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第一章
24.如何なるときも虎視眈々と
しおりを挟む「うん、とてもよく似合っているよ」
「あ、ありがとうございます……」
執務室で話を終えた後、カトレアはアルベルトが手配した王宮侍女たちによって、衣装を着替えさせられた。
それは王都の宝飾品店を巡るのに、制服姿では不都合だからという理由であった。
しかし、今のカトレアには制服以外の衣装がないため、アルベルトが用意したものを着ることになったのだが――
流石は王族というべきか、カトレアに与えられた衣装は、これまで身に着けたことがないような上質なものであり、何故かカトレアの体格にきっちり合わせて作られたものだった。
カトレアは何故自分に合った衣装が王宮にあるのか不思議で仕方がなかったが、アルベルトに訊ねたら、何かとんでもない返答がありそうな気がして、訊ねることができずにいる。
「それでは、行こうか」
「は、はい」
私服に着替えたアルベルトのエスコートで再び王宮の馬車に乗り、今度は王都へ向かって馬車を走らせた。
◇ ◇ ◇
「カトレア、この店はどう?」
商店が建ち並ぶ場所までやって来ると、アルベルトは手前の店から順に入り、ぐるりと店内を見て回ってからカトレアに訊ねるというのを繰り返した。
「えっと……そうですね、少し違うかな……」
もう何度目かわからないやりとりに、カトレアは困惑気味である。
何故なら、アルベルトが立ち寄る店は、宝飾品店のみならず、衣料品店や雑貨店、甘味処など多岐に渡るからだ。
カトレアは、ライラが利用する宝飾品店を探すために王都を訪れたはずなのに、これでは目的がすり替わっているのではないかと心配になった。
「あ、あの、アルベルト、様……」
カトレアは口籠もりながら、雑貨店の陳列棚を眺めるアルベルトに声を掛けた。
王宮から王都へ向かう馬車の中で、カトレアはアルベルトのことを“殿下”と呼ぶことを禁じられ、アルベルトはカトレアを呼び捨てにすると決まった。
それは周囲の目を誤魔化すためであり、少しでもカトレアとの距離を縮めたいアルベルトの願望でもある。
しかし、カトレアはアルベルトの願望には気づいていない。
「どうしたんだい? もしかして疲れたかな?」
孤高の王太子と呼ばれるアルベルトが、表情を緩めカトレアを気遣うという様子を目撃した王都の民は皆、我が目を疑うような心境で二人を見守っている。
その中には、王立学園の生徒たちもいて、翌日にはきっと二人の親密な様子が学園中に広まっているだろうとアルベルトは予想した。
(カトレアには悪いが、周りから固めさせてもらうよ……)
これは単なるアルベルトの願望というわけではなく、現在王都や学園中に広まっているカトレアの悪評を塗り替えるというのが目的でもあった。
そして、あわよくばカトレアと友人以上の関係を築けたら良いと思っているのだが、こちらは性急に事を進めると、逆にカトレアの名誉を傷つける可能性もあるため、アルベルトは可能な限り慎重に振る舞おうと決めていた。――うまく機会が訪れれば、その限りではないけれど。
手始めに互いの呼び方を変え、心の距離を縮めていくことにして、カトレアに提案したというわけである。
「いえ、そうではなくて……宝飾品店を探すために王都へ来たのではないのですか?」
カトレアは周囲に聞こえないよう気遣って、小声でアルベルトに問うた。
「あぁ、そうだね。では、店を移動しようか」
アルベルトは小さく笑い、カトレアをエスコートして雑貨店を出た。
そして、次は隣にある花屋の前で足を止めて、カトレアを見る。
「ここの花は見ていくかい?」
「い、いえ、また今度にします。あちらの宝飾品店を見に行きましょう」
「そう? 残念だけど、君がそう言うのなら仕方ないね。行こうか」
カトレアはアルベルトがすんなり動いたことに安堵しつつも、先はまだ長そうだと覚悟を決めた。
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