神様見習いと黒き魔法

瑞樹凛

文字の大きさ
上 下
6 / 19
第1章〜神様になれるほど強いけど、ぐーたらな生活をしたい〜

再開!

しおりを挟む

「そうか。そうだよな、初めて魔獣と対峙したんだろう?」

「ええ」

「そうか、わかった……」

 あぁ、良かった。
 彼は案外あっさりと承諾してくれた。
 ……慈悲の目でこちらを見ているけども、あの私の狼狽した様子を見ればそうだろう。

 会話も切り上げて、早く帰ろう。

 一緒のグループになる人にも申し訳ないけど、会わないで帰った方がよさそう。
 ……会ったら絶対に引き止められちゃうもんね。

 ちらりと会場の出入り口を見たが随分人が多い。

 隠れるところを探してから『存在稀釈』した方がいいかな。
 そしたら『瞬間移動』で即帰宅しよう。
 お母さんお父さん……期待してたのにごめんね。
 私は臆病なのでお家に帰ります。

 きょろきょろしながら考えていたら、目の前の彼が口を開いた。

「あんたのことちゃんと考えられなくて、申し訳ない。次は怖い思いさせないから。ちゃんと、守るからな」

「ええっ?」

「随分……怯えていたみたいだったな。すぐに気付かなくて、悪かった」

「あの、私は……」

 驚いた顔で彼を見上げると、その表情は真剣そのものだった。

 あれ、話が伝わっていないのだろうか。
 いやいや、ここははっきりさせておかないと!

 そう意気込んで口を開きかけた時、広場の入り口の方から響き渡る大きな声がした。

「いたいた!47番と48番の人っ!!」

 向こうから2人の男の子と女の子が走ってくる。 
 おっとっとー……。
 お家に帰るタイミングが……。

 男の子の方は、白髪でマッシュルームカット、眠たそうに半分閉じている瞳は綺麗なライムグリーンだ。
 小柄でサイズがなかったのか萌葱色のコートはぶかぶかだ。
 私より年下かな。

 女の子の方はセミロングの金髪にぱっちりとした薄紫色の瞳。
 今の大きな声は彼女からだった。
 おしとやかそうに見えるけど、意外とハキハキしているのかもしれない。
 ブラウンの可愛らしいコートを着ていて、身長は高く胸も大きい……。
 わあすごいなー。

「突然で悪いが、2人にお願いがある。俺と一緒にこいつを守ってほしい!!」

 彼はトンっと私の背中を押した。

「ひょえ!」

 ちょっ、ちょっと待って。
 私は次の試験を受けるなんて、一言も……。
 訂正しようとするが、金髪の女の子がにっこり笑顔になった。
 あっ、ほんとにちょっと待って……。

「うん!いいよ!!私はピアノ。ピノって呼ばれてる」

 即答ー!
 優しさが滲みる!!

「シオンだ!助かるぜ!」

「何か訳ありなの? ああ、僕の名前はジュエルだよ」

 少し遅れてきた白髪のジュエルという男の子が、ちらちらとこちらを見てきた。
 すかさずシオンが説明する。

「この子はまだ戦闘経験がないらしいんだ。さっきもかなり怯えててな……。可哀想だろ……。だから、俺たちで助けてやらなくてはと思ってな!」
「まぁ! では作戦会議しなくちゃね!」
「協力するよ」

 3人は目を合わせて、頷き合っている。
 勘弁してほしい。
 悪気はないしとっても良い人たち。
 うん……とっても良い人たちね。
 私は目の前が真っ白になった。


 グループ試験の内容は、4人1組で森の中の薬草を一定数取ってくるというもの。
 しかし森の中には、ガルガラ程の魔獣はいないものの小さな魔獣がいて、しかもトラップだらけだ。

 グループ試験と言う通り、初めて会った者同士でどこまで連携がとれるか。
 1人でも突破できるだろうが、薬草をとるのに時間もかかる。
 効率的にトラップを回避しながら、薬草を採取する必要があるのだ。


 ……ちなみに私は手を顎に添えてどうやって事を起こさずに、お家に帰るかを考えていた。

 いっそのこと、遠方に魔法を使っちゃって混乱に乗じて逃げようか……。
 いやそれだと、シオンたちが気づいてが騒ぎが大きくなるわね。

 ……じゃあ、シオンたちに任せて魔法を使わないで乗り切るっていうのはどうかしら。
 試験合格に協力できないのは申し訳ない、けど……。

 決めた。
 本当に魔法が必要な時は慎重に。
 なるべく魔法は使わない。

「よしっ!!絶対にライムを守り切り、俺たちで合格するぞーーっ!」

「「おおーー!!」」

 き、気合いがすごい……!
 それもそうよね。
 ……これからの人生がかかっているんだものね。

「お、お~」

 弱々しく拳を合わせ、私たちは蒼い移動用魔法陣の上に足を踏み入れた。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

翠玉の魔女

鳥柄ささみ
ファンタジー
かつて、翠玉の魔女という国を一晩で滅ぼすほどの強力な魔力を持つ魔女がいた。その魔女は無垢で純粋で世間知らずで騙されていることなど理解できず、ただ言われるがまま国を滅ぼした。 だが、自分の過ちは理解できた。一瞬で消えた国の人々の想いに苛まれながら、魔女はただひっそりと静かに暮らしていた。 そう、まるで憧れの絵物語の王子様のような彼に出会うまでは。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...