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其の弐 指輪は待っている

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 和子の顔に、ほんの少し元気が戻った。
 初名は辞退しようかと思ったが、和子が何だか元気になったようで、断りにくくなってしまった。仕方なく、親指と人差し指で小さな丸を作って、答えた。
「ええと……これくらいの大きさの、お守りについているストラップ……飾りです。プラスチックでできた竹刀の。これに、着いてたんですけど……」
 初名は鞄からお守り袋を取り出した。黒い布地に、『露天神社』と書かれている。
「あぁお初天神の? そういえば縁結びだけやのうて、こんなんもあったねぇ。スポーツの御守りやろ? 竹刀いうことは、剣道の?」
「……そうです」
「いや、かっこええなぁ。女の子やのにすごいなぁ」
 和子はころころと嬉しそうに言った。父や兄に倣って小学生の頃から剣道を始めていた初名にとっては別段すごいことなど何もなかった。こうも誉められるのは、なんだかくすぐったい。
「ああ、そうやね。今時、こんなん言うてたら笑われるなぁ。でも、運動できる女の人って、かっこええね」
 和子の瞳には憧憬がにじみ出ていた。素直に憧れを露にする乙女のような瞳だった。
「あの……ご自分では何かスポーツとか、なさらないんですか?」
 そう訊ねると、和子の輝いていた顔が、陰った。
「できたら良かったけど……父親も夫も、許してくれはらへんかったからねぇ」
「え? どうしてお父さんや旦那さんの許可がいるんですか?」
 和子の顔をさらに陰らせてしまうとわかっていたが、聞かずにはおれなかった。和子は、困ったように笑っていた。
「色んな人がおるんよ。女は家庭を守るもの、それ以外に何かする必要ないって思ってる人らがね」
「そんなの……!」
 初名の昂りそうな気持ちを抑えようとしたのか、和子の手がそっと初名の手を包み込んだ。柔らかな笑顔に反して、その手は驚くほどひんやりとしていた。
 そしてよく見ると、その手……薬指には、長年指輪をはめていたような痕は見えなかった。
 和子の手の温度に対する驚きの他にもう一つ、初名の中に疑問が生じた。

 探している指輪と言うのは、いったい誰のものなのだろう?
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