大阪梅田あやかし横丁〜地下迷宮のさがしもの〜

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
107 / 109
終章 あやかし横丁の仲間

しおりを挟む
 苦笑いを浮かべつつ、どこか神妙な面持ちをしている初名を、落ち込んでいるとみたのか、横から団子が一串、差し出された。
「まぁ……からかったのはすまん。これで勘弁して」
「……これだけですか?」
「何や? 随分図太くなったな、キミ」
 差し出された団子はありがたく受け取り、ぱくりと一口でかじりとった。だが、一口で終わってしまった。
 物足りないという顔をすると、辰三は渋々もう一本差し出そうとした。が、初名はその手を押しとどめた。
「琴子さんの団子も美味しいですけど、別のも食べたいです」
「は?」
「地下街には美味しいスイーツのお店いっぱいありますよね? 辰三さん、色々リサーチしてるんでしょ? 連れてってください」
「そらまぁ……美味い店はぎょうさんあるけども」
「”美味い”……?」
「まぁ、ええわ。ほな今度はワッフルでも……何?」
 自分で言い出したくせに呆けている初名の顔を、辰三は訝しげに見ていた。初名は、辰三から飛び出した言葉に、驚き感激していたのだった。
「辰三さん、”美味しい”って思ったんですか?」
「はぁ?」
「だって味わからないって言ってたから……」
「あぁ、それはまぁ……味はわからへん。でも今はなんとなく、そんな気がするっちゅうか何ちゅうか……な」 
 しどろもどろになっている様が何故か可笑しくて初名は笑いを堪えられなかった。辰三には睨まれてしまったが、風見や弥次郎、ラウルたちまでが一緒になって笑い出してしまい、結局辰三の方が引っ込むことになったのだった。
 ふてくされたように団子をかじる辰三をまだニヤニヤして見ながら、弥次郎が言った。
「まぁ、ようはここの皆、何かしらキミに感謝しとるっちゅうことや」
「……よくわからないんですけど……そうなんですか?」
 首を垂直になるくらい傾けている初名を笑いながら見つめて、弥次郎は頷いていた。
「よくわからんでも、そうなんや。俺もな」
 そう言って、弥次郎はまたふぅっと煙を吐き出した。煙が上っていく先を、黙ってじっと見ている。まるで、その向こう側にいる誰かを見つめているようだった。
 その誰か・・に心当たりがあった初名は、それ以上のことは、尋ねないようにしたのだった。
 押し黙った初名を見て、風見がぴくりと眉を動かしたことは、初名は気付かなかった。
「なんでまだ遠慮しとんねん? お前は、もうこの横丁の仲間なんやぞ?」
「……へ? 仲間!? 私が?」
 驚いて慌てる初名に、風見は怪訝な表情を見せた。不本意だったらしい。
「何でびっくりしとるねん」
「だ、だって私……あやかしでも幽霊でもないから……」
「うちかて普通の人間やで。半分吸血鬼やけど」
「だ、だって絵美瑠ちゃんは半分身内みたいなもので……私は完全に赤の他人……」
「梅子の孫やないか」
 風見がさらりと言うと、その肩に乗っていた艶やかな蜘蛛が、初名の肩に移ってきた。しなやかな手(足?)と頭を動かしている様子は、頷いているように見える。
 百花も、同意しているのだ。
 それでも、つい数ヶ月前に来たばかりの、生きた人間である自分が彼らの”仲間”を名乗っていいものか。その思いは拭えなかった。
 そんな初名に、風見はほんの少し呆れたようにため息をついた。
「……なぁ、清友に会わせてくれたっちゅうだけで、こんなこと言うてると思うんか?」
「そ、それ以外に何かありましたっけ?」
 風見はクスリと笑い、初名と真正面を向く形で座り直した。手元にある酒を飲み干すと、柔らかな視線を、初名の方に向けたのだった。
「そうやな……まず、この『梅田』が、何でそう呼ばれるようになったか……知っとるか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき
ファンタジー
漆黒の魔女ゼノア、不老不死の魔物だが人間の心を持つ絶世の美女。共に魔王を倒した勇者たちの子孫を探して世界中を旅している。暴風のエルフ・シリル、金髪のハイエルフ。育ての親を魔人に殺され仇を討つため旅をしている。絶世の美少女だが、粗野で喧嘩早く切れやすい性格で暴走エルフとも呼ばれる。そんな二人の長い長い旅の物語。チートのように強いですが万能ではありません。転生ものでもありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。

音喜多子平
キャラ文芸
【第六回キャラ文芸大賞 奨励賞】 人の世とは異なる妖怪の世界で生まれた猫又・鍋島環は、幼い頃に家庭の事情で人間の世界へと送られてきていた。 それから十余年。心優しい主人に拾われ、平穏無事な飼い猫ライフを送っていた環であったが突然、本家がある異世界「天獄屋(てんごくや)」に呼び戻されることになる。 主人との別れを惜しみつつ、環はしぶしぶ実家へと里帰りをする...しかし、待ち受けていたのは今までの暮らしが極楽に思えるほどの怒涛の日々であった。 本家の勝手な指図に翻弄されるまま、まともな記憶さえたどたどしい異世界で丁稚奉公をさせられる羽目に…その上ひょんなことから錬金術師に拾われ、錬金術の手習いまですることになってしまう。

【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)
キャラ文芸
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓ https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI 【ストーリーあらすじ】 ■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■ ■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■ 室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。 ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、 鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。 時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。 一座とともに都に渡った鬼夜叉は、 そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。 一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。 これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、 そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。 【その他、作品】 浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので 興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ) ■あらすじ動画(1分) https://youtu.be/AE5HQr2mx94 ■あらすじ動画(3分) https://youtu.be/dJ6__uR1REU

処理中です...