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第一章
27.願わくば、いつも君の隣に
しおりを挟むレインティア宝飾品店を辞した後、アルベルトとカトレアはグロリオーサ王宮へと戻った。
カトレアが再び制服に着替えるためである。
王宮侍女の手を借りて、カトレアは着替えを済ますと、アルベルトが待つ執務室へ向かった。
「アルベルト殿下、カトレアです」
扉を叩き、室内へ声を掛けると、アルベルトが自ら扉を開いてカトレアを出迎えた。
「お茶の支度をさせたから、少し休んでいくと良い」
「え、いえ……殿下はお忙しいでしょうから、私はこれで失礼いたします」
「大丈夫だよ。今日やるべきことはもう終わっている。僕の休息も兼ねているし、遠慮はいらない。勿論、無理にとは言わないが、少し付き合ってもらえると嬉しい」
アルベルトはニッコリ微笑むと、カトレアをソファへと誘った。
まだ別れ難いと考えていたカトレアは、その笑みに陥落する。
「……では、お言葉に甘えて……お供させていただきます」
「ありがとう。では、こちらに掛けてくれ」
アルベルトはカトレアをソファに座らせ、己も向かいに腰掛けると、待機させていた王宮侍女に紅茶の支度をするよう命じる。
「君は甘いものは得意かな? この焼き菓子は王宮の料理人が作ったものなのだが、王都にある焼き菓子店のレシピを元に作ったそうだよ。僕はそういう店には疎いので、よく知らないのだが、人気店らしい」
アルベルトがテーブルに並ぶ焼き菓子の数々についてそう説明すると、カトレアが目を輝かせた。
「もしかして、王都の中心街にあるプリムラというお店ではありませんか?」
「うん? どうだったかな?」
アルベルトは首を傾げて侍女の方に目を向けた。
「はい。スノーベル侯爵令嬢様が仰る通りでございます、殿下」
「へぇ! カトレアも知っている店だったのか。それはすごい偶然だ」
「はい。このお店は、フィリップ伯父様の御学友だった方が菓子職人をしているのですが、母がこのお店のお菓子が好きでしたので、そのご縁でいつも特別に用意していただいておりました。私もとても好きなお菓子です。普段は開店時間の前から長蛇の列ができ、早々に売り切れてしまうので、一般の方々はあまり手に入れられないと聞いたことがあります」
「君が目を輝かせて絶賛するほど素晴らしい店だったとは知らなかったな……一度その菓子職人に会ってみたいものだ」
「えっと、殿下がお望みになればいつでも会ってくださると思いますが……?」
「では、そのときは、カトレア――君も共に行こう。先程のように、また僕と二人で出掛けてくれるだろうか?」
「え……」
「そもそも僕は、日頃、どんな事情があったとしても、女性と二人きりで密室に入ったり、ましてやエスコートでもないのに女性の手を取って歩くようなことはしない。それが未婚の女性なら尚のこと――全て、君が相手だからできたことだ。その意味は、わかるかい?」
アルベルトの言葉にカトレアの胸が高鳴る。
「え、っと……」
「はっきり言うね。僕は、カトレア――君のことが好きだ。初めて会ったときからずっと、君に恋をしている。……勿論、君が一月前に傷心したばかりであることは重々承知しているし、今すぐ君とどうこうなりたいと言うわけではない。君が僕とのことを全く考えられないと言うのなら、はっきり断ってくれて構わない――しかし、少しでも迷う気持ちがあるのなら、一度じっくり考えてもらえないだろうか?」
アルベルトの真摯な眼差しが、カトレアの心を揺さぶる。
元婚約者であるライモンドのことは、一月経った今でも、消えない傷跡となって残っていた。
しかし、アルベルトの想いを嬉しく思う気持ちもあって、カトレアは即答できない。
(アルベルト殿下が、私を……好き?)
アルベルトの言葉を心の中で繰り返すと、そこで何かが煌めいたように感じた。
「少し……考えさせてください」
カトレアは、心に灯った光の欠片を掴んでみたいと思った――
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