義妹の策略で婚約破棄された高嶺の花は、孤高の王太子に溺愛される。

胡桃

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第一章

21.金の花と共に受け継ぐ名①

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「……初代グロリオーサ王家の紋章、ですか?」

 アルブレヒトがカトレアの持つペンダントを直に確認した後、語った内容はカトレアにとって酷く衝撃的なものだった。
 母の形見だと思い大切にしていたものが、国宝級の代物であったなんて想像もしていなかったから。

「そうだ……と言っても、私自身、今ここで見せてもらうまで、実物を見たことがなかったため半信半疑だったが……まあ、間違いないだろう」

 グロリオーサ王家に代々口伝でのみ伝わる伝承によると、初代グロリオーサ国王ジーニアは、王妃アルメリアをとても愛しており、アルメリア妃の名でもあるアルメリアの花を紋章に使用していたという。
 そして、たった一人の愛娘であるアマリリス姫が、己の専属であった近衛騎士――グランシア公爵家の嫡男に恋をしたことで、いろいろな変化が起こった。
 元より王位継承に消極的であったアマリリス姫は、自らの王位継承権を放棄して、グランシア公爵家へ降嫁することを望んだのだ。
 ジーニア王とアルメリア妃の間に生まれた嫡子は、アマリリス姫ただ一人であったため、二人はとても悩んだ末に、ある条件をつけてアマリリス姫の降嫁を認めることにした。
 それは、アマリリス姫がグロリオーサ王国の王女としてではなく、別人として嫁ぐことであった。
 ジーニア王ともアルメリア妃とも縁を切るという徹底したものであったが、いずれ訪れるであろう後継問題に、アマリリス姫たちを巻き込みたくないという親心からの提案であった。
 両親の深い愛を受け取ったアマリリス姫は、両親の提案に乗り、“リリー”と改名してグランシア公爵家に嫁いでいった。
 このとき、グロリオーサ王家は、アマリリス姫が急病によって亡くなったと公表し、同時に紋章を名前の通りグロリオーサに変え、アルメリアの紋章は、嫁いでいくアマリリス姫に持たせることにしたのだ。
 それが、今カトレアが持つ純金製のペンダントのことである。
 現代には、もうどこにも残されていないその紋章は、グロリオーサ王家とグランシア公爵家の両家しか存在を知らず、どちらも後継者にのみ口伝で伝えられているだけであった。

「先程、グランシア公爵に聴取をした際、魔導記録装置に記憶させたペンダントの紋章を確認してもらい、彼が妹――君の母君に持たせたもので間違いないと証言してもらった」

 アルベルトの言葉を聞いたカトレアは、確認のために取り出していたペンダントを見つめた。

 (これが、そんなにも凄いものだったなんて……)

「グランシア公爵の話によると、このペンダントは代々グランシア公爵家直系の長女が受け継いでいるそうだ」

「え……では、これは私ではなく、アメリアお姉様が受け継ぐものなのですか?」

 カトレアは、現グランシア公爵の長女である一歳上の従姉の名前を挙げた。

「いや、言っただろう? グランシア公爵家・・・・・・・・直系の長女・・・・・だと」

「え? えぇ、ですから……」

「……もしかして君は、母君から聞いていないのか?」

「え……何を、でしょうか?」

「……カトレア嬢、君が宝石箱の鍵を母君から受け取った際、何か言われなかったかい?」

「えっと、この鍵が私を守ってくれるから、誰にも奪わせないように、と言われましたが、それ以外には何も……」

「そうか……陛下、この件は僕の口から伝えることはできませんので、お願いします」

 アルベルトは、アルブレヒトに話の主導権を渡した――
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