上 下
18 / 47
恋人編ー3年生前期

和真のためならコスプレだってやってやる③

しおりを挟む
「よー、和真」
『り、りっ、璃央!? なにこの写真!?』
「ちょっと待ってろよ」

 ビデオ通話に切り替え、画面にめるちゃんの姿をした自分を映す。その瞬間、和真の奇声が聞こえて、後に続いて何かがドタンと倒れる音がした。たぶんイスから落ちたな。

「おい、おーい、かずまー。返事しろ」
『っ……!?、???』

「めっちゃ喜んでるじゃん」颯太の小声に頷く。
 しばらく謎のうめきが電話の奥で聞こえたあと、震えた声が戻ってきた。

『え、と、ほんとに璃央? 俺めるちゃんと話してる?』
「どうだ見ろ。マジでめるちゃんだろ。オレだってびっくりしてんだ」
『え、全く状況が理解できない、え、璃央、めるちゃん?』
「まあいろいろあってな。颯太の友達にやってもらった。なんかレイヤーってやつらしい」
『レイヤー!? すご!? え、で、璃央がめるちゃんのコスをしてるってこと……!? ちょ、めるちゃんすぎない? 最高レベルのクオリティなんだけど!? え!?やばい』

 電話ごしでもすげえ興奮が伝わってくる。これは相当和真に効いているみたいだ。

「和真、嬉しい?」
『え、まさかこれも俺のため……?』
「そーだよ、お前のためならオレはめるちゃんにだってなる」
『んえ……そんなの嬉しいに決まってんだろ……めちゃくちゃかわいい……ちょっとマジでおかしくなりそうなぐらい』

 喜んでくれた。やべえ、こっちまで嬉しい……やってよかった……

「猫耳見つけたよー!」

 沙羽の声とともに、頭に猫耳がつけられたのが画面に映ってわかる。電話の向こうではまた奇声が聞こえて、床に倒れる音がした。

「やべー! 似合いすぎだろ!」
「猫耳やばいね! ほかの耳も探しちゃお!」

 大晴は無言でいろんな角度からバシャバシャと写真を撮っている。

「璃央猫ちゃん、ポーズも頼む」
「んでお前にしなきゃいけねぇんだよ」
「俺の猫フォルダを潤沢にするため」
「それお前ん家の猫ばっかのフォルダだろ! 混ぜんな!」

 颯太がオレのスマホを持ち、画面をオレに向けている。和真の声は聞こえないが、なんか待たれてる気がする……和真のためなら、サービスしてやる!

 猫の手を作り、顔の近くに構えた。

「にゃん」

 スマホからは何度目かわからない奇声が聞こえたし、颯太と沙羽は拍手だし、大晴は膝から崩れ落ちた。

 ……なんだこれ。



『あの、璃央、そこにいるの璃央だけじゃないんだ……くそはしゃいで恥ず……』

 しばらくして、復活した和真の声が聞こえた。

「あー、こっちも言ってなくてごめん。そのレイヤーの家でやってんだ」
『どうりで璃央の部屋じゃないと思った』

 オレのスマホを持っていた颯太は画面をひっくり返し、自分の方に向けた。

「どーも、木山くん! 俺が颯太だよ!」
『わ、ど、どうも。璃央と俺の友達から話は聞いてるよ』
「お前が仕切るな、親しげに喋るな」

 颯太からスマホを奪い返し、大晴を映す。

「あとのメンツは……そこに倒れてるのは大晴な。オレが猫ポーズ決めたら死んだ」
「猫不足に効く……」
「どんだけ不足してんだよ。んで、クローゼット漁ってるのがレイヤーの沙羽」

 名前を呼ばれて、沙羽が振り返る。

「こんにちは~! サーニャって名前でレイヤーやってる沙羽だよ!」
『えっ、サーニャってあの!?』
「お、ボクのこと知ってる?」
『クオリティ高いってSNSで有名ですし……すごい、璃央、サーニャさんにメイクしてもらったんだ……サーニャさんってオフの日でもこんなかわ……』
「オレ以外にかわいいって言うな!」

 沙羽を映すのをやめて、画面いっぱいにオレを映す。

『うわっ、ちょ、急にめるちゃん映るの心臓に悪い!』
「オレの方がかわいいだろ!」
『かわいいよ!マジでかわいいから! わ~~睨むのかわいいからやめて! つらい!』

 和真がオレに悶えてるのが嬉しいし、すげえ優越感。あれこれポーズをキメてさらに困らせていると、腕を掴まれた。

「璃央くん、ちょっとこっちの服も着てみて!」
「え、待っ、和真……」
「その間スマホ貸して! もっと木山くんと喋りたい!」
「あ"ーー! コラ颯太てめー!」

 オレは動けるようになった大晴にガッチリ捕まり、沙羽によって着せ替えが始まった。

「離せっ、大晴~!」
「璃央猫は元気だな。暴れたら服破いちゃうだろ」
「お前、オレの猫扱いに拍車かかってんだろ!」
「璃央吸いできそうなレベル」
「いや~璃央くんが着れそうなメイド服あってよかった~!」

 バタバタしている間に颯太が和真に話しかけている。

「璃央に聞いたんだけど、木山くんって好きなキャラわかりやすいよね」
『はは……それよく言われる』

 和真びびってんだろ! 何言う気だ!

