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第一章

35.憎しみに燃える悪魔の瞳②

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[ルシア視点]


 アルベルトに接近し、己の魅力で陥落させようと目論んだルシアだったが、アルベルトへ思うように接近できずに苛立っていた。
 アルベルトが行く先々で、ルシアは罠を張ったが、どれも全く効果を発揮しない。
 アルベルト自身が、ルシアのことを一切視界に入れないことも要因かと思い、無理矢理接触を図ってみたが、それもことごとく失敗する。

 (どういうことなのよ!? 何でアルベルト様に近寄れないの!?)

 ルシアがアルベルトに接近しようとする度、他の生徒たちや教師がルシアの進路を妨げるように動き、酷い時は一歩も動けなくなるほど密集する。
 それも特に不自然な様子は全くなく、立ち話をする者たち、壁の掲示板を眺める者など、学園生活でごく普通にみられる光景でしかないため、ルシアはそれらが意図的に行われていることだとは疑っていない。
 どうにか潜り抜けたいと思うものの、今のルシアはカトレアに虐められている被害者という立場を装っているため、あまり強い態度に出ることができない。

「っ!!」

 どこかに隙がないかと人々の合間を探っていたルシアが、僅かな隙間から目にしたのは、アルベルトが微笑みながらカトレアの髪を撫でている姿であった。

 (何よ、あれ……泥棒猫の娘のくせに……っ)

 カトレアが自分より幸せになることなんて認めない――ルシアは、憎しみの籠った眼差しでカトレアを睨みつけた。

「ルシア?」

「っ!?」

 不意に背後から声をかけられたルシアは、ビクッと大きく飛び上がった。

「あ、ら、ライモンド様……」

「こんなところで何をしているんだ?」

 ライモンドはルシアに声を掛けながら周囲の様子に目を向けて、人だかりの先にアルベルトとカトレアを見つけた。

「あれは、アルベルト殿下と……」

 ライモンドは、二人の噂を耳にして、事実なのかと確認したくて二人を探していたのだが、実際に仲睦まじい様子の二人を目にすると、胸が痛んだ。
 それも、自身では引き出せなかった、カトレアの笑みを見たからこそ、強く激しく痛んだ。

「……カトレア嬢は、心を許せる相手を見つけたのだな……」

 悲しそうに寂しそうにポツリと呟いたライモンドを、ルシアは訝しそうに見ていた。

 (何よ、それ。どういうこと? ライモンド様は、まだあんな女のことを好きだというの? 私を好きになったんじゃないの!?)

 ルシアは表情を取り繕うのも忘れて、ギリギリと奥歯を噛み締めた。

 (何よ、みんなして、カトレア、カトレアって……アイツは、アイツは……私たちからお父様を奪った泥棒猫セレーネの娘なのよ!!)

「っ!!」

 ルシアは、そのルビーのような赤い瞳に憎悪をたぎらせ、カトレアを睨みつけると、プイッと顔を背けて足早にその場から立ち去った。
 そんなルシアの異変に気づいたライモンドは、追い掛けることなくその背中を見送った。

 (やはり、彼女は……)

 己がとても大きな間違いを犯したことに気づいてしまったから――
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