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第一章
29.崩れつつある悪魔の策略①
しおりを挟む[ルシア視点]
学園の昇降口でアルベルトとカトレアを見掛けた後、ルシアは不機嫌なままライモンドと共に王都へ出掛けた。
学園の生徒たちの間でも話題になっている、入手困難な焼き菓子店――プリムラの予約購入券を入手したということで、ライモンドから誘われたからである。
グロリオーサ王宮の料理人が一時期弟子入りしたことでも有名な菓子職人が作る焼き菓子は、老若男女問わず虜にするほど絶品で、いつも開店早々に売り切れてしまうのだが、月に数回、不定期に完全予約制で焼き菓子の限定販売をしている。
その予約購入券をライモンドは、父親――グレース公爵の伝手を使って入手したというわけであった。
「ルシア、お待たせ」
限定販売があるときのみ開放される店内の飲食席で待っていたルシアの元に、ライモンドが焼き菓子を詰め合わせた籠を持ってやってきた。
「……ありがとうございます、ライモンド様」
ルシアは愛想笑いを浮かべてライモンドに礼を言うが、頭の中は先程見たカトレアとアルベルトの親密そうな様子がグルグルと回っている。
(どうしてカトレアが、アルベルト様と一緒にいたのよ……あの女はライモンド様を好きなんでしょう? どういうことなの……)
予約購入券の話をしたときには、とてもはしゃいでいたはずのルシアが、焼き菓子を目の前にしても上の空であることに、ライモンドは怪訝そうに眉を顰めた。
一方的ではあったが、カトレアからよそよそしい挨拶を受けたことに動揺してしまったことをルシアは怒っているのだろうかと不安になっているようだ。
カトレアを陥れるためにルシアがライモンドに接近したときから、ルシアとライモンドの距離は着実に近づいており、ライモンドはカトレアに対しては最後まで“カトレア嬢”と呼び続けていたにも関わらず、ルシアのことはいつの間にか呼び捨てにするようになっていた。
それをきっかけに、ルシアが最後の手段として取っておいた銀細工の髪留めを利用し、二人の関係を破綻させることにしたのだ。
その後ルシアは、カトレアとの婚約解消後もライモンドがルシアのことを気にかけてくれることを利用しつつ、着々と距離を詰めていた。――カトレアに見せつけながら。
その一環で、ルシアはライモンドにプリムラの焼き菓子が食べたいとさりげなく強請り、この日ようやく連れてきてもらったのだ。
ライモンドと約束があって出掛けるという己の姿をカトレアに見せつけ、カトレアの心を切り刻むはずだったのだが、カトレアはライモンドとルシアが親密にしていても気にも留めなかったことが、逆にルシアの自尊心を傷つけた。
「……ルシア? 食べないのか? ちょうど焼き上がったところだったので、焼き立てを購入してきたのだが……」
ライモンドに遠慮がちに声を掛けられ、ルシアはハッと我に返った。
「え? あ、ごめんなさい、ライモンド様……私、とても楽しみにしていたのですわ! いただきます」
「ああ……どうぞ。俺は甘いものは得意ではないので、君が全て食べると良い。余ったものは店員に頼めば包んでくれるそうだから、持ち帰ってくれると嬉しい」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます~」
ルシアはウフフと笑い、焼き立ての菓子を口にする。
「とても美味しいですわ、ライモンド様」
ルシアは焼き菓子を食べたことで、気持ちが浮上し、カトレアとアルベルトのことは後でじっくり考えようと決め、目の前の焼き菓子を次々と頬張った。
そんなルシアの様子を眺める、ライモンドの怪訝そうな眼差しには気づくことなく――
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