義妹の策略で婚約破棄された高嶺の花は、孤高の王太子に溺愛される。

胡桃

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第一章

44.王太子の目論見ー断罪編ー

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「我々は、数々の調査を重ね、概ねの確信を得てこちらへ参った。残りの僅かな部分は、今この場で確証を見つけたばかりであるが……」

「と、言いますと?」

「こちらの宝石箱を見て、気づくことはないか?」

「こちら、ですか? ……ん? この花や葉の部分には、何かが填まっていたような痕跡がありますね……何故、今は何も填まっていないのでしょうか?」

「カトレア嬢の証言によると、この箱の装飾には、ある宝石が使われていたそうだ。ルビー、エメラルド、ダイヤモンド……これを聞いて、貴殿はどう思う?」

「ルビー、エメラルド、ダイヤモンド……」

 ルドルフの目がライラに向く。
 そして、耳飾りと指輪を順に見て眉を顰めた。

「ライラ、お前……もしやその耳飾りと指輪は……」

「っ……そんなのただの偶然よ! 言い掛かりは止してくださいな」

 ライラは一瞬怯んだが、すぐに気を取り直して激昂する。

「では、これを見てもまだそう言えるか?」

 アルベルトはゆっくりと宝石箱の蓋を開いた。

「っ! その箱は鍵がなくて開けられないはずじゃ……あっ」

「!?」

 思わずといった様子でライラが口を開き、直後、己の失言に気づくと青ざめた。
 そして、ルドルフがヒュッと息を呑む。

「私が見てもらいたかったのは、そこではないのだが……まあ良い。こちらをよく見てくれ」

 アルベルトは蓋の内側に印された紋章を示す。

「これがグランシア公爵家の紋章であることは、皆わかるだろう? この宝石箱は、正確な年代は不明だが、とある国宝を保管するために用意されたものだ。この国宝に関しては、国家機密に当たるため貴殿らに伝えられないが――グランシア公爵家では、この宝石箱を家宝として大切に保管していた。そして、それを受け継いだセレーネ夫人が、死の間際、カトレア嬢へ託したものである」

 アルベルトは驚愕の余り絶句している三人の顔をゆっくり見渡した。

「現在の所有権は、カトレア嬢にあるというのは、わざわざ説明するまでもないだろうが……それを奪い、宝石を全て剥ぎ取った挙げ句、自らの装飾品へと加工した――ライラ・モストーン。そして、カトレア嬢の装飾品を盗み、ゴールドフラワー宝飾品店へ売り払ったルシア・スノーベル。二人には窃盗の容疑で出頭命令が出ている。我々に同行してもらおうか」

「そ、そんな……そんなの知りませんわ! 私はそんなことしていません!」

 ルシアは尚も抵抗しようと喚く。

「ゴールドフラワー宝飾品店の主が、既に全てを自白している。ルシア・スノーベルがレインティア宝飾品店の刻印つきの宝飾品を持ち込み、ライラ・モストーンとの関係をスノーベル侯爵へ告げると脅し、莫大な金額で買い取らせたことも、ライラ・モストーンがルビーとエメラルド、ダイヤモンドを持ち込み、それらを加工した宝飾品を作らせたことも全て、な。尚、彼は別件での罪状があり、既にこちらで身柄を拘束しているため、もしここで貴様らが逃げたとしても、彼と会うことは不可能だぞ」

「ライラとの関係……?」

 アルベルトの言葉に、ルドルフが怪訝そうに問う。

「……やはり、貴殿は知らなかったか。すまない。私もできることなら、これを話したくはなかったが……我々の調査によると、ライラ・モストーンとゴールドフラワー宝飾品店店主は、かねてより親密な関係にあったようだ。先程彼女は、十四年待ったと言っていたが……実際に待っていたのは、その内の何年間のことだろうな?」

「っ!?」

「……そう、でしたか。ああ、もしかすると、父はこれを知っていて、あのような遺言を残したのかもしれません。我がスノーベル侯爵家の真の嫁はセレーネであり、真の娘がカトレアだと、私に気づかせたかったのでしょう……私は何と愚かな過ちを犯していたのだろう――今さら気づいたところで、セレーネやカトレアに償うには、もう遅いですよね……」

 ルドルフは両手で顔を覆うと項垂れた。
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