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理学部棟はトラブルだらけ
11.香水の男①
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時刻は少し前。由宇が図書館で三谷と話している頃、七星はスキップ交じりに由宇受けていた講義室に向かっていた。
(ふっふっふ。翔太くんは講義で玲依くんは調理実習。そう、今の時間由宇くんは完全フリー! 俺だけの時間になる!)
……と、由宇含め周りの人間の受けている講義を全て把握している七星は、上機嫌で由宇の講義が終わる時間に講義室に押しかけた。が、そこに由宇の姿はなかった。たまたま少し早めに講義が終わったらしく、講義室は友達と談笑したり、帰る準備をしている人たちばかりだった。
「あ、由宇の友達の金髪美形!」
呆然としながら、ドアから講義室を見渡していた七星を指さす人物がいた。七星めがけてドタバタと近づいてくる。
「誰?」
「間近で見るの初めてだな~うわ、顔面偏差値爆高え。目も緑だし肌も真っ白。キレ~」
「ほんとに誰だよあんた」
じろじろと失礼なほど見られ、七星の機嫌はどんどん悪くなっていく。
「ごめんごめん。俺は笹木。由宇の友達」
「へーそう。というか俺、由宇くんの友達じゃないし。俺は由宇くんの恋人!なの!」
「んなの由宇から聞いたことないけど……」
「由宇くんは照れ屋さんだからねえ」
「どっちかというと翔太の方が彼氏っぽいけどな」
「はあ!?」
笹木は七星の逆鱗に触れた。七星はものすごい形相で掴みかかる。
「目ぇ腐ってんの!? 翔太くんよりも玲依くんよりも、俺の方がお似合いでしょ! いいからさっさと由宇くんがどこ行ったか教えろよ」
「口悪っ!」
「ほら早く」
「由宇なら課題片付けるからって図書館にいったぞ」
「図書館……わかった。どうもありがとーね」
ひらりと去っていく七星の背を見つめながら「綺麗な花にはトゲがある的な感じか……」と笹木はひとりで納得していた。
そして広い図書館を隅々まで探しても、由宇は見つからなかった。
(いないじゃん! ササ……なんとかってやつ、俺を騙したなあ!?)
すれ違う可能性もあるため、図書館カウンターのお兄さんに由宇の写真(大量に複製したもののひとつ)を渡し『この子が通ったら呼び止めてください♡』と頼んでおいた。ひとまず情報を得るためカウンターまで戻ろうとすると、
「あれ、音石?」
背後から声をかけられた。振り向くと、井ノ原と志倉が揃って立っていた。
「おにーさんと厨房のおにーさん」
「よう、俺とはあん時以来だな」
「そんなとこで突っ立って、困りごとか?」
井ノ原とはカフェに客として行くから多少は会うものの、志倉とはバイト体験をしたとき以来だ。
「ねえ、由宇くん見なかった? ここにいるって聞いたんだけど」
「ああ、見たぞ」
「どこで!」
七星は声を張り上げて食いつく。現在七星たちがいるのはグループワーク用フロアのため、声の大きさを咎められはしなかった。
「ここ来るときにすれ違って、ちょい話した。見たことない人と一緒にどっか行ったぞ」
「誰だよそれ! 特徴は!」
井ノ原と志倉は少し考え込んだあと、話し出す。
「なーんかスマートで大人っぽかったよな。尾瀬の周りはイケメンばっかなのか?」
「髪も服もキッチリしてたな。尾瀬って人から好かれやすいタイプだよなあ。接客やってる身としては羨ましいよ」
「海先輩も、まあまあそこそこだと思うけど」
「まあまあそこそこ、ってすげえ平均的じゃん! もっと評価上げろ!」
「上げたら上げたで照れるくせに」
「……っ漫才はじめんな!」
この2人に会話をさせたら際限なく続く。七星は痺れを切らした。
「大人しく聞いてたら関係ないことをベラベラと……こっちは真剣に由宇くん探してんだよ!」
「ごめんごめん」
「なら、メッセージとか電話とかすればいいんじゃねーか?」
志倉の提案に、七星はわざとらしくため息をついた。
「由宇くんが俺のメッセージに返信すると思う?」
「えっ……なんかすまん」
「由宇くんは未読無視、既読無視の常習犯だからね。それでも送るけど」
「俺とのやりとりはそんなことないぞ?」
バイトのシフトの件でよくメッセージを交わしている井ノ原は軽く首をかしげる。そこに志倉が悪気なく追い討ちをかける。
「送りすぎてウザがられてるんじゃね?」
「……とにかく、他に相手の特徴は……」
(送りすぎてる自覚はあるんだな……)
井ノ原と志倉は苦笑いで顔を見合わせていると、白衣のポケットに入れた七星のスマホが振動した。ロック画面には由宇からの返信が表示されている。
「由宇くんから返信……!?」
井ノ原と志倉も回り込んで両側から七星のスマホを覗く。
送信済みになった『由宇くん、会いたいな♡ 今どこにいるか教えて?』のメッセージと、ぴえんと瞳を潤ませる可愛らしいうさぎのスタンプ。
それに対して由宇からは、『ごめん、用があるから今日は会えない』と綴られ、謝る猫のスタンプが送られてきていた。
「よかったな、返信きたじゃん」
「断られてるけどな……」
井ノ原は七星の小さな肩をぽんぽんと叩いたが、七星は目を伏せて、ふるふると首を振った。
「違う。これは由宇くんが打ったメッセージじゃない」
(ふっふっふ。翔太くんは講義で玲依くんは調理実習。そう、今の時間由宇くんは完全フリー! 俺だけの時間になる!)
