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第二章
00.プロローグ
しおりを挟む大変長らくお待たせいたしました(>人<;)
第二章の始まりです。
不定期更新となりますが、気長にお付き合いいただけますと幸いです。
※第二章は、第一章50話と51話の間に当たる時期の内容となります。
なるべく齟齬が生じないよう努めますが、何かおかしな点がありましたら、こっそり教えていただけますと助かりますm(_ _)m
~*~*~*~*~*~
グロリオーサ王国随一の有力者と言えるグランシア公爵家を巻き込んだ事件は、光の速度で国中へと知れ渡り、民の不安と動揺を煽った。
此度の事件の主犯と見做されたモストーン子爵家息女ライラと共犯であるゴールドフラワー宝飾品店店主チャーリーへ実刑判決が下り、その処刑を見届けたライラの父――モストーン子爵家当主は家督を弟に譲り、情状酌量が認められ実刑判決を免れた孫娘ルシアを連れて姿を消した。
それは此度の事件で心に傷を負ったルシアを守るための選択であり、二度とスノーベル侯爵家に関わらないという誓約を守るための意思表示であった。
彼らが今どこにいるかは、秘密裏に亡命の手助けをしたグロリオーサ王家の者以外知らない。
モストーン子爵家の代替わり後も民からの非難が集中していたが、盗難被害に遭ったグランシア公爵家当主フィリップが、ライラとチャーリー両名の処刑を持って此度の事件の幕引きとするという声明を出したことによって、騒動は徐々に下火へとなっていった。
そんな折に、グロリオーサ王国王太子アルベルトとスノーベル侯爵家令嬢カトレアの婚約発表が為され、再び国中の民が騒ぎ出した。
しかし、カトレアがグランシア公爵家の血を引く娘であることは周知の事実であるが故に、グランシア公爵家の威光を畏れ、ごく一部を除いて祝福ムードへと変わっていった。
特に学園の生徒や王都の民は、アルベルトとカトレアの仲睦まじい姿を度々目にしており、彼らを引き離すことはできないとよく理解していたため、すぐに意識を改めたのだ。
(何だか、どさくさに紛れて色々なことが推し進められていったような……)
当事者であるカトレアは、内心でひっそりとそんなことを思ったが、アルベルトの有無を言わさない微笑みに口を閉ざすしかなかった――というのは、ここだけの話である。
◇ ◇ ◇
「……ふぅ」
カトレアは手に持っていた書物をパタンと閉じ、机の上にそっと載せ小さく息をついた。
「お嬢様、王太子殿下より手紙が届いております」
カトレアが手を休めるのを見計らったように、専属侍女のメアリーが声を掛ける。
「ありがとう、メアリー」
カトレアはメアリーから手紙を受け取り、丁寧に便箋を取り出した。
現在、アルベルトはグロリオーサ王立学園高等部三年生のみを対象とした遠征合宿に参加している。
それは学園生活の集大成――これまで学園で学んだことを活かし、課題を達成することが目的の卒業試験であった。
卒業試験の開始時期は高等部三年生に進級して半年後、試験期間は最長で三ヶ月間と定められ、試験内容は遠征合宿と研究発表の二種類に分けられている。
遠征合宿は魔物討伐を主とした実技試験となるため、戦闘術や魔法攻撃が得意な者が志願し、研究発表では魔道具や魔法薬の研究論文の発表が主となるため、座学が得意な者が志願するというように、各々の得意分野で挑むものであった。
課題修了が早ければ卒業も早まるという仕組みであり、この三ヶ月間で達成できなかった生徒は、そのまま追試を受けることになるのだが、この時点で落第者という認識をされるため、全生徒が必死になって取り組む。
学園内での成績が外部へ公表されることはないが、追試となった場合は卒業時期が他の生徒より遅れるため公然の事実となってしまい、いつまでも落第者の汚名が付き纏い、肩身の狭い思いをすることになる。
それを聞いたカトレアは、一年後に己が試験を受ける際に何をするか今から決め、早いうちから備えておこうと考えていた。
王太子の婚約者として恥ずかしくないように――
(アルベルト様は、もう間も無く修了するようね……)
一文字一文字丁寧に綴られた文章を読み進め、アルベルトがほぼ全ての課題を達成したことを知る。
あと一つ、大きな課題が残っているとのことで、無理をして怪我をしなければ良いのだが……と、アルベルトの身を案じた。
アルベルトは実技も座学も優秀であるため、試験は研究発表を選んでも良かったのだが、王太子として周囲に力を誇示するには実技試験の方がよりわかりやすいだろうという理由で遠征合宿の方を選んでいた。
カトレアは、危険な遠征合宿に行ってほしくないという本音を隠し、アルベルトが無事に帰ってくることを祈り、待ち続けている。
その気持ちを察したアルベルトは、課題をこなす合間に、己の安否を知らせるべく手紙を認め送ることにした。
そして、少しでも早く帰るため、最速で課題をこなしているのだ。
(アルベルト様……)
最後の大物が終わり次第、速やかに王都へ帰るので、心配せず待っていてくれと締めくくられた手紙を、カトレアはそっと胸へ抱いた。
(アルベルト様が、無事に帰ってきてくださいますように……)
心からの祈りを込めて――
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