暴君王子の顔が良すぎる!

すももゆず

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かわいいって何だ?

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 食事を終えてからは昨日と同じように王子の執務の補佐。大きい執務机には大量の紙束が積み重なっている。

「昨日よりも書類の量、多いですね?」
「これは朝の分だ。これから昼の分に取りかかる」
「朝寝た分のツケですか……今日中に終わるんですか?」
「お前、一日俺と過ごしただけで随分と物を言うな」
「はっ、すみません! 生意気なことを言いました!」

 動かしていた手を止め、頭を下げる。やばい、王族相手なのにずけずけと……というか普通に会話してた……いくら王子との利害の一致といっても、油断してたらクビになる。気を張り直さないと。

「俺としては一挙一動にビクビクされる方が不愉快だからな。お前はそれでいい」

 それでいい……
 柔らかいとも言えないけど、決して怒ってはいない声に顔をあげると、王子は少しだけ微笑んでいた。その笑顔はキラキラとしていて、眩しい。

「顔、良っ……」

 やべ、尊すぎて声に出た。

「当たり前だ。それより手を動かせ。終わらんだろ」
「はい! ……澄ましてますけど、仕事溜まって、けっこう切羽詰まってます?」
「うるさい。今日はいつもより多いだけだ。俺は明日に仕事を残したくない」

 口は悪くて高圧的だけど、あんまり怖くないな。俺にはわかりやすい仕事を振ってくれるし……顔も綺麗だし、俺と食事して喜んでくれるし。初見はただの暴君かと思ったけど素直じゃないだけで中身は優しいのかな。BLゲームの登場人物だし、ギャップのギャップを狙ってるのかもしれない。かっこいいけどかわいいな。

 ん? かわいい……な……?

「おい、ボーッとするな」
「はっ」

 王子が書類で俺の頭をバシンと叩いた。飛ばしてた意識を戻すと、王子のサファイア色に輝く瞳が俺を映す。

「あ、その……」
「なんだ」
「すみません、見惚れていました」
「見惚れるのはいいが、手を動かせと言っているだろ」

 ああ、怒っても顔がいい……
 でもそれだけじゃない。頬が熱い。なんだろ、さっきまでとは違うドキドキが……





 その日の夜。王子との仕事を終えてから皿洗いのため厨房に向かった。

「ジェード、寝過ごしたんだって? 気にすんなって! 初めての仕事で疲れたんだろ」
「はは……」

 隣で同じく皿を洗いながら、ベリルが陽気に励ましてくれた。正しくは寝坊ではないんだけど……イオさんがいい感じに伝えてくれたんだろう。

「というか、ベリルはなんで手伝ってくれるんだ? これは俺の罰なのに」

 厨房にはほとんど人影は残っていなかった。残っている人は明日の仕込みをしていたり、仕事が終わったからか、酒を飲んだりしている。酒を飲むのはいいのか?

「手伝いじゃねぇよ。皿洗いは下っ端の仕事だからな」
「すごいな……」
「全然すごくねえ。やっぱ城の料理人ってレベル高くて驚いた。もっと立派な料理人になってやる」
「はー。やっぱすごいよ、かっけえ」

 ベリルは少し頬を赤くして嬉しそうに笑い、俺と目を合わせた。

「お前だってすげーじゃん。王子の従者なんて。町にいる頃、修行?とか言って頑張ってたもんな」
「うん、ありがと」

 見ててくれたんだ……ごめん、ベリルが城の料理人の試験受けるの知らなくて。周り見えてなさすぎた。王子のことしか見てなかった……

「なあ、ベリルは、イーディス王子のことどう思う?」

 手を動かしながら、何気なく聞いてみる。

「イーディス王子? 顔だけしか見たことないけど……綺麗な顔だとは思うな。でもイーディス王子だけじゃなくて、ここの王族はみんな容姿端麗だよなあ」

 そういえばそうだな……イーディス王子がド好みすぎてほんとにイーディス王子しか見てなかったけど、みんな綺麗だ。

「イーディス王子のことかわいいと思う?」
「かわいい……? かわいい、は違う気がする」
「じゃあさ、かわいいってどんなときに思う?」
「は? なんだその質問。お前今日おかしいぞ。そんなにへこんでんのか?」

 ベリルは顔をあげ、眉を寄せた。
 まあ、そりゃそうなるよな……男相手にかわいいってどういう感情なんだろ。前世でも思ったことないからわかんねえな……


「好きな相手には……思うかな」

 静かに響いたその声は、強い意思を持っていた。
 目を伏せ、再び手を動かしはじめたベリルの表情はわからなかった。

 好きな、相手……

「……なるほど?」
「疑問で返すなよ! 真面目に答えたのに!」
「ってことは、え、ベリル、好きな人いんの!?」
「内緒」

 ええ……と口を曲げると、ベリルはニカッと笑った。

「さ、これ終わらせようぜ。終わったら俺たちも飲むか!」
「それは新人だしやめとこ……」
「じょーだんだって! ほんとお前はからかいやすくて、かわ……うん、おもしろいな」
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