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第一章
50.光さす道を歩み続ける…②
しおりを挟む「貴殿が誰を想定しているかは察します、が……カトレア嬢のお父上は、スノーベル侯爵殿――貴殿以外にいない」
アルベルトは顔を上げ、口調も表情もガラリと変えた。
「この場で数刻前のことを蒸し返すのは如何なものかと思うが――私はあのとき、何度も告げたはずだ。スノーベル侯爵殿の子はカトレア嬢であるということを。此度の事件については抜きにして、私は初めから貴殿がカトレア嬢の父上であると認識している。それは血の繋がりがあるから、ということではない。……誰か、貴殿をカトレア嬢の父親ではないと言う者がいたのか? いないだろう? 此度の件でカトレア嬢と貴殿のことを話す機会があったが、彼女もそのようなことは言っていなかった」
アルベルトはそう言うと、同意を求めてカトレアの方へ目を向けた。
「アルベルト様の仰る通りです。私のお父様は、ルドルフ・スノーベル――お父様以外にいません」
カトレアがはっきりと言い切ると、ルドルフは再び目を潤ませた。
これまで己が行なってきたことを思えば、血縁があろうとなかろうと拒絶されていてもおかしくはないだろう。
しかし、カトレアはずっとルドルフのことを父親だと認めてくれていた。
己はカトレアの親だという自覚がなかったというのに。
「カトレア……殿下も、ありがとうございます」
ルドルフは二人に向かって深く頭を下げた。――たくさんの感謝と謝罪を込めて。
「ンン……ところで、お話を元に戻しますが――スノーベル侯爵殿は、先程の件についてどうお思いでしょうか?」
アルベルトは再び居住まいを正すと、真摯な眼差しでルドルフを見据えた。
「ああ、そうですね……ええと……私は、今のカトレアが慕っている相手が、どこの誰なのかすら知らないもので……」
ルドルフはアルベルトからカトレアへと目を向ける。
「確か、随分昔に侍女長のエリーゼに付き添われて参加した茶会で、王子様に会ったとか何とか、嬉しそうにセレーネへ報告しているのを、通りすがりに偶然耳にしたことはあるが……いや、そんな昔から好いた相手がいるなら、グレース公爵家からの縁談をすんなり受けるはずもないよな? それで、その、カトレアは今……」
戸惑った様子のルドルフに、カトレアはしっかりと目を合わせる。
「お父様。私は今、アルベルト様のことをお慕いしています」
はっきりと告げたカトレアに、ルドルフはふっと微笑んだ。
「そうか、わかった。――王太子殿下、いえ、アルベルト殿。私としましては、娘の気持ちが第一です。これからは、娘が望むことを叶えてやりたいと、そう考えています。娘が――カトレアが、貴殿と歩む未来を望むのなら、そのように……これが私の答えです」
アルベルトの目をしっかり見据え、ルドルフは答えた。
「ありがとうございます。……この場を借りて、改めて御息女殿に私の気持ちを伝えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
アルベルトはきっちり腰を折って、ルドルフに礼を告げる。
「ええ、どうぞ」
ルドルフの許可が降りると、アルベルトは体を起こし、真っ直ぐカトレアを見据えた。
「カトレア――僕は君を愛している。この先もずっと……永遠に、この想いを違えることはしないと誓う。だから、僕と結婚してほしい」
アルベルトの言葉に、カトレアは柔らかく微笑んだ。
「はい、喜んで――」
花が綻ぶように、優しく美しく微笑みながら、しっかりと彼の愛を受け止めた。
これから二人で歩む、光に満ちた未来を見据えて――
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