義妹の策略で婚約破棄された高嶺の花は、孤高の王太子に溺愛される。

胡桃

文字の大きさ
上 下
39 / 58
第一章

36.目を逸らし続けた罪の代償

しおりを挟む

[ライモンド視点]


「――アルベルト殿下。貴殿に聞いていただきたいことがあります」

 授業が始まる直前、教室へ入ろうとするアルベルトを、ライモンドは呼び止めた。

「……何だ?」

 アルベルトは感情の籠らない眼差しをライモンドに向ける。

「スノーベル侯爵家のカトレア嬢と一度話をさせていただきたいのです。勿論、殿下も御同席くださった上で……」

 カトレアの名を出した途端、剣呑な眼差しになったアルベルトに、ライモンドは怯みつつも即座に意を決して用件を告げた。

「その理由は」

「……自分は以前、ある者の言葉を鵜呑みにし、彼女に酷い言葉を投げつけてしまいました。そのことを償いたいのです」

「他者の言葉に惑わされ、彼女を信じることができず、その心を、名誉を深く傷つけたのみならず、一月もの間、己の罪から目を逸らしておいて、何を今更――お前は、お前の自己満足のために、彼女の傷口を広げるつもりか? この僕が、そのような愚行を赦すとでも?」

「っ!!」

 力強くはっきりと、それが己の罪だと突きつけられ、自己満足だと言われ、愚行だと言われ――ライモンドは何一つ否定できなかった。

「何か反論があるなら言ってみろ!!」

 決して大きな声ではなかったが、周囲の空気がピンと張り詰め、教室内外にいた生徒たちが一斉に硬直する。
 アルベルトの怒りを正面からまともに食らったライモンドは、呼吸さえ止めて全身を強張らせた。

「……はぁ、まあ良い。一応、彼女に確認をしてみるが、彼女が拒んだときは諦めるように」

 アルベルトは一つ嘆息すると、そう言って自席に戻った。
 と、同時に張り詰めていた空気が和らぎ、全員の時が動き出す。
 中には腰が抜けてへたり込む者もおり、周囲の生徒が手を貸していた。
 ライモンドは、どうにか意識を途切れさせないようにするのが精一杯だったが、アルベルトに向かって深く頭を下げた後、フラフラとした足取りで自身の所属する教室へと戻っていった。
 
 この時、二人の間でどのような会話がなされ、何が起こっていたのかということを、正しく認識できた者は一人もいなかった――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...