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第一章
23.金の花と共に受け継ぐ名③
しおりを挟む「ところで、カトレア嬢」
「はい、何でしょうか?」
「母君の宝石箱は、今持っているだろうか?」
「あ、はい。持っていますが……ご覧になられますか?」
一月前、持ち物を全て売り払われてしまって以来、カトレアは残っている持ち物を全て通学鞄の中に入れて持ち歩くようになった。
留守中にライラが家捜しをして、勝手に処分してしまわないようにするためである。
「ああ、君さえ良ければ見させてもらえるかな。あと、記録もさせてほしい」
「え、っと……ボロボロになっていますが、よろしいのですか?」
「勿論、今の状態を記録したいんだ」
「わかりました」
カトレアは、通学鞄から、セレーネの宝石箱を取り出すと、アルベルトに無言で促されて机に置いた。
アルベルトは箱の状態を確認すると、タイピンを掲げ、箱の四方を記憶させる。
「中はどうなっているんだい?」
「あ、今開けます」
カトレアは宝石箱の鍵を取り出すと、解錠した。
「今は継母の目を誤魔化すためにいくつかの装飾品が入れてあるのですが……」
カトレアは箱の蓋を開けると、中に入れてあった装飾品を取り出した。
「ありがとう。……カトレア嬢、ここを見てごらん」
アルベルトが蓋の内側に刻まれた小さな紋章を見つけ、カトレアにも知らせる。
それは、グランシア公爵家の紋章であった。
「これは……」
「君ならわかるだろう? これは、グランシア公爵家の紋章だ。先ほど公爵と会った際、ここに紋章が刻まれていることを教えてもらったんだ」
「そうなんですね、私は一度開けたきりなので気づきませんでした」
「この宝石箱は、随分と年季が入っているようだから、恐らくアマリリス姫に贈られたものだと思われる。ただ、この件は王家は勿論、グランシア公爵家にも伝えられていなかったため、推測の域を出ないのだけれどね……」
アルベルトはそう言って、箱の内側と蓋の内側の記録を取った。
「記録を取ったから、もうしまって良いよ。ただ、後日、実物が必要になる可能性もあるため、そのときはまた協力してほしい」
「はい、いつでも仰ってください」
カトレアは承諾すると、箱の中に装飾品をしまい、施錠した。
そして、通学鞄にしまい込む。
「そういえば、その宝石箱の装飾に使われていた宝石の種類はわかる?」
「あ、はい。ルビーとエメラルド、ダイヤモンドです」
宝石箱の装飾は、バラの花を模ったもので、ルビーは花の部分、エメラルドは葉と茎の部分になっており、ダイヤモンドは小さく加工されたものがバラの周りにちりばめれていた。
ちなみにライラは、これらの宝石を剥がした後、懇意にしている宝飾品店に預け、バラの花はそのままイヤリングに、葉の部分は石そのものを加工させた上でダイヤモンドと併せて指輪にし、今でも常に身に付けていた。
「なるほどね……」
アルベルトは、カトレアの説明を聞くと、ニヤリと笑った。
「その宝飾品店は、どこの店か知っている?」
「あ、いえ……それはわかりません。私がいつも利用させていただいているお店とは違うということはわかるのですが……」
宝飾品に限らず、ドレスや鞄、靴など、専門の職人が手掛けた品は、店によって雰囲気がかなり違っている。
また、それは職人の腕や店の格によっても変わってくるため、大抵の人は自分の好みに合う店や職人を選んで利用する。
カトレアが利用する店は、グランシア公爵家が昔から懇意にしている店であり、最高品質の品を取り揃えている店であった。
その店の品は、派手好きなライラの好みには合わず、またセレーネも利用していた店であることから、ライラには忌避されている。
「それじゃあ、探しに行こうか」
「えっ?」
驚き困惑するカトレアに、アルベルトはニッコリと微笑んだ。
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