベッドから起き上がった。一緒になってリュシアンの愚痴を言うならともかく、自分が怒られる謂れはない。
「旦那様と同じ理由ですよ。お嬢様ともあろう方が、あんな……あんなかまってちゃんのボンボン王子に、何を言い負かされてるんですか!」
「う……!」
痛いところを、突かれてしまった。
叫ぶと同時に、レティシアはクッションを思い切り壁に投げつけた。クッションは、ぽふっと物足りない音を立てて床に落ちていった。
落ちたクッションを、傍に控えていた侍女のネリーがため息交じりに拾い上げた。
「物に当たっても仕方ないでしょう、お嬢様。はしたないですよ」
「お上品にしてられますか! いいでしょ、今は部屋に私たちしかいないんだから」
そう言うと、レティシアはそっぽ向いて、ベッドにうずくまってしまった。完全に、ふて寝だ。
あの屈辱の卒業セレモニーから一日が過ぎ、レティシアはリール公爵邸……つまりは自宅の、自室でこうして不貞腐れていたのだった。
「まだ寝る時間には早いのでは?」
「いいじゃない。学院は昨日で卒業だったし、お父様には部屋から出るなって言われてるし……暇なんだから」
昨日の卒業式での騒ぎは瞬く間に貴族たちに知れ渡った。通っているのが貴族の子女たちなのだから当然だ。
皆、王子のスキャンダル、公爵令嬢の失墜、平民女子の大出世に色めき立ち、同時にこれからの立ち回り方について目を白黒させていたらしい。
特にレティシアの父は、驚くやら怒るやら慌てるやら……慌ただしかった。なにせ次期王妃となるはずだった娘がその地位を追われ、公衆の面前で貶められたのだから。レティシアから事の次第を聞いた父は、その足で王宮に乗り込んだ。
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あくまで爽やかに純愛を貫こうと夢見ているその顔に更に憤慨した父は、思った通り、重臣会議にかけると言った。本日、ただいま、真っ最中のはずだ。
「殿下も本当に馬鹿ねぇ……どんな結果になるか、わからないのかしら。今頃縮こまってるでしょうね、お可哀想に」
まったく心のこもっていない言葉を吐き出した。
「お嬢様、私だってそりゃあ怒りたいですよ。あの広間には私たち付き人は入れないから何もできませんでしたが、その場にいれば私が殿下に一発食らわせてました。死罪でも構いませんとも」
「物騒なことを言わないの。本当に死罪になりかねないから、やめてね」
苦笑いを浮かべるレティシアに、ネリーは何故かドスドス大きな足音を立てて近づいてきた。侍女とは言え、彼女もリール公爵家と縁戚関係にある貴族の娘。そんな行いははしたないと窘められるものだが、まるで構う様子がない。
「お嬢様! 私はお嬢様にも怒ってるんですよ」
「私に? なんでよ!?」
レティシアはベッドから起き上がった。一緒になってリュシアンの愚痴を言うならともかく、自分が怒られる謂れはない。
「旦那様と同じ理由ですよ。お嬢様ともあろう方が、あんな……あんなかまってちゃんのボンボン王子に、何を言い負かされてるんですか!」
「う……!」
痛いところを、突かれてしまった。
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