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セイレーンの洞窟
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「お前ら、喧嘩をしたらしいな。しかも国王が病に伏している寝室で、王妃様とアレク様の前で……」
楓月は原因の二人を鋭く睨みつけた。だがどちらも涼しい顔をしていて悪びれる様子はない。
「それは誤解だよ。俺はアズひとりでフォルを守り切れるのか心配なんだ」
「俺がいれば十分だと言っているだろう」
「昨日からこういう感じでして……」
「俺が呼ばれたのも納得だ。無駄な口論はするな。これから魔物の巣に行くんだぞ、気を引き締めろ」
さすが楓月、ド正論で頼もしい。これなら二人が喧嘩をしても止めることができそうだ。と、安心したのもつかの間……
「俺個人としての目的はフォル……お前の実力を見るためだ」
楓月の鋭い視線が、次は俺に向けられた。
「鎧を着て動くのが精一杯で、まともに剣を振れそうにない」
「う……」
「勇者といってもついこの間まで一般市民だったお前に魔物を倒せとまでは言わない。それは騎士団の役目だ。だが自分の身を守るぐらいできないと、危険なのはお前自身だ」
その通りだ。俺の心配をしてくれているのもあるが、楓月は実力主義だ。いわば俺はレベル1で仲間に魔王という最強カードを持っている状態。それを言うわけにはいかないし……俺に任せても大丈夫だって、納得してもらえるように頑張らないと……
「フォルのことは俺が絶対に守るから大丈夫だよ」
「いや、俺がいれば十分だと言っている」
「やめろ。何故そう張り合いたがるんだ」
またも火花が散ったところをビシャリと楓月が制す。放っておくとそのまま永遠と続きそうな言い争いはすぐに止められた。
それぞれが微妙な空気のまま旅は進み、港町に入ったところで馬車は止まった。馬車で進めるのはここまでらしく、帰る時まで待ってくれるみたいだ。御者にお礼を言い、町に降りた。
「ここも栄えてるなあ!」
まず目に入るのは立派な運河と奥に広がる海。道と水路はレンガで綺麗に整備されている。通りの店には活気があり行き交う人も多い。海風が気持ちよく流れていて、開放感がある。
「ここは西の国と近いから、貿易が盛んなんだ。騎士団の仕事で来る機会が多くてね。食べ物も美味しくて……あ、あのお店と、あっちに見える屋台もおすすめ」
「ほんとだ、いい匂いする。美味そう」
「おい、任務が終わってからにしろよ。セイレーンの洞窟の詳しい場所は分からない。まずは聞き込みだ」
あちこちの美味しそうな店に目もくれず、楓月は港に向けてすたすたと歩いていく。後をついていきながら陽凪が笑って呟く。
「ああ言ってるけど、エインの好きな店もあってね。食べるの楽しみにしてるんだよ」
「聞こえてるぞルクス!」
「ははは」
やり取りが前世と変わらない。昔に戻ったみたいで楽しいな……
港で船乗りや貿易船の操縦士に聞き込みをし、セイレーンの洞窟の情報を手に入れた。
町はずれの岬に魔物がいると噂されていて、この町の人たちは近づかないようにしているらしい。貸してもらった小舟でそこに向かうと、崖の隙間に洞窟の入り口があった。先は暗く、ずっと奥深くまで続いていそうだ。アズノストが魔法で出してくれたランタンを片手に進む。中は鍾乳洞みたいになっていて、濡れた地面で足を滑らせそうだ。外と気温がずいぶん違っていて手足が冷えてくる。
先頭の楓月に続いて進むが、魔物は一匹も見当たらない。
「おかしいな。魔物の住処なんじゃないの?」
「隠れているのかもしれない。注意して進むぞ」
そりゃあ陽凪と楓月からしたら疑問に思うよな。魔物に命じた当の本人は知らぬ顔だ。
魔物のいなくなったただの洞窟の奥へと進んでいると、楓月が足を止めた。
「……何か聞こえる」
「そうだね」
耳を澄ませると洞窟の空間に響いてかすかに何かが聞こえる。これは……歌だ。
「おそらくセイレーンの歌声だろう」
陽凪と楓月がいる手前、アズノストは予測で話しているように見せかけている。
「綺麗な声……」
「そうだな」
こんなにかすかに聴こえるだけでも澄み渡る泉のように綺麗な歌声なのが分かる。心が洗われるみたいだ。もし動画サイトとかがあればバズりまくってただろうなあ。
「綺麗だけど……セイレーンの歌声は船乗りを惑わすと言われている。魔力がこもっているんだろうし、あまり油断しないでね」
「ルクスの言う通りだ。先に進むぞ」
そうだよな、二人の立場だとそう思うのが普通なんだよな。まだセイレーンと直接会ったわけじゃないけど、こんなに心のこもった綺麗な歌を歌っている魔物のことを疑いたくないな。船乗りを惑わすのだって、なにか訳があるんじゃないかって……