「んで俺、気づいたことがあって、単刀直入に言うけど、だいたい璃央に似てるよな!」
『えっ!?』
「木山くん、けっこう見た目で好きになるタイプっしょ? 昔っから璃央の顔見すぎて目が肥えたのと、そもそも璃央の顔が好きで、無意識で璃央に似た顔の子に惹かれてるんじゃない?」

 は?? マジ?? そんなこと、ある、のか??

『え、ええ……?? えーと……そりゃ璃央の顔は好きだけど……え、無意識で……?』

 あるかも!!

「和真!」

 ちょうど着替えが終わって解放された。颯太を押し退けてスマホに飛びつく。

「ま、マジで、そんなオレの顔好きなのか!?」
『わっ、猫耳メイドになってる!? かわいっ! いやでも言われてみれば、俺の推し、全体的に璃央に似てる気がするし、めるちゃんのコスした璃央はめるちゃんそのものだし……間違ってはないのかも……』
「和真……好き……!」
『その格好で言われると、璃央なのかめるちゃんなのか分かんなくなる!』
「それどっちにときめいてんだよ! オレだよな!」
『うわ~~っ、頰膨らますな! 表情コロコロ変えられたら心臓爆発する~~!!』
「てかオレに似たキャラ好きになるなら、オレだけでいいだろーが!」
『それとこれとは違うんだって! うわ、かわ、なん、かわ……あとで写真いっぱい送ってください!』


「「「バカップル……」」」





 和真との電話を終えてからは撮影タイムだった。どんどん小物や動物の耳が出てくるし、服もあれこれ着せられて、大量の写真を撮った。もちろん和真とのトークにアルバム作って全部送っといた。陽が落ちる頃になり、メイクを落としていつもの自分に戻った。モデルの仕事よりハードだった……

「は~、楽しかった。璃央くんほんとありがとね」
「こちらこそありがとな。和真が喜んでくれて嬉しかった」
「提案した俺のおかげでもあるな!」
「まあ、そうだな」

 広がった小物や服を片付けている沙羽のもとへ、立ち上がった大晴が向かう。あ、ついに覚悟決めたか。

「沙羽ちゃん……」
「ん?」
「俺、かわいい沙羽ちゃんに一目惚れしました。ずっとそばでかわいいって言い続けるから、俺と……」
「ごめん、ボクまだ恋愛する気にはなれないんだよね。今はコスに全力出したいから」

 大晴はまたしても崩れ落ちた。どんまい。

「でも、よければお友達として仲良くしたいな。かわいいって言われるのは好きなんだ」
「!」

 すばやく起き上がった大晴は沙羽の手を取り、ひざまづいた。

「よろしくお願いします!」
「まだチャンスはあるぞ大晴!」
「10年後に実ることもあるからな」

 にこっと微笑んだ沙羽は大晴の手を解き、こっちに来てオレの隣に座った。グッと身を乗り出してくる。

「でさあ、璃央くん。今度合わせしない?」
「合わせ?」
「同じ作品の衣装着て一緒にイベント行くの! 和真くんも呼ぼうよ! 反応見たいでしょ?」
「!」

 そりゃ、見たい。テンパって恥ずかしがる和真を、めるちゃんの姿で揶揄ってやりたい。かわいいに決まってる。

「璃央くんがめるちゃんで、ボクもライルセのキャラで。璃央くんの分の衣装も作るから、お願い! 和真くんきっと喜ぶよ!」
「和真が喜ぶ……」
「絶対喜ぶ!」
「よし、乗った!」

「デジャブ……」
「俺も行きたいな。沙羽ちゃんと璃央の写真撮りたいし」
「恋は盲目を乗せるのは簡単だね」

 こうなったらいくらでもやってやる。和真のために!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

媚薬使ってオナってたら絶倫彼氏に見つかって初めてなのに抱き潰される話♡

🍑ハンバーグ・ウワテナゲ🍑
BL
西村つばさ 21歳(攻め) めちゃくちゃモテる。が、高校時代から千尋に片思いしていたため過去に恋人を作ったことがない。 千尋を大切にしすぎて手を出すタイミングを見失った。 175cm 大原千尋 21歳(受け) 筋トレマニア。 童顔で白くてもちもちしてる。 絵に描いたかのようなツンデレ。 つばさが大好きだけど恥ずかしくて言えない。 160cm 何故かめちゃくちゃ長くなりました。 最初、千尋くんしか出てきません…🍑

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話

さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ) 奏音とは大学の先輩後輩関係 受け:奏音(かなと) 同性と付き合うのは浩介が初めて いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく

処理中です...