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風邪を引いた由宇

12.溢れた涙*side玲依

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 深くため息をつき、リビングまで戻る。なんかどっと疲れた……そりゃそうだ、熱あるんだった。部屋に戻る前にリビングのソファに身を投げ出した。

 怒られるよ……嫌われろ……

 音石のムカつく笑顔と言葉が脳内で回りだす。
 あいつ、来るタイミングが最悪すぎて、俺が決心したのを見かねてたみたいだ。

 音石には強がってああ言ったけど、ほんとは由宇に言うことは怖いんだ。音石に痛いところを突かれてさらに迷ってしまった。これじゃああいつの思い通り……

 うじうじ悩んで言えない自分が最低すぎて嫌になる。
 そもそもこんな大事なことメッセージで送ろうとしてたのもバカみたいだ。直接言わないと伝わらない。

 気分を沈めながらスウェットのポケットからスマホを取り出し、由宇とのメッセージを開く。スクロールして、会話のひとつひとつを眺める。

「はあ……かわいい……」

 由宇に知られたら引かれるだろうけど、俺はほぼ毎日由宇と交わしたメッセージをガン見している。
 キスの罪悪感に苛まれていてもやっぱりかわいいもんはかわいい。

 ごちゃごちゃの感情のまま画面を見つめていると、いきなりスマホが振動した。驚いたはずみで顔に落とした。

「いっ……た…… なんだ、芽依からか……」

 鼻を押さえながら画面を確認する。
 由宇からメッセージがきたんじゃないかと一瞬焦ったが、違った。残念なようなホッとしたような……


「"今度お礼にご飯奢ってね"……?」

 芽依からの意味深なメッセージがひとつだけ。

 双子だけど、テレパシーがあるわけじゃない。芽依は俺に恩をきせるとき必ず飯を要求してくる。何かあったかな、と少し考えてみたけど心当たりがない。

 どういうことだよ、と画面をタップし始めたとき、インターホンが再び鳴った。

「また……? 今日は客が多いな……」

 リビングにまだいてよかった。インターホンはすぐ近くだし、とりあえず確認だけ……


「ッ!?」

 インターホンの画面を見た瞬間、玄関に走っていた。熱が出てることなんて忘れて、足がもつれて、何も履かずにドアを開けた。



「ゆ、由宇!?」

 ドアの外にはずっと頭で思い描いていた、大好きな人が立っていた。思わず頭から爪先までを視線でなぞってしまう。

 由宇は息を切らす俺を見て眉をつり上げた。

「お前、慌てすぎ! 外からでもバタバタ聞こえたし……熱あるんだろ、ゆっくり動け!」

「なんっ、なんで、由宇が……!?」

 途切れ途切れに言葉が出てくる。
 俺のこと、し、心配してくれてる……!? 夢じゃないよね、やば、めっちゃ嬉しい……! どんどん心拍があがった。

「芽依から聞いて……その……お見舞いに……これはあれだからな! 俺のお見舞い来てくれたし……その礼だから……!」

 由宇は照れながら手に持っていた紙袋を俺に向けた。
 ええ……ツンデレじゃん……かわ……! 芽依、ありがとう……!

「あ、ありがたく頂戴します……」
「なんで敬語?」

 顔を覆いながら受け取った。


 ……が、それと同時に由宇の顔を見てキスの件を思い出してしまう。舞い上がっていた気持ちが急激に冷えていく。

「風邪、俺のがうつったんだろ? ……ごめん」

 由宇は少しうつむき気味に呟いた。

 ……俺のこと心配して来てくれたのに……風邪ひいたのは勝手にキスした俺の自業自得なのに……ごめん、由宇、ごめん……


「由宇~~~~~~っ」

「泣っ……!? 情緒不安定!?」

 由宇のかわいさと心配してくれて嬉しい気持ちと自己嫌悪と罪悪感が入り混じってどうしようもなくて子どもみたいに涙が溢れた。

 自分でも涙腺がゆるすぎて驚いた。たぶん熱のせいだ。また由宇にかっこ悪いところを見せてしまった。止めようとすればするほど溢れていく。情けない。

「欲深くて最低な男でごめん……でも嫌わないで……由宇に嫌われたら俺は……」
「どういうこと!?」

 涙を拭っていると、由宇の手が肩に触れた。距離が近くてさらにドキドキと鼓動が鳴った。俺がふらついたから支えてくれたんだと理解する。


 あわあわしている由宇もかわいい、と不謹慎にも思いながらボロボロ流れる涙は止まらなかった。
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