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第一章
26.唯一無二の愛を君に贈ろう
しおりを挟む「カトレアお嬢様! ようこそお越しくださいました」
カトレアがレインティア宝飾品店に足を踏み入れると、それに気づいた店主や店員がゾロゾロと姿を現した。
三年前にセレーネが亡くなってから、カトレアがほとんど来店せず、スノーベル侯爵家に後妻と連れ子が入ったという情報だけは耳にしていたので、店主を含め全員がカトレアの来店を心待ちにしていたのだ。
彼らは皆、カトレアが幼い頃からグランシア公爵と共に店を利用していたことを知っており、成長し一人で買い物ができるようになってからも幾度となく訪れていたので、カトレアにとってもよく見知っている相手ばかりである。
「アルベルト殿下、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。当レインティア宝飾品店にお越しくださり、大変光栄に存じます」
店主が礼をし、店員もそれに倣って頭を下げる。
店内にいた他の客――貴族たちも一斉に礼をした。
「ああ、今日は私用で参っただけなので、皆楽にしてくれ」
「左様でございますか……では、個室をご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ」
店主がそう言って姿勢を正し、店員が個室の支度に向かう。
「ああ、ありがとう。そうだな……あの辺りの品を勝手に見ているから、慌てる必要はない。カトレア、行こうか」
アルベルトは、他の客がいない商品棚を示して言うと、カトレアを促した。
「は、はい」
アルベルトに手を引かれるまま、カトレアも歩き出す。
店主はその様子を微笑ましく見つめながら、アルベルトの用事がカトレアのためのものであると察して、邪魔をしないよう空気になることに徹した。
◇ ◇ ◇
アルベルトとカトレアは個室に案内されると、店主と宝飾品製作担当の職人から最新の品やおすすめの品を見せてもらった。
「うん……素晴らしい品だ。どれも簡素に見えるが、一つ一つの細工が丁寧で気品もあり、清楚で美しいカトレアによく似合うだろうな」
「あ、アルベルト様……」
品を絶賛しつつ、カトレアを賛辞するアルベルトにカトレアは恥ずかしくなって頬を染めた。
「君が気に入った品を選ぶと良い。遠慮することはないよ」
「は、はい……ありがとうございます」
カトレアは並べられた宝飾品の数々を見て、ある程度の金額を予想して躊躇していた。
しかし、アルベルトは金額などは瑣末なことだとでも言うように、カトレアに選ばせようとする。
「そういえば、この店は受注生産の一点物も請け負っていると聞いたが……」
カトレアが気兼ねなく品を選べるよう、アルベルトは店主に話を振って、カトレアから意識を逸らせた。
「えぇ、その通りでございます。当店でご用意しました見本品の中から、使用する石の種類や数、意匠等、それらの組み合わせも全てお客様ご自身にお選びいただき、完全受注生産品として承っております。勿論、見本品にないものでも可能な限りご要望にお応えするよう努めておりますので、殿下もご入用の際にはお呼びいただければ、私共の方から王宮へお伺いさせていただきます」
「そうか。では後日、改めて依頼させてもらおう。本日は彼女の好みに合うものを購入したいのでね」
「畏まりました。では、お伺いさせていただく日程につきましては、後ほどご相談させていただきたく存じます」
「ああ、よろしく頼むよ」
アルベルトがにこやかに微笑むと、店主も笑みを深めた。
カトレアはそんな二人のやりとりをポカンとした顔で見つめていたが、ハッと我に返ると再び並べられた宝飾品の方へ目を向けた。
(アルベルト様、どなたかへの贈り物を購入するのかしら……)
そんなことをふと思い、カトレアは己の胸がチクリと痛んだのを感じた――
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