楓月は原因の二人を鋭く睨みつけた。だがどちらも涼しい顔をしていて悪びれる様子はない。
「それは誤解だよ。俺はアズひとりでフォルを守り切れるのか心配なんだ」
「俺がいれば十分だと言っているだろう」
「昨日からこういう感じでして……」
「俺が呼ばれたのも納得だ。無駄な口論はするな。これから魔物の巣に行くんだぞ、気を引き締めろ」
さすが楓月、ド正論で頼もしい。これなら二人が喧嘩をしても止めることができそうだ。と、安心したのもつかの間……
「俺個人としての目的はフォル……お前の実力を見るためだ」
楓月の鋭い視線が、次は俺に向けられた。
「鎧を着て動くのが精一杯で、まともに剣を振れそうにない」
「う……」
「勇者といってもついこの間まで一般市民だったお前に魔物を倒せとまでは言わない。それは騎士団の役目だ。だが自分の身を守るぐらいできないと、危険なのはお前自身だ」
その通りだ。俺の心配をしてくれているのもあるが、楓月は実力主義だ。いわば俺はレベル1で仲間に魔王という最強カードを持っている状態。それを言うわけにはいかないし……俺に任せても大丈夫だって、納得してもらえるように頑張らないと……
「フォルのことは俺が絶対に守るから大丈夫だよ」
「いや、俺がいれば十分だと言っている」
「やめろ。何故そう張り合いたがるんだ」
またも火花が散ったところをビシャリと楓月が制す。放っておくとそのまま永遠と続きそうな言い争いはすぐに止められた。
それぞれが微妙な空気のまま旅は進み、港町に入ったところで馬車は止まった。馬車で進めるのはここまでらしく、帰る時まで待ってくれるみたいだ。御者にお礼を言い、町に降りた。
「ここも栄えてるなあ!」
まず目に入るのは立派な運河と奥に広がる海。道と水路はレンガで綺麗に整備されている。通りの店には活気があり行き交う人も多い。海風が気持ちよく流れていて、開放感がある。
「ここは西の国と近いから、貿易が盛んなんだ。騎士団の仕事で来る機会が多くてね。食べ物も美味しくて……あ、あのお店と、あっちに見える屋台もおすすめ」
「ほんとだ、いい匂いする。美味そう」
「おい、任務が終わってからにしろよ。セイレーンの洞窟の詳しい場所は分からない。まずは聞き込みだ」
あちこちの美味しそうな店に目もくれず、楓月は港に向けてすたすたと歩いていく。後をついていきながら陽凪が笑って呟く。
「ああ言ってるけど、エインの好きな店もあってね。食べるの楽しみにしてるんだよ」
「聞こえてるぞルクス!」
「ははは」
やり取りが前世と変わらない。昔に戻ったみたいで楽しいな……
港で船乗りや貿易船の操縦士に聞き込みをし、セイレーンの洞窟の情報を手に入れた。
町はずれの岬に魔物がいると噂されていて、この町の人たちは近づかないようにしているらしい。貸してもらった小舟でそこに向かうと、崖の隙間に洞窟の入り口があった。先は暗く、ずっと奥深くまで続いていそうだ。アズノストが魔法で出してくれたランタンを片手に進む。中は鍾乳洞みたいになっていて、濡れた地面で足を滑らせそうだ。外と気温がずいぶん違っていて手足が冷えてくる。
先頭の楓月に続いて進むが、魔物は一匹も見当たらない。
「おかしいな。魔物の住処なんじゃないの?」
「隠れているのかもしれない。注意して進むぞ」
そりゃあ陽凪と楓月からしたら疑問に思うよな。魔物に命じた当の本人は知らぬ顔だ。
魔物のいなくなったただの洞窟の奥へと進んでいると、楓月が足を止めた。
「……何か聞こえる」
「そうだね」
耳を澄ませると洞窟の空間に響いてかすかに何かが聞こえる。これは……歌だ。
「おそらくセイレーンの歌声だろう」
陽凪と楓月がいる手前、アズノストは予測で話しているように見せかけている。
「綺麗な声……」
「そうだな」
こんなにかすかに聴こえるだけでも澄み渡る泉のように綺麗な歌声なのが分かる。心が洗われるみたいだ。もし動画サイトとかがあればバズりまくってただろうなあ。
「綺麗だけど……セイレーンの歌声は船乗りを惑わすと言われている。魔力がこもっているんだろうし、あまり油断しないでね」
「ルクスの言う通りだ。先に進むぞ」
そうだよな、二人の立場だとそう思うのが普通なんだよな。まだセイレーンと直接会ったわけじゃないけど、こんなに心のこもった綺麗な歌を歌っている魔物のことを疑いたくないな。船乗りを惑わすのだって、なにか訳があるんじゃないかって……
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