……と、由宇含め周りの人間の受けている講義を全て把握している七星は、上機嫌で由宇の講義が終わる時間に講義室に押しかけた。が、そこに由宇の姿はなかった。たまたま少し早めに講義が終わったらしく、講義室は友達と談笑したり、帰る準備をしている人たちばかりだった。
「あ、由宇の友達の金髪美形!」
呆然としながら、ドアから講義室を見渡していた七星を指さす人物がいた。七星めがけてドタバタと近づいてくる。
「誰?」
「間近で見るの初めてだな~うわ、顔面偏差値爆高え。目も緑だし肌も真っ白。キレ~」
「ほんとに誰だよあんた」
じろじろと失礼なほど見られ、七星の機嫌はどんどん悪くなっていく。
「ごめんごめん。俺は笹木。由宇の友達」
「へーそう。というか俺、由宇くんの友達じゃないし。俺は由宇くんの恋人!なの!」
「んなの由宇から聞いたことないけど……」
「由宇くんは照れ屋さんだからねえ」
「どっちかというと翔太の方が彼氏っぽいけどな」
「はあ!?」
笹木は七星の逆鱗に触れた。七星はものすごい形相で掴みかかる。
「目ぇ腐ってんの!? 翔太くんよりも玲依くんよりも、俺の方がお似合いでしょ! いいからさっさと由宇くんがどこ行ったか教えろよ」
「口悪っ!」
「ほら早く」
「由宇なら課題片付けるからって図書館にいったぞ」
「図書館……わかった。どうもありがとーね」
ひらりと去っていく七星の背を見つめながら「綺麗な花にはトゲがある的な感じか……」と笹木はひとりで納得していた。
そして広い図書館を隅々まで探しても、由宇は見つからなかった。
(いないじゃん! ササ……なんとかってやつ、俺を騙したなあ!?)
すれ違う可能性もあるため、図書館カウンターのお兄さんに由宇の写真(大量に複製したもののひとつ)を渡し『この子が通ったら呼び止めてください♡』と頼んでおいた。ひとまず情報を得るためカウンターまで戻ろうとすると、
「あれ、音石?」
背後から声をかけられた。振り向くと、井ノ原と志倉が揃って立っていた。
「おにーさんと厨房のおにーさん」
「よう、俺とはあん時以来だな」
「そんなとこで突っ立って、困りごとか?」
井ノ原とはカフェに客として行くから多少は会うものの、志倉とはバイト体験をしたとき以来だ。
「ねえ、由宇くん見なかった? ここにいるって聞いたんだけど」
「ああ、見たぞ」
「どこで!」
七星は声を張り上げて食いつく。現在七星たちがいるのはグループワーク用フロアのため、声の大きさを咎められはしなかった。
「ここ来るときにすれ違って、ちょい話した。見たことない人と一緒にどっか行ったぞ」
「誰だよそれ! 特徴は!」
井ノ原と志倉は少し考え込んだあと、話し出す。
「なーんかスマートで大人っぽかったよな。尾瀬の周りはイケメンばっかなのか?」
「髪も服もキッチリしてたな。尾瀬って人から好かれやすいタイプだよなあ。接客やってる身としては羨ましいよ」
「海先輩も、まあまあそこそこだと思うけど」
「まあまあそこそこ、ってすげえ平均的じゃん! もっと評価上げろ!」
「上げたら上げたで照れるくせに」
「……っ漫才はじめんな!」
この2人に会話をさせたら際限なく続く。七星は痺れを切らした。
「大人しく聞いてたら関係ないことをベラベラと……こっちは真剣に由宇くん探してんだよ!」
「ごめんごめん」
「なら、メッセージとか電話とかすればいいんじゃねーか?」
志倉の提案に、七星はわざとらしくため息をついた。
「由宇くんが俺のメッセージに返信すると思う?」
「えっ……なんかすまん」
「由宇くんは未読無視、既読無視の常習犯だからね。それでも送るけど」
「俺とのやりとりはそんなことないぞ?」
バイトのシフトの件でよくメッセージを交わしている井ノ原は軽く首をかしげる。そこに志倉が悪気なく追い討ちをかける。
「送りすぎてウザがられてるんじゃね?」
「……とにかく、他に相手の特徴は……」
(送りすぎてる自覚はあるんだな……)
井ノ原と志倉は苦笑いで顔を見合わせていると、白衣のポケットに入れた七星のスマホが振動した。ロック画面には由宇からの返信が表示されている。
「由宇くんから返信……!?」
井ノ原と志倉も回り込んで両側から七星のスマホを覗く。
送信済みになった『由宇くん、会いたいな♡ 今どこにいるか教えて?』のメッセージと、ぴえんと瞳を潤ませる可愛らしいうさぎのスタンプ。
それに対して由宇からは、『ごめん、用があるから今日は会えない』と綴られ、謝る猫のスタンプが送られてきていた。
「よかったな、返信きたじゃん」
「断られてるけどな……」
井ノ原は七星の小さな肩をぽんぽんと叩いたが、七星は目を伏せて、ふるふると首を振った。
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