義妹の策略で婚約破棄された高嶺の花は、孤高の王太子に溺愛される。

胡桃

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第一章

41.王太子の目論見ー告発編ー

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「スノーベル侯爵。貴殿のその言葉に免じて、一つ種明かしをしてやろう」

 アルベルトはゆっくりと足を組み替えると、不遜な笑みを浮かべた。

「な、何でしょうか……?」

 すっかり毒気が抜けてしまったルドルフは、アルベルトの態度に戦々恐々として問い返した。

「実は、現時点で貴殿の嫡子――カトレア嬢は、この事件の容疑者から外れている。それは入念な調査を重ね、公正な判断の下で正式に無罪判定がなされている。国王・王妃両陛下も承認しているので、そちらにいる貴殿の愛妾・・養女・・が何と言おうと、その判定が覆ることはない」

「そうでしたか……!」

 ルドルフが安堵し、ほっと胸を撫で下ろすが、それに納得がいかない者がこの場にはいる。

「何ですって!? 私が妾ですって!? 私はこの人の本妻ですわよ!?」

「アルベルト様、酷いわっ!! 私はお父様の実の娘です!! なのに、養女だなんて……っ」

 ライラが形相を変え、ルシアが涙を浮かべて喚く。しかし――

「? そうだったか? スノーベル侯爵?」

「で、殿下、それは……」

「「!?」」

 アルベルトが不思議そうに首を傾げながらルドルフに目を向け、あからさまに狼狽えた様子のルドルフの姿に、ライラとルシアが目を見張る。

「スノーベル侯爵――ルドルフ殿の妻は、グランシア公爵家のセレーネ、嫡子カトレア、そして、三年前に追記された養子ルシア。この戸籍票にはそう記載されている。そして――どこにもライラと・・・・・・・・は書かれていない・・・・・・・・

「えっ……お母様……?」

「どういうことなの、ルドルフ!?」

 ルシアは呆然とし、ライラは目を釣り上げ、ルドルフに詰め寄る。

「すまない、ライラ……これは父の遺言なんだ。カトレアが成人するまでの間に、セレーネ以外の女を妻にした場合、侯爵位は国へ返還し、父の遺産を含めた全財産をカトレアに明け渡すこと。そして、カトレアをグランシア公爵家へ返すようにと……これは国からの命令なので、公文書にしたためられており、どんなに抗おうと覆らないと言われている」

「な、何よ、それ……どういうこと? どうして、あの女とその娘が国から守られるようなことになっているのよ!?」

「私は何も知らないんだ。父は最期まで理由を明かさなかった。どうしても知りたければ、お前たちと完全に縁を切り、グランシア公爵へ誠心誠意頭を下げて訊ねろと言われて……」

「わけがわからないわっ!! ルドルフ、貴方言ったじゃない!! 父親にどうしてもと懇願されて、あの女と結婚することになったが、実際はライラが貴方の正妻だと!! あの女は病で先も長くないし、いなくなればすぐに私を正妻にしてくれるって!! だから私は貴方を信じて、あの女が死ぬまで十四年も待っていたのよ!? 子を産めばすぐ死ぬだろうって言われたくせに、未練がましく生き延びたあの女のせいで、私は十四年も待たされていたのよ!!」

 ライラは激昂し、ルドルフに縋り付く。

「……大した演技力・・・・・・だな、ライラ・モストーン」

 アルベルトの静かな声が割り込むと、ライラがビクッと肩を揺らした。

「私も暇ではないのでね、これ以上、くだらない茶番に付き合うつもりはないよ。話の邪魔をするのはやめていただこう」

「っ……」

「スノーベル侯爵、一つ貴殿に詫びなければならないことがある」

「は、何でしょうか?」

「先程、貴殿らに見せた窃盗の被害届だが……これは貴殿やカトレア嬢を告発するためのものではない。貴殿の反応を見るために作った偽の被害届なのだ。試すようなことをして、すまなかった」

「い、いえ……殿下がそうせざるを得ないようなことをしていたのは私の方です。侯爵位を賜り、グロリオーサ王国に忠誠を誓う身でありながら、国を軽んじるようなことを平然と行なっていたのですから……父の言葉の意味をもっと深く考えねばならないと思いつつも、これまで目を背け続けてきましたから……」

 ルドルフは項垂れてそう述べた後、キッと顔を上げ、アルベルトを見据えた。

「私が何を間違えてきたのか、まだ正しくは理解できておりませんが、これから何を言われても、どのような結果が訪れようと、私は全て受け入れます。お願いいたします。はっきりと仰ってください」

 ルドルフは覚悟を決めてアルベルトと対峙する。

「では……こちらに正式な被害届がある。この被害届は――ライラ・モストーン及びルシア・スノーベル、以上の二人を窃盗の容疑で告発するものだ」

「「っ!?」」

 アルベルトは、ルドルフの目を真っ直ぐ見返し、きっぱりと断言した。
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