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其の陸 迷宮の出口
十六
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ビル群に囲まれていても、そこは日差しがいっぱいに降り注ぐ眩い場所だった。
大昔はこの露天神社の上には森があった。そこで心中事件があり、奇しくもそのことで世間から脚光を浴びることになったりもした。
おかげで、この神社はいつでも人の流れが絶えない。大きな商店街のど真ん中であることも理由の一つだが、この場所にいる神々への信仰が途絶えていないことも確かだ。……やや恋愛に寄っているかもしれないが。
中央の社殿にお参りした後、お初・徳兵衛像にお参りし、恋愛みくじをひいたり、お守りを買ったり、パネルを利用して記念写真を撮っていく人々の姿が、清友は好きだった。
そして、それは風見も同じだった。この界隈の総鎮守として信仰されていたこの神社に訪れる人々を、よく二人並んで見ていた。できれば、すべての願いを叶えてやりたいと、よく言っていた。
今はもう会えない友の姿を、清友はよく思い描く。自分の隣に並んで座っている姿を想像しては寂しさを噛みしめ、そして訪れる参拝客を見守ることで払拭していた。
自分が宿っている神牛舎に人が来ていない時は、境内のベンチに腰掛けて、のんびりと人々を見守ることにしている。
だが、神牛舎に人が来ればすぐにわかる。自分を呼ぶ声が、わかるのだ。そう、今のようにーー
「こんにちは、清友さん」
「……よう来たね、初名」
清友への感謝を、小さな頃から抱き続けている少女を、清友は穏やかな笑みで振り返った。初名は笑っていた。その笑みは、今までのものとは少し違っていた。今までのような陰りが消えて、何かすっきりしたような、胸のつかえが取れたというような……そんな見ていて安心する笑みだった。
その理由が、清友にはふわりとわかった。
「そう、あの子に会えたんやね」
「はい」
「ちゃんと、話はできた?」
「はい……!」
「それは、良かったなぁ」
清友は立ち上がり、ほんの少し背伸びをして、初名の頭を撫でた。
彼女はずっと、気に病んでいた。自分が怪我をさせてしまった対戦相手のことを。ここに来る度、その子が怪我したという目をいつも撫でていた。
だが、清友にはどうして上げることも出来なかった。自分自身の怪我で無ければ、代わってあげることは出来ない。それに、相手の怪我がもう完治していることも、感じ取っていた。
残るは初名の心の傷だった。
代わってあげられたらいいのにと、どれほど思ったか。
だが、そんなことは杞憂だった。目の前の少女は、試合に出たい、絶対に勝ちたいと泣いていたあの頃とは違うのだ。
「ええ子やろ」
「はい、とっても良い子です。友達に、なれました」
「良かった、良かった」
清友の手が、今度は初名の手をとった。柔らかく初名の両手を包み込み、じんわりと温めていった。
「困ったことがあったら、僕はいつでも、力になる。そやから、いつでもおいで」
その包み込んでいる両手を、握られていたはずの初名の手が、握り返した。
「え?」
「じゃあ、今、一緒に来て下さい」
「一緒に……行く? で、でも僕は……」
「ほんの少しだけでいいんです。あの時……雨の日に地下街にいた時みたいに、ほんの少しだけ」
「い、いや、でも……!」
止めようとしても、初名は止まらなかった。その強い眼差しに引っ張られるかのように、初名に連れられて、清友は走り出していた。
道行く初名を避けて、参拝客が道を空ける。清友は、遮る者のない道をただただ進んでいった。
大昔はこの露天神社の上には森があった。そこで心中事件があり、奇しくもそのことで世間から脚光を浴びることになったりもした。
おかげで、この神社はいつでも人の流れが絶えない。大きな商店街のど真ん中であることも理由の一つだが、この場所にいる神々への信仰が途絶えていないことも確かだ。……やや恋愛に寄っているかもしれないが。
中央の社殿にお参りした後、お初・徳兵衛像にお参りし、恋愛みくじをひいたり、お守りを買ったり、パネルを利用して記念写真を撮っていく人々の姿が、清友は好きだった。
そして、それは風見も同じだった。この界隈の総鎮守として信仰されていたこの神社に訪れる人々を、よく二人並んで見ていた。できれば、すべての願いを叶えてやりたいと、よく言っていた。
今はもう会えない友の姿を、清友はよく思い描く。自分の隣に並んで座っている姿を想像しては寂しさを噛みしめ、そして訪れる参拝客を見守ることで払拭していた。
自分が宿っている神牛舎に人が来ていない時は、境内のベンチに腰掛けて、のんびりと人々を見守ることにしている。
だが、神牛舎に人が来ればすぐにわかる。自分を呼ぶ声が、わかるのだ。そう、今のようにーー
「こんにちは、清友さん」
「……よう来たね、初名」
清友への感謝を、小さな頃から抱き続けている少女を、清友は穏やかな笑みで振り返った。初名は笑っていた。その笑みは、今までのものとは少し違っていた。今までのような陰りが消えて、何かすっきりしたような、胸のつかえが取れたというような……そんな見ていて安心する笑みだった。
その理由が、清友にはふわりとわかった。
「そう、あの子に会えたんやね」
「はい」
「ちゃんと、話はできた?」
「はい……!」
「それは、良かったなぁ」
清友は立ち上がり、ほんの少し背伸びをして、初名の頭を撫でた。
彼女はずっと、気に病んでいた。自分が怪我をさせてしまった対戦相手のことを。ここに来る度、その子が怪我したという目をいつも撫でていた。
だが、清友にはどうして上げることも出来なかった。自分自身の怪我で無ければ、代わってあげることは出来ない。それに、相手の怪我がもう完治していることも、感じ取っていた。
残るは初名の心の傷だった。
代わってあげられたらいいのにと、どれほど思ったか。
だが、そんなことは杞憂だった。目の前の少女は、試合に出たい、絶対に勝ちたいと泣いていたあの頃とは違うのだ。
「ええ子やろ」
「はい、とっても良い子です。友達に、なれました」
「良かった、良かった」
清友の手が、今度は初名の手をとった。柔らかく初名の両手を包み込み、じんわりと温めていった。
「困ったことがあったら、僕はいつでも、力になる。そやから、いつでもおいで」
その包み込んでいる両手を、握られていたはずの初名の手が、握り返した。
「え?」
「じゃあ、今、一緒に来て下さい」
「一緒に……行く? で、でも僕は……」
「ほんの少しだけでいいんです。あの時……雨の日に地下街にいた時みたいに、ほんの少しだけ」
「い、いや、でも……!」
止めようとしても、初名は止まらなかった。その強い眼差しに引っ張られるかのように、初名に連れられて、清友は走り出していた。
道行く初名を避けて、参拝客が道を空ける。清友は、遮る者のない道をただただ進んでいった。
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