45 / 58
第一章
42.王太子の目論見ー対決編ー
しおりを挟む「それは一体、何故ですか?」
「私の口から答えても良いが……。それより、二人は心当たりがあるはずだが、何か言うことはないのか?」
アルベルトは、目を細めてライラとルシアを見据える。
「なっ、し、知りませんわ!!」
「そ、そうよ! 私とお母様が窃盗なんて、するはずないじゃない!!」
「……では、こちらに見覚えは?」
知らないと言い切る二人に敢えて触れず、アルベルトは背後の騎士に手振りで指示を出し、テーブルの上にいくつかの証拠品を並べさせた。
「!! こ、これは、私が以前セレーネに贈った髪留めではありませんか!?」
ルドルフの目を引いたのは見るも無惨に踏み躙られ、壊された銀細工の髪留めであった。
流石のルドルフも、これを覚えていたのかとアルベルトは内心驚いた。
「スノーベル侯爵、間違いないか?」
「はい、間違いなく私が購入し、セレーネに贈ったものです。彼女の死後、見当たらなかったので、とうに捨てられたものだとばかり思っておりましたが……何故このようなことに? もしやセレーネが……?」
セレーネが怒りに任せて破壊したと想像したのか、ルドルフは顔を引き攣らせた。
「いや、これはセレーネ夫人が破壊したのではない。カトレア嬢の証言によると、セレーネ夫人が亡くなった後、そちらのライラ・モストーンによって、セレーネ夫人の持ち物を全て奪われ、破棄されたとのことだが、貴殿はご存知か?」
「えっ? いえ、初めて聞きました。セレーネの部屋を改装する前に、彼女の持ち物はカトレアが全て整理し、グランシア公爵家へ送るか本人が使うかしているものとばかり……ああ、そういえば、先月カトレアの衣装等を回収した際に予想より遥かに少なくて驚いたような……」
「回収? グレース公爵家子息との婚約解消の際、返納する結納金に充てるため、貴殿が全て売ったと聞いているが……」
「いいえ、一つも売っていません。確かにあの時は突然の婚約破棄に腹が立つ余り、カトレアに対し酷い言葉を投げつけましたが……結納金は全額を私が返納しましたし、衣装類を回収したのは、婚約破棄の要因となったルシアに対する虐めへの罰が目的だっただけで、全てそのまま保管し、侍女長エリーゼに適切な管理をするよう命じてあります。彼女はセレーネと共にこの屋敷に来ましたから、カトレアも懐いてたようですし、最も適任かと……」
ルドルフはそこで一旦口を閉ざす。
そして、少し考える素振りを見せた後、再び口を開いた。
「カトレアのドレスと装飾品のほとんどがグランシア公爵からの贈り物であることは、流石の私も知っています。全て高級店が取り扱う受注生産品で、店の刻印やグランシア公爵家の紋章が入っているものばかりです。中には、亡父が初孫の誕生に張り切って買い与えたものもありましたし、そのようなものを安易に売れるはずがないでしょう? 私も罪人にはなりたくありませんから……」
「そうか……では、こちらの箱とブレスレットを含めたこれらの宝飾品に見覚えは?」
アルベルトはルドルフの話を受け入れ、証拠品の方へ話を戻した。
「……この箱は、確か衣装を回収した際に、カトレアが返してくれと言ったため、ライラがカトレアに返したはずですが……宝飾品の方は知りませんね」
「では、そちらの二人は?」
ルドルフの答えにアルベルトは頷くと、ライラとカトレアを見据える。
「知りませんわ、何ですの? その質素な宝飾品は……」
「私も知りません!」
「……これらの宝飾品は、王都の中心街にある、ゴールドフラワー宝飾品店で販売されていたものだ。そちらの二人は、この店をよく利用していると聞いた。本当に知らないのか?」
否定する二人に、アルベルトは入念に確認する。
「知りませんわ」
「私も知りません」
「そうか……では、スノーベル侯爵、こちらを確認してもらえるだろうか?」
アルベルトは、ブレスレットの内側にある刻印を示した。
56
お気に入りに追加
2,881
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。


BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる