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第一章
36.目を逸らし続けた罪の代償
しおりを挟む[ライモンド視点]
「――アルベルト殿下。貴殿に聞いていただきたいことがあります」
授業が始まる直前、教室へ入ろうとするアルベルトを、ライモンドは呼び止めた。
「……何だ?」
アルベルトは感情の籠らない眼差しをライモンドに向ける。
「スノーベル侯爵家のカトレア嬢と一度話をさせていただきたいのです。勿論、殿下も御同席くださった上で……」
カトレアの名を出した途端、剣呑な眼差しになったアルベルトに、ライモンドは怯みつつも即座に意を決して用件を告げた。
「その理由は」
「……自分は以前、ある者の言葉を鵜呑みにし、彼女に酷い言葉を投げつけてしまいました。そのことを償いたいのです」
「他者の言葉に惑わされ、彼女を信じることができず、その心を、名誉を深く傷つけたのみならず、一月もの間、己の罪から目を逸らしておいて、何を今更――お前は、お前の自己満足のために、彼女の傷口を広げるつもりか? この僕が、そのような愚行を赦すとでも?」
「っ!!」
力強くはっきりと、それが己の罪だと突きつけられ、自己満足だと言われ、愚行だと言われ――ライモンドは何一つ否定できなかった。
「何か反論があるなら言ってみろ!!」
決して大きな声ではなかったが、周囲の空気がピンと張り詰め、教室内外にいた生徒たちが一斉に硬直する。
アルベルトの怒りを正面からまともに食らったライモンドは、呼吸さえ止めて全身を強張らせた。
「……はぁ、まあ良い。一応、彼女に確認をしてみるが、彼女が拒んだときは諦めるように」
アルベルトは一つ嘆息すると、そう言って自席に戻った。
と、同時に張り詰めていた空気が和らぎ、全員の時が動き出す。
中には腰が抜けてへたり込む者もおり、周囲の生徒が手を貸していた。
ライモンドは、どうにか意識を途切れさせないようにするのが精一杯だったが、アルベルトに向かって深く頭を下げた後、フラフラとした足取りで自身の所属する教室へと戻っていった。
この時、二人の間でどのような会話がなされ、何が起こっていたのかということを、正しく認識できた者は一人もいなかった――
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