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其の壱 探し物は、近くて遠い

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「おう、弥次郎やじろうか。お前がこんなとこまで来るて珍しいな」
「お前は通常運転で迷子やな。その上かどわかしか。公衆の面前でええ度胸や」
「誰が犯罪者や!」
「お前や」
「ち、ちょっと待ってください! 騒がないで、お願いですから!」
 二人を止めようとした叫び声に反応したのか、周囲の人の目が次々初名に向き始める。狼狽えているのは、初名一人だけだった。
「ああもう、ほら目立ってる……!」
「いや、目立ってるんは君だけやで。俺らのことは皆見えてへんし聞こえてないから」
「そんなわけ……」
 ない、と言いたいが、思い返せば確かに風見を振り返る者はいなかった。今、こちらを見ている人とは全員と目が合う。つまり皆、初名を見ている。
「俺らは騒いでも気付かれへんけど、君は騒げば不審者扱いされるから気ぃつけや」
「う……!」
 初名は思わず口をふさいだ。否定できない。
 それ以上騒がなくなったことで興味を失くしたのか、ようやく周囲の人は初名から視線をはずしていった。
 ほっとした初名だったが、すぐに別の声が聞こえてきた。何かに驚くような、ひっと息をのむ声だ。遠くから徐々にその声は近づいてくる。そして徐々に、その声と共に青ざめた人の顔も見えるようになってきた。
 その原因は、風見たちのすぐ傍で立ち止まっていた。
「何してんの二人とも? 珍しく目立ってんなぁ」
--と、呑気な声を出して。
「別に目立ってるわけとちゃうわ。お前らこそ、何しに来てん?」
「『何しに来てん』とちゃうやろ。もうすぐ会合やのに帰って来ぉへんアホがおるから探しに来たんや」
「方向音痴やねんから約束ある時くらい、ウロチョロせんといてや」
 今会ったばかりだが、二人の言葉にものすごく合点がいった初名だった。やはり、風見と言う人は方向音痴だったのだ。頼る相手を間違えた。
 だが風見自身は、そうは思っていないらしい。
「ウロチョロて何やねん。俺はこの子の道案内を、やな……」
 風見がそう言って初名を指すと、弥次郎と呼ばれた男性ともう一人の男性が一斉に初名を見た。初名の視界には黒髪の弥次郎ともう一人、背は二人よりも少しばかり低い、パーカーとズボンを身に着けた男性が入って来た。そのパーカーの下から覘く肌の部分は、すべて包帯に包まれていて、いわゆるミイラ男状態だった。
 そりゃあ、道行く人が軒並み驚くわけだ。
「っ!!」
 その瞬間、初名の声が詰まった。
 だが風見たちはそのことに気付かない。
「道案内て……お前が?」
「無理やろ。風見さん、地図見ても迷うねんから」
「そ、そんなことないわい! なぁ? 何か言うたって……あれ?」
 そして、ようやく気付いた。
 さっきまで風見たちの大声を止めようとして自分も大声を出していた少女が、呑気な声を出すミイラ男を見た態勢のまま、気を失っていたことに。
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