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第1章 偽聖女じゃありません!
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周囲にいた全員の、息をのむ声が聞こえた。その中で唯一リュシアンだけが、笑い声を漏らした。
「どうした! 聖大樹は枯れてしまったぞ。まさか聖女の手によって枯れ果てるとはなぁ?」
「……っ!」
何かを言い返そうと思っても、レティシアにはできなかった。こればかりは、リュシアンの言葉通りだった。
(よりによって、次期聖女と言われている私が枯らすだなんて……あってはならないことだわ)
そう思い、じっと黙り込んでいるレティシアから、リュシアンはふわりと視線を外した。そして、すぐ近くに立っているもう一人の女性に向いた。
「アネット、君の力で、聖大樹を甦らせて欲しい」
「……はい」
そう言われて、アネットがおずおずと前に歩み出た。皆の視線の的になって竦むアネットはそこに向けて手をかざし、自らの魔力を注いだ。
すると、聖大樹は先ほどと同じく、あっという間に鮮やかな色を取り戻した。
枝葉は力強く天に向かい、太陽の光を我が物にしようとしているかのように、天を見上げていた。そんな中、ひっそりと蕾が姿を現した。
一つ、二つ、三つ……あちこちに姿を見せて、そして……一斉に花開いた。
「うわぁ……!」
聖大樹の枝に陽光を遮られ、いつもどこか薄暗い大聖堂が、あっという間に真っ白な花で埋め尽くされた。
人々の間からはどよめきではなく、感嘆の声が湧き起こっていた。
「見たか。これぞまさしく、聖女の証だ」
リュシアンの声に共感したのか、どこからともなく拍手までが起こった。
「皆、見たな。枯れかかっていた聖大樹を甦らせて花を咲かせたアネットと、花を咲かせられないどころか枯らせたレティシア。この国の聖女として相応しいのはどちらか、火を見るより明らかだろう」
広間にいる全員を見回し、一人一人を見つめるリュシアン。誰もが目を合わせることはできないけれど、否定することもできないようだった。
それも致し方ないとレティシアは思っていた。レティシア自身ですらそうなのだから。
「これで証明されたな。私の言い分が正しいということ。そして聖女に相応しいのはアネットであると言うことが」
それは、勝利宣言だった。
レティシアは苦い思いを滲ませないように必死に表情を取り繕って、広間を後にした。
その背中に、ぽつりと声が投げられた。
「なんだよ。偽聖女かよ」
決して、そんな言葉に足を止めないように、必死に歩いて行った。
「どうした! 聖大樹は枯れてしまったぞ。まさか聖女の手によって枯れ果てるとはなぁ?」
「……っ!」
何かを言い返そうと思っても、レティシアにはできなかった。こればかりは、リュシアンの言葉通りだった。
(よりによって、次期聖女と言われている私が枯らすだなんて……あってはならないことだわ)
そう思い、じっと黙り込んでいるレティシアから、リュシアンはふわりと視線を外した。そして、すぐ近くに立っているもう一人の女性に向いた。
「アネット、君の力で、聖大樹を甦らせて欲しい」
「……はい」
そう言われて、アネットがおずおずと前に歩み出た。皆の視線の的になって竦むアネットはそこに向けて手をかざし、自らの魔力を注いだ。
すると、聖大樹は先ほどと同じく、あっという間に鮮やかな色を取り戻した。
枝葉は力強く天に向かい、太陽の光を我が物にしようとしているかのように、天を見上げていた。そんな中、ひっそりと蕾が姿を現した。
一つ、二つ、三つ……あちこちに姿を見せて、そして……一斉に花開いた。
「うわぁ……!」
聖大樹の枝に陽光を遮られ、いつもどこか薄暗い大聖堂が、あっという間に真っ白な花で埋め尽くされた。
人々の間からはどよめきではなく、感嘆の声が湧き起こっていた。
「見たか。これぞまさしく、聖女の証だ」
リュシアンの声に共感したのか、どこからともなく拍手までが起こった。
「皆、見たな。枯れかかっていた聖大樹を甦らせて花を咲かせたアネットと、花を咲かせられないどころか枯らせたレティシア。この国の聖女として相応しいのはどちらか、火を見るより明らかだろう」
広間にいる全員を見回し、一人一人を見つめるリュシアン。誰もが目を合わせることはできないけれど、否定することもできないようだった。
それも致し方ないとレティシアは思っていた。レティシア自身ですらそうなのだから。
「これで証明されたな。私の言い分が正しいということ。そして聖女に相応しいのはアネットであると言うことが」
それは、勝利宣言だった。
レティシアは苦い思いを滲ませないように必死に表情を取り繕って、広間を後にした。
その背中に、ぽつりと声が投げられた。
「なんだよ。偽聖女かよ」
決して、そんな言葉に足を止めないように、必死に歩いて行った。
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