神様見習いと黒き魔法

瑞樹凛

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第1章〜神様になれるほど強いけど、ぐーたらな生活をしたい〜

神様どうか私をぐーたらな生活に。

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 長身の彼がぐいっと前へ足を踏み出し、魔獣へ駆け寄る。それに気づいた魔獣は後退りし咆哮する。ビリビリと空気が揺れる。
 彼は負けじと咆哮に耐え、片手を魔獣に向けながら更に近づく。

 うあ……い、今だ!!!

 ライムは右手に力を込めて、彼に瞬間移動の魔法をかける。
 彼は魔獣のすぐ後ろへ飛び、瞬時に束縛魔法を放った。

束縛レストレイントの鎖チェーン!!」

 彼の手から重い鎖が伸びていく……。
 そして……。


「ピーッ!!」


 巨体な魔獣は彼の魔力でできた鉄の鎖によって縛られ、同時に試験終了の笛が鳴る。
 
 ほっと息を吐くが、まだ心臓の音は鳴り止まない。
 吐きそう……。

 私の記憶。
 何故今、蘇ったのかはわからない。
 そう、わたしは幼少の頃の記憶がなかった。
 ずっと思い出せないでいた。
 
 ーーその理由がやっと、わかった。
 思い出しちゃいけなかったんだよ……。

「すぅーはぁーっ」

 大きく深呼吸する。
 落ち着いて……落ち着いて……。
 ここはミザリじゃない。
 痛いことする研究者も、いない。

 胸に手を当てる。
 うぅ……。
 上手くいかない……。
 ドクドクが、鳴り止まない。
 ああ……泣きそ。

 ふと目の前の困惑の色を浮かべた瞳と目が合った。
 お礼は…言わないと。

「さっきは、どうもありがとう、ございました」

 かすれた声。
 だけど、ちゃんと言葉にはできたみたい。
 この人が声をかけてくれなかったら、私はきっと逃げていた。
 明らかな挙動不審だ。
 試験もパーになっただろうし、彼にも迷惑がかかるところだった。

「もう落ち着いたか?」
「はい、おかげさまで……」

 さらりと嘘をつく。
 やっと視野が広がってきた。

 答えながら改めてスタスタと近付いてくる男性を観察する。

 顔のパーツは整っていて、紅の短髪に銀のメッシュがよく合っている。
 加えて堂々としていて隙がない。
 キリリとした翡翠色の瞳は、全て見透かされそうなくらいに澄んでいた。

 歳は少し上くらいだろう。
 服装は……グレーの質の良さそうなコート。
 胸元に何かのシンボルマークが金の刺繍で縫ってある。

 近くにくるとその男性は目を丸くして、

「嘘はいけない」

 と言った。

「…………っ」

「まだ、目も泳いでいるし、喉元に手がいっている。不安だったんだな。それと足先も俺と別な方を向いている。逃げ出したい証拠だ」

 見透かされている……。
 いつの間にか、自分の喉元を捻るように手を添えていた。
 無意識の行為だった。

「ここじゃあれだし、せっかくだ、次のグループ試験まで一緒に話さないか?」

「あっ、ええと、はい」

 なんでわかったんだろう。
 ああそれにしても。
 ……次の試験は断らないと。

 彼から数歩下がって広間の隅までとぼとぼとついていく。

「私……次の試験は降りようと思います」

 申し訳ないと思いながら男性に伝えた。
 きっと次のグループ試験の話をしたかったんだろうなぁ。

「……それは困るな」

「私では力不足です。さっきの動きを見たでしょう? あれではきっと合格にはならないわ。それだったら受けない方がいいです」

「補助魔法は完璧だったが」

「私は……魔法を使う時、テンパってしまうんです。今回ので身の丈を知りました……」

 私はあたかも残念そうに首を横に振る。
 もう誰かに干渉されるのは嫌だった。
 もちろん、痛い思いをしたくないという気持ちも強いけど、それ以上に人と関わりたくなかった。

 私は……きっと加減ができない。
 どこかでボロが出る。
 これくらいなら、と思ったことが周りから見ると予想外の魔法かもしれない。
 もう油断はできない……。
 さっさといつも通りのぐーたらな生活に戻ろうと思った。

「それだと……俺も不合格だな」

「えっ」

「試験要項をちゃんと見なかったのか?4人で1グループ。つまり、3人ではグループになれないんだ。あんたが抜けたら、俺たちは失格になる。グループ試験の直前に仲間探しなんて無謀すぎるし、みんなすでにグループを組んでいるからな。……お願いだから辞めるなんて言わないでくれよ?」

 嘘、そんなルールがあったの?
 聞いてないよ?
 う、やっぱり……見てないだけかも。

「あーー。その、ごめんなさい!」

 申し訳ないです……!!
 でもね!自分の命かかっているので!!
 命には変えられないので!!

「おいおい!嘘だろ?」

 恩を仇で返すってこういうことなんだね……。
 なんだか心苦しい。

「ほんとに言ってるのか?!考え直してくれ」

 男性は焦ったようにこちらを見ている。
 緊迫している様子だ。
 だがしかし、ごめんなさいだ。

「次の試験は、降ります……ごめんなさい!」



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