26 / 58
第一章
23.金の花と共に受け継ぐ名③
しおりを挟む「ところで、カトレア嬢」
「はい、何でしょうか?」
「母君の宝石箱は、今持っているだろうか?」
「あ、はい。持っていますが……ご覧になられますか?」
一月前、持ち物を全て売り払われてしまって以来、カトレアは残っている持ち物を全て通学鞄の中に入れて持ち歩くようになった。
留守中にライラが家捜しをして、勝手に処分してしまわないようにするためである。
「ああ、君さえ良ければ見させてもらえるかな。あと、記録もさせてほしい」
「え、っと……ボロボロになっていますが、よろしいのですか?」
「勿論、今の状態を記録したいんだ」
「わかりました」
カトレアは、通学鞄から、セレーネの宝石箱を取り出すと、アルベルトに無言で促されて机に置いた。
アルベルトは箱の状態を確認すると、タイピンを掲げ、箱の四方を記憶させる。
「中はどうなっているんだい?」
「あ、今開けます」
カトレアは宝石箱の鍵を取り出すと、解錠した。
「今は継母の目を誤魔化すためにいくつかの装飾品が入れてあるのですが……」
カトレアは箱の蓋を開けると、中に入れてあった装飾品を取り出した。
「ありがとう。……カトレア嬢、ここを見てごらん」
アルベルトが蓋の内側に刻まれた小さな紋章を見つけ、カトレアにも知らせる。
それは、グランシア公爵家の紋章であった。
「これは……」
「君ならわかるだろう? これは、グランシア公爵家の紋章だ。先ほど公爵と会った際、ここに紋章が刻まれていることを教えてもらったんだ」
「そうなんですね、私は一度開けたきりなので気づきませんでした」
「この宝石箱は、随分と年季が入っているようだから、恐らくアマリリス姫に贈られたものだと思われる。ただ、この件は王家は勿論、グランシア公爵家にも伝えられていなかったため、推測の域を出ないのだけれどね……」
アルベルトはそう言って、箱の内側と蓋の内側の記録を取った。
「記録を取ったから、もうしまって良いよ。ただ、後日、実物が必要になる可能性もあるため、そのときはまた協力してほしい」
「はい、いつでも仰ってください」
カトレアは承諾すると、箱の中に装飾品をしまい、施錠した。
そして、通学鞄にしまい込む。
「そういえば、その宝石箱の装飾に使われていた宝石の種類はわかる?」
「あ、はい。ルビーとエメラルド、ダイヤモンドです」
宝石箱の装飾は、バラの花を模ったもので、ルビーは花の部分、エメラルドは葉と茎の部分になっており、ダイヤモンドは小さく加工されたものがバラの周りにちりばめれていた。
ちなみにライラは、これらの宝石を剥がした後、懇意にしている宝飾品店に預け、バラの花はそのままイヤリングに、葉の部分は石そのものを加工させた上でダイヤモンドと併せて指輪にし、今でも常に身に付けていた。
「なるほどね……」
アルベルトは、カトレアの説明を聞くと、ニヤリと笑った。
「その宝飾品店は、どこの店か知っている?」
「あ、いえ……それはわかりません。私がいつも利用させていただいているお店とは違うということはわかるのですが……」
宝飾品に限らず、ドレスや鞄、靴など、専門の職人が手掛けた品は、店によって雰囲気がかなり違っている。
また、それは職人の腕や店の格によっても変わってくるため、大抵の人は自分の好みに合う店や職人を選んで利用する。
カトレアが利用する店は、グランシア公爵家が昔から懇意にしている店であり、最高品質の品を取り揃えている店であった。
その店の品は、派手好きなライラの好みには合わず、またセレーネも利用していた店であることから、ライラには忌避されている。
「それじゃあ、探しに行こうか」
「えっ?」
驚き困惑するカトレアに、アルベルトはニッコリと微笑んだ。
44
お気に入りに追加
2,881
あなたにおすすめの小説

